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迷子の行き先

「……それで、結局どうなさいますの?」

思い切り間違い電話をかけた挙句、迷子になって泣きついてきた「メリーさん」を迎えに琴音がストラウル跡地へ向かったのは、つい十数分ほど前の事。一体何をどうやったのか、彼女は目的の相手を伴ってつい先ほど帰宅したところだ。
そして、そんな彼女たちを前に、アオイが発した第一声はそんなものだった。
対する琴音は、連れて帰って来た「メリーさん」にちらりと目線を投げて言う。

「それは、まずこの子から事情を聞かないとね」
「…………」

渦中の当人である「メリーさん」は、見たところ14、5歳くらいの女の子だった。以前は美しかっただろう金髪はすすけ、かかっていたウェーブは乱れてボロボロ。身に着けている服はいわゆる「お人形さん」的な紫基調のゴシックロリータだが、あちこちほつれて無残な状態だ。青色の眼はくすみ、憂いや迷い、そう言ったものがありありと見て取れた。

そんな彼女が、パジャマに着替え直した琴音の横に座り、供された湯呑みで日本茶を啜る光景というのは、かなりシュールなものがあった。琴音の話では、かけて来た時は本気で泣いていたらしいが、今はそう言った様子はなく、割合に落ち着いている。
茶がなくなったのを見計らい、琴音が口を開く。

「それで、あなたは誰なのかしら?」

質問の内容は、基本にしてもっとも重要な誰何の問い。対する「メリーさん」は、怪異としての風格も何もない、全くの素であろう声で応じた。

「あたし、ミレイ」
「ミレイさん、ですわね。……都市伝説を信じるならば、あなたの前身は捨てられたお人形、となりますけれど?」

アオイの問いが疑問形なのは、ひとえにこの地がいかせのごれであるがゆえに。今のこの地では、何が起きても不思議ではない。
イレギュラーが発生する可能性は大いにあった。が、幸か不幸か、ミレイの答えは首肯による肯定だった。

「じゃあ、やっぱりその人達を探して?」
「うん。……あんなに一緒だったのに、大事にするって言ってくれたのに……」

呟くミレイの瞳には、微かだが憎悪が宿っているのがわかった。偽りとはいえ、龍義真精の瞳を持つアオイならば尚更だ。
可愛さ余って憎さ百倍とは言うが、アオイにはそれが痛いほどよく分かった。もし、自分とスザクがその立場にいたならば……。

「そんなことはさせませんわ……姉様はわたくしの……殺してでも……」
「ア オ イ ?」

不意に声をかけられて弾かれるように顔を上げると、満面の笑みを浮かべた琴音が両肘をテーブルについて見つめていた。

「今、何か言ったかしら? 最近耳の調子が悪くてね、私」
「……な、な、何でもございませんわ、母様」
「そう? ならいいわ」

笑顔の裏に羅刹と修羅が潜んでいるのをこれでもかと言うほど感じ取り、冗談抜きで命の危機を感知したアオイは慌てて前言撤回した。それと同時に琴音が発していたプレッシャーが消え、リビングに静穏が戻る。

(あ、あ、あ、危ないところでしたわ……姉様のことになるとすぐにブレーキが壊れるのは、わたくしの悪癖ですわね)

最近物凄い勢いでヤンデレ化が進んでいるのはアオイ本人も自覚しているが、わかっていても治せないのはどうしたものか。ともあれ、そんな場合ではありませんわ、と意識を強引に切り替える。

「……さておき。あなた、捨てられたのはどれくらい前ですの?」
「……よく覚えてない。とっても前だった気がする」

さて、いかせのごれにも妖怪や人外の類は色々と存在する。しかし共通しているのは、百物語組以外はその出自や時期がはっきりしない者が多く、「以前からいた」「外からやって来た」のいずれかに該当することだ。翻って、このミレイは、その特性からしていかせのごれで、しかもごく最近生まれた怪異だ。つまり、怪異としては結構な新参に当たるということになる。

「そうですの……では、これからどうなさいますの?」

どうするもこうするも、前の持ち主を追って復讐するのだろう。正直アオイとしては止めたかったが、「メリーさんの電話」という都市伝説が存在の根底にある以上、それが永続的に達成不可能となればミレイは消えてしまう。人外というのは、その根底に流れる概念に存在を大きく左右され、支配されるからだ。これは、「怪談」「都市伝説」を根源とする百物語組に顕著である。

(「しない」のは平気でも「できない」では消える……ややこしいですわね)

そんなことを思うアオイの心境を知ってか知らずか、ミレイはぽつりと言う。

「……追いかけなきゃ」
「見つけられるの?」

即答で切りこんだのは琴音。「メリーさんの電話」は、持ち主がどこに引っ越そうが確実に探り当てるのが特徴の一つだ。ところがミレイの場合、先ほどの間違い電話でわかるように、全く相手を特定できていない。おまけにかけた相手の家を3回も間違えるというありえないミスを犯しており、しかもそこに至る道がまるで違う。

「…………」

ミレイ自身も自覚しているのか、途端に黙り込んでしまう。そんな状態がどれくらい続いたのか、ぽつりと琴音が口を開く。

「……とりあえず、行動拠点くらい決めたらどうかしら? それがあるないで随分違うと思うけど」
「……でも、どこに行けばいいの?」

言われて顔を見合わせる火波母子(外見姉妹)。いざ考えてみると、思った以上に選択肢が少ない。

秋山神社は駄目だ。キリの件で全員がフル稼働しており、春美も今は動けない。
ウスワイヤとアースセイバーも駄目だ。ミレイの目的と存在原理からして、彼らからすれば拘束対象だ。ここまでしておいて引き渡すのはさすがに気が引ける。
天河探偵事務所……ドリーマーをも擁する異端だが、あそこには超方向音痴の流也がいる。一度外出すれば、連れ戻すのにほぼ全員が出払ってしまう。そんなところにミレイがいけば……多分活動が停止する。
アオイの脳裏に浮かんだのはレストランだったが、あれも駄目だろう。ミレイは動き回るタイプだ、一所にはいられない。

「「…………どうしましょう」」

図らずも呟きが重なる。どこか所在無げにもじもじとしているミレイをよそに、その行き先について頭を巡らせる。
と、

「「!」」

二人同時に在る場所を閃いた。もしかしたら、あそこならぴったりかもしれない。

「……母様。もしや」
「ええ。どうやら、同じことを考えたようね」

こくり、と頷き。



「ランカさんのお宅に預けてはいかがでしょうか?」




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最終更新:2012年11月23日 15:04