ある日の
あやかしの里。
いつも通り、平穏な時が流れているこの村落で、「おさん狐」という、三匹の狐妖怪が何かを話していた。
「暇だわね」
「そうねえ…」
「平和なのは良い事でしょうけど。何か面白いことは無いかしら」
どうやら暇潰しになる事を求めているようだ。
尻尾を振り思案する中、一匹が閃いた様に言った。
「そうだわ! 人間界に行きましょ!」
「人間界に?」
「何しに?」
「ふふふ…久しぶりに人間をからかってやるのよ!」
黒い眼を細め、悪戯っぽく笑う一匹のおさん狐――闇(あん)。
張り切っているようにも見える。
それを聞いた二匹は怪訝な顔をした。
「でもそんな事したら、親王からお咎めもらっちゃうわよ?」
「へっちゃらよ。殺す訳じゃないんだから、そんな重い罰は来ないわ」
「そうね…そうよね。最近どんな能力者がいるのか、少し気になってたし」
「じゃあ早速行きましょ!」
「なあ幽花ー。近道つったって、別に急ぐ事もないだろ?」
「………………」
「(やっぱ駄目か…)…ま、最近色々あるし、気を付けろよ」
一方、遊利と幽花は寺院までの近道として、ストラウル跡地を歩いていた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
(いつもの事だけど何か、重ッ!)
妙な沈黙に遊利が耐えかねたその時。
「………」
「? どうした幽花?」
「……………来る」
「へっ…? ッどわぁ!?」
「………」
突然、炎の身体をした竜が躍り出た。
幽花は逸らしただけで難なく避けたが、遊利は尻餅をついてしまう。
「な、何だよ今の…」
「…………」
「…とりあえず、構えといた方がいいよな」
と、遊利の影から標識が現れる。
彼はそれを掴むと、一回転させて構えた。
「さて、どこから来るのやら…」
「……………」
「幽花、何か分かるか?」
「……………」
相変わらず何も言わない幽花だが、視線は動いている。
やがて一点にそれが定まると――。
「そこか!」
と踏み出したと同時に、そこから炎の竜が二人に向かってきた。
遊利は標識でそれを受け流す。
竜はその衝撃で散るように分断された。
「…………それ、まやかし」
「まやかし?」
「…………」
「! また来た!」
再び躍り出た竜を標識であしらう。
分断された竜は更に数が増えた。
「うーん、これじゃあキリがねぇな…幽花、どうする?」
「…………止めて」
「止める? …ああそうか! 俺ってば、何で気付かなかったんだろ」
「…………馬鹿だから」
「え?」
「………」
「………まあいいや。ホラ、かかって来な!!」
遊利の挑発に乗ったらしい竜は、さっきまでには無い猛攻で向かって行く。
そして遊利は標識を地面に突き刺し――。
「”止 ま れ”!」
その言葉に反応したかの様に、標識のマークが『止まれ』に変わった。
すると竜は弾かれたかの様に吹っ飛んだ。
何度も飛んでいくが、結果は変わらない。
「無駄だぜ。『止まれ』つったからな」
「…………」
「? 幽花?」
「狐………三匹……」
「狐?」
「なっ何で分かったのよぅ…!?」
一角の廃ビルの陰で、黒眼の狐がそう呟く。
すると頭に花をつけた狐――藤波が、何かに気付いたように言った。
「もしかしてあの娘、陰陽師じゃない?」
「え、嘘!?」
「だって、一般人にしては強い霊力を感じるし…」
「…そういえば…」
「おーい!」
(ビクッ)
「別に怒ったりしないからさー、出てきてくれね?」
「…どうする?」
「出ましょうよ。もうこれ以上は無理なんだし」
「そうねえ…」
「あっ、出てきた!」
「…………」
(ねえ、あの娘怒ってるのかしら…)
(さ、さあ…)
二人の前に現れたのはいいが、幽花の「無」しか感じられない雰囲気に、狐達は思わずたじろいでしまう。
そんな事を知ってか知らずか、遊利は狐達に近付いてこう聞いた。
「なあなあ、お前らってここに住んでんの?」
「あ、いや…違うわよ?」
「私達は普段、あやかしの里にいるの」
「あやかしの里…ああ! 守人の妖怪が治めてる集落だろ?」
「そうよ。よくご存知で」
返事をしたのは茶色の毛混じりの狐――麦。
「まあ、身分が身分だけに、な。じゃあ何でここに?」
「今日は暇潰しに人間をからかってみようと、ここに来たって訳」
「そうか。でも何か言われたりしないのか?」
「平気よ。怒られるだけだから」
「はは、肝が据ってんなあ」
「…ところで、そこの娘は機嫌が悪いのかしら?」
「…………」
「ああ、あいつはアレが普通だから」
「そ、そう」
「…まあ、俺自身は別に、それやられても気にしないけどさ……あまりここ寄らない方がいいぜ」
「あら、どうして?」
「いつもの事だけどよ、最近は更に増して物騒なんだよ。兵器がめっちゃ出没するし…」
「
ホウオウグループの?」
「どんな兵器なの?」
「そうだな、例えば――」
「コイツとか」
ガキィイン!
