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アーネンエルベ

「おはようー……あれ?」

 朝、何時も通りに登校したシスイは、教室に入ってから違和感を覚えた。最初はそれが一体何であるか気付かなかった彼であるが、教室全体を見渡して、それから理由に気付いた。

「トキコ、アッシュは?」
「……何で私に聞くのかな、一角君?」
「いやだってあいつ、教室入ったら真っ先にお前のところ行くじゃん」
「……確かに、そーだけど……でも私、パチモンなんか知らないよ」

 どうやら、トキコも知らないらしい。シスイは首を傾げる。

「まぁ、あいつがいない位どうって事ないか……」

 どうせ何時もより登校が遅いだけだ。その内ひょっこり現れる。そう思い、シスイは自分の席に着くが――

 ――その日、アッシュが姿を現す事はついになかった。

 ――・――・――

「単刀直入に言います。お義父さん、娘さんを下さい!」
「あ゛?」

 半眼になりながら、シギは目の前の少年を睨んだ。百戦錬磨の看守長。しかし彼に睨まれても、アッシュの笑顔はビクともしない。

「なんちゃって♪」
「おい、ふざけんなよクソガキ……ああ、お前か。なんか、トキコにやたらちょっかい出してる小僧とか言うのは」

 じ、とシギは爪先から頭の上までアッシュを観察する。やはりアッシュは気負った風ではなく、あくまで自然体だ。

「言っておくが、あいつは俺のもんだ。てめぇみたいなガキにくれてやる謂れは無い」
「いいや、違うね。あの子は貴方のものなんかじゃない」
「あ゛? じゃあ、誰のものだって言うんだよ?」

 まさか自分のものだとでも言うのか。そんな風にシギが思っていると、アッシュは自分の目の前に人差し指を立てた。

「そんなの、あの子自身のものに決まってるじゃないか」
「…………」

 少し、予想外の答えだった。シギはアッシュの姿とダブって、銀髪の薄ら笑いが見えた気がした。

「……ハッ。ジングウとか言ったか。あいつんトコの奴はどいつもこいつも、そんな事言うのか?」
「ただ単に、その子が彼に似ただけよ。聞くところによれば、この子の父親は彼らしいから」

 答えたのはアッシュではなく、その足元からだった。シギが視線を下げると、そこには一匹の黒猫が。

「……今喋ったの、そいつか?」
「ええ、そうよ。私はフレイ・ブレアフォレスト。まだ五十年ぐらいしか生きていないけれど、一応は霊猫の一種よ」
「……何でもありなんだな、いかせのごれ」
「まぁね。これ位で眩暈起こしてるようじゃ、いかせのごれで暮らせないよ、シギさん」
「別に暮らすつもりなんか無ぇよ」

 どうにも、アッシュと会話しているとペースを乱される事をシギは感じていた。これが彼の「戦術」なのだろう、とも。苦手な相手だ、とシギは内心で舌打ちをした。

「んで……ホウオウグループが何しにここへ? まさか、また新しい実験体でも探しに来たのか?」
「いえ。掘り出し物を探しに来たのは間違い無いですが、今回は別件で」
「別件?」
「ええ」

 言って、アッシュは地面を指差した。彼の言わんとしている事に気付いて、シギは怪訝そうな顔をして頭を掻いた。

「お前らな……あんな都市伝説、真に受けてんのか」
「いいえ、大真面目です」
「いや、可笑しいだろ。あんな噂」

 シギの語る噂。
 それはかつて、ここには軍事施設があり、それを建てたのが旧ドイツ軍、つまりナチスであったと言う事。施設は地下にまで及び、その地下には、ナチスの内部機関である民族遺産管理局が集めた膨大な数のアーティファクトやオーパーツが集められている。施設が無くなった今も、それらは地下に眠っている、と言う噂だ。

 <アーネンエルベ>

「さて……まずは入り口を探さないとね、フレイさん?」
「そうね。『悪夢迷宮』、なかなか手強そうだわ」
 

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最終更新:2012年11月23日 15:11