「みーちゃん、大丈夫…か、なあ…」
1年の男子生徒で希流湖の弟、倉丸は、今は保健室にいるであろう、友人のみくを心配していた。
というのも、先程憤慨してた鶴海に会い、事のいきさつを聞いたからである。
「それにして、も、ユッケ、君…容赦ない、な~…い、いくら虐めっ子、でもじょ、女子を締め上げ、る…なんて、ぼ…僕にはとても出来ない、や」
「へぇ、そうなんだー」
「え?」
突然後ろから聞こえた声と共に、頭に衝撃が走った。
誰かに殴られたのだ。
「い、た…」
「そーいやアンタ、姉貴がいるといっつも後ろにいるよねー」
「シスコンキモー」
次々に言われる悪口。
いつもみくを虐めている女子達のものだ。
元々気の弱い倉丸には、それだけでもダメージが大きかったらしく、涙目になっている。
「これで泣くとかどんだけ軟弱者?」
「ハリマみたーい」
「確かにー!」
「ち、ち、違うもん!」
「は? 何が?」
「みーちゃん、は、僕よ、り…つよ、強いよ!」
涙目で癖のどもりはあるが、とてもハッキリとした声音でそう言った。
その言葉にか、それとも様子にか、癪に障ったらしい女子の内の一人が舌打ちする。
「っせーな弱虫の癖に!!!」
「ッ!」
「やり返してみろ!!」
「まあどうせ出来ないよねえ!!!」
「や、めて…やめて、やめて…いた、痛い、痛いよ、やめ、てよ…!」
縮こまる倉丸を蹴り続ける女子達。
気も力も弱い倉丸は、ただただ泣いて「やめて」と懇願するしか無かった。
と。
ドゴッ!!
「ぐぇ!?」
「!?」
「えっ…?」
一人が誰かに背中を蹴られた。
驚いた倉丸と女子達が後ろを見ると―――。
「か…幽花先輩?」
ボリュームのあるふわふわした茶髪に冷めた目付きの黒目、校内なのに拘わらずローラースケートを履いたその出で立ちは、このいかせのごれ高校でも一風変わっている為、倉丸もよく覚えていた。
「な、何よいきなり!」
「てかソレ、学校で履いて良いと思ってんの!?」
「先公に言い付けるよー?」
「…………」
相変わらず無口な幽花。
しかし倉丸はいつもと様子が違うのに気付いた。
いつもは感情の感じられない目をしているのだが、この時は強い憤怒を放っている。
何も言わない幽花にイラついた女子が噛みつこうとした瞬間。
幽花が思いきり顔を殴り付けた。
『!!?』
予想だにしなかった展開に体が固まる倉丸達。
幽花をよく知らない女子達でも、明らかに力が弱そうなのは分かる。
それだけに驚きを隠せなかった。
そのまま倒れた女子を、幽花は床に押し付けて殴り続ける。
「ちょ、ちょっと!」
「何やってんのアンタ!?」
「…っ、幽花、先輩! 駄目です! やめ…やめて下さい!!」
だが幽花が止まる気配は無い。
よく耳を済ますと、何かをぶつぶつ言っている。
「虐めなんて…虐めなんて…虐めなんて…」
と殴られている女子が。
「っテメェ、タダで済むと思ってんのか!! 消えろよ!!」
ピタッ
「…?」
「…………」
幽花の動きが止まった。
と思いきや、左手を翳した。
すると。
(ブレスレットが…?)
幽花がそれぞれの手首に嵌めているブレスレットの内の、赤いブレスレットが、一瞬だけだが、チカッと光った。
一方女子達は、幽花から溢れ出る殺気に言葉も出ないらしく、口をパクパクさせている。
押さえつけられている女子は最早涙目だ。
「消えるのは…”お前ら”……あの人を、大切な、あの人を、殺した、虐めを、した、”お前ら”が―――」
「 シネ バ イ イ」
「やめろ幽花!」
「!」
幽花の左手を掴む手。
彼女のクラスメイトである遊利だった。
「お前の気持ちは正しい。けどやり過ぎたら元も子もねーぞ?」
「………」
「つか、お前…いつもと様子がおかし―――」
「五月蝿い」
遊利の言葉を遮るように、幽花は彼の掴んだ手を振りほどいた。
そして、いつの間にか気絶している女子に張り手した後、そこから降りて去っていった。
「幽花…先輩…」
「…っと! 倉丸、大丈夫か!?」
「あ、はい…か、幽花せん、先輩が、助け、て…くれ、くれたの、で…
「…そっか。…とりあえず、後で保健室行きな」
「はい、あり…ありがとうご、ございます」
古傷
「でも幽花、先輩…何であんなにおこ、怒ってたんだ、ろ……まるで…虐めを憎んでる、ような……それに」
誰かを思うような悲しそうな目を―――…
最終更新:2012年12月05日 16:36