「!?」
「えっ…いつの間に…?」
「さっきまで居なかった筈よね!?」
突如、遊利の真後ろに現れた人型大の機械兵器。
パニッシャーだ。
「もしかして、コイツが?」
「ああ。中々厄介だぜ」
「! あっちからも来たわよ!」
「こっちからも!」
「チッ、1体だけじゃなかったか……お前ら、俺が惹き付けとくから、隙を見て逃げろ!」
「あら、私達だって戦えるわよ」
「けど!」
「そうそう、これでも妖怪のはしくれ。弱いだなんて思わない事ね」
「………分かったよ」
諦めた様子で溜め息をつく。
「そこの娘、陰陽師でしょ?」
「…………うん」
「やっぱり。…お手並み拝見ね」
「……………」
「来るぞ!」
パニッシャーがマシンガンを構える。
そこで闇が先手を打った。
「私のまやかしは機械でも効くわよ!」
口から氷の息を吐き出し、パニッシャーを凍らせる。
勿論まやかしなのではあるが、それは機械ですら錯覚させるほどに強力なものだ。
「流石狐妖怪!」
そこを突いて、遊利が標識でパニッシャーを叩き潰す。
「…………」
「ちょっと、陰陽娘! アンタも戦いなさいよ!!」
「…………」
「ちょっと聞いてるの!?」
「闇! 危ない!」
「!」
ふと前を見ると、パニッシャーが闇にライフルの銃口を向けていた。
やられる――と思った瞬間。
バチィッ!
「え……?」
気付けば、視界を覆うように幽花が立っていた。
手には青色の、水晶の様な剣。
「……護身剣…」
「……あの」
「?」
「…ありがと」
「…………………」
(無視か!)
闇はお礼を述べた事を少し後悔した。
「闇、大丈夫!?」
「何とかね」
「それにしても、ちょっと数が多すぎない?」
麦が不安そうに言う。
まだ20体はいそうだ。
「これ、全部壊せるかしら…」
「私達はまやかしを操れるだけだし…」
「……………しょうがねえか」
「え?」
遊利が一歩前に出る。
「ちょ、ちょっと! 撃たれるわよ!?」
だが遊利は気に留めない。
目を閉じ、何かに集中し出した。
すると藤波が驚いた様な顔をする。
「霊力が…溢れてる…! それも陰陽娘よりも! たくさん!」
「行け、幽霊船」
オォォオオォオオオオォォオオオオオォォォォォオオォオオオーーーーーー…!!!!!
彼の影から、背筋が凍り付きそうな、ぞわりとする雄叫びを上げる『何か』が大量に現れる。
その形は千差万別で、透明だったり、黒い塊のようだったり、骨の様な手だったり。
全て、影という名の船の乗組員…『幽霊』なのだ。
幽霊達は手を伸ばす様に、パニッシャーの大群に向かっていく。
倍の数の幽霊に囲まれるパニッシャー。
攻撃を仕掛けるが、幽霊である彼らに効く訳がなく、無駄な行為に等しい。
やがて成す術もなくなった機械兵器は、幽霊達に呑み込まれ、跡形も無く消え去った。
「………」
「全部、消えた……」
「…戻れ」
遊利の一言で、幽霊達は影の中に帰って行った。
その時闇が。
「アンタ…人間じゃないのかしら?」
「え!?」
「……ああ。お前らと似たようなもんさ」
「ふふ、道理でただならぬ気を感じた訳ね」
「ま、ちょっと違うけどな」
と。
「カァー! カァー!」
「ん? カラス?」
「げ、アレは…」
「親王の使いの骨鴉!?」
焦り出す狐達。
カラスは彼女らの傍に来ると、持っていた頭蓋骨から降りた。
すると――頭蓋骨が口を開いた。
しかも声も出た。
《闇、藤波、麦。また人間に悪戯してたのか?》
「…また?」
「………常習犯」
「えへへ…それより、どうしてここだと…」
《占 い で》
『ですよねー』
《全く…しかも兵器に襲われたらしいではないか。そこの二人が居なかったら、どうなっていたか…》
「う…すいません……」
《罰として1週間油揚げ禁止》
『そ、そんなぁ~~~!!!』
幽霊少年と現身少女と狐
(遊利は嘆く狐達を見て苦笑し)
(幽花は無言で見つめ)
(狐達は親王に何とかお許しを貰おうとしていた)
最終更新:2012年12月01日 18:16