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銀角 VS ドグマレンジャー

ホウオウグループ支部施設内、旧閉鎖区画。

 そこにある、生物兵器の性能をテストする為の闘技場。コロセウムにも似た場所に、数人の人影があった。

 一人は、銀色の角(アッシュ)。彼専用のバイコーンヘッドではなく、普通のバトルドレスを身に着けている。ヘルメットを装着していない為、頭は剥き出しになっている。

「さぁ、かかっておいで、ドグマレンジャー」
「誰がドグマレンジャーだ、誰が! おらぁ!」

 そう言って、灰色の髪の少年――リキは、巨大なハンマーを振り上げて突っ込んでくる。その動きに対応して、アッシュは自分の身体にオーラを纏わせた。

「ジェットハンマー!」

 リキが叫ぶと、それに反応するようにハンマーが動いた。打突部位とは逆方向の部分が火を噴き、ハンマーを加速させたのだ。自身の膂力、更に持った物の重量も筋力に加算する彼の能力「ビスウィレース」、そしてジェット加速。三つが組み合わさり、破城槌のような勢いでアッシュに襲い掛かった。

 意外にもアッシュの身体は呆気無く吹っ飛んだ。彼の身体は後方へと飛び、しかし何事も無かったかのように着地する。その様子に、リキは舌打ちした。

「野郎……」

 スウェーバックで威力を殺したのだろう。格闘技ではよく見られる技術であるが、今のリキが放ったような「必殺」の威力を前に、ここまでダメージを殺せるのはそうそういない。バトルドレスの防御力と、それを引き上げる麒麟の力、そしてアッシュが持つ技術。この三つが無ければ、こうはいかないだろう。

『今度は、僕の番だ!』
「!」

 頭上から振って来た声にアッシュが顔を上げる。するとそこには、鋼色の人影があった。四つの眼が光っている。それは見るからに機械仕掛けと分かる人形だった。

『そぉれ!』
「く……」

 人形が踵落としをアッシュに振り下ろす。それをアッシュは、両腕を交差させて受け止めた。相当な重量、そして機械自体が持つ力も相当なものなのだろう。アッシュの身体が僅かに沈んだ。

 空中で身体を回転。踵落としからの流れで、人形が回し蹴りを放ってきた。交差させた腕の片方で、アッシュはそれを受ける。完全に威力は殺せなかったものの、頭部への直撃を免れた。

「お、お願いしますっ!」
「っ! 今度はブランちゃんか!?」

 オレンジ色の髪の少女が飛びかかってくる。その両手に作った手刀は、文字通りどころか本物の刃と化しており、アッシュの首筋目掛けて突き出して来る。

「駄目駄目、ブランちゃん。そんな見え透いた動きじゃ避けられちゃうって?」

 アッシュはブランの動きを、必要最低限の動き――と言うか、首を動かすだけで回避していく。

「例えば、こんな風に、」
「きゃっ!?」

 アッシュの足が、ブランの足を払い上げた。彼女の華奢な身体が宙を舞い――地面に叩きつけられる前に、その身体をアッシュが抱き留めた。その首元に、彼は自分の手刀を突きつけている。

「絡め手を入れて、相手の動きを崩す」
「は、はい……」
「ん? どうしたの?」
「あ、アッシュさん、顔が近い……」
「何で僕の顔が近いと、君の顔が赤くなるのかな?」
「そ、それは……」

 視線が泳ぎ、口がごにょごにょと動く。そんな彼女にお構いなしに、更にアッシュは顔を近付けた。

「ねぇ……何で?」
「あ、あうぅ……」
「ちょっと、コラー!」

 怒声の飛んで来た方にアッシュが顔を向けると、紫色のポニーテールを振り上げながら、レンコが向かって来る。

「来たな、ドグマパープル」
「やかましいわ、このタラし二本角!」

 レンコが殴り掛かろうと拳を振り上げる――と、そんな彼女に向かって、アッシュはブランを押し付けるようにして投げた。突然現れたブランを殴る訳にはいかず、慌ててレンコは彼女を受け止めた。

「とっとと――何しやが、」
「はい、これで二人アウト」

 鼻先に手刀を突きつけられ、レンコは思わず言い掛けていた言葉を飲み込んだ。もしアッシュが本気であれば、彼女の首が飛んでいたのは明白だからだ。ぐ、とレンコは歯噛みする。しかしすぐに、彼女は不敵に笑った。

「おっと――足元注意だよ、旦那」
「!」

 アッシュがその場から離れるのと、彼の足元を砕いて「何か」が飛び出してくるのはほぼ同時だった。飛び出して来た「何か」は高速で回転しており、まるでドリルを彷彿とさせる。避け損なった右足がそれに掠り、バトルドレスの装甲を抉った。

「っ――出たな、ドグマブルー」

 ドスンと、重量感のある音と共にそれは地面に着地した。六本の足の着いた円錐、その頂点部分に人の上半身が付いている。上半身は十五歳位の青い髪の少年で、赤い吊り目で見下ろすようにアッシュを見つめていた。

「やるぞ、リキ、エレクタ。連携攻撃だ!」
『りょーかい!』
「魎、俺に命令すんな!」

 アッシュを三方向から包囲し、まずは機械仕掛けの人形――エレクタが突っ込む。この身体は義体であり、エレクタはその能力によってこの身体に乗り移り、操っているのだ。

「それそれそれ!」

 矢継ぎ早に攻撃を繰り出し、アッシュの動きを止める。その背後に向かって、リキが突進して来た。

「ジェットハンマー!」

 轟音と共に迫るハンマー。エレクタは既にリキの声を合図に、その場から離れている。死角から襲い掛かって来たハンマーが、がら空きの背中に叩き込まれる。

「ぐ――!?」

 ごぶっ、とアッシュの口から血が零れる。だが自身の受けたダメージに構う事無く、アッシュはリキの方に振り返った。技後硬直で動きの止まっていたリキは、まさかアッシュが反撃してくるとは思わなかったのだろう。その瞳を、驚きで大きく見開いている。

 しかし、その拳がリキに振り下ろされる事は無かった。リキに当たる寸前のところで、拳が止まっている。拳には鎖が巻き付いており、それは魎の下半身である機械の部分から伸びている。

「させないよ」
「チッ」

 反対の拳を振ったが、リキは既に拳の届かない場所まで逃げていた。拳は空を切る。

「……やるね」
『まぁね? そんじょそこらのチームとは付き合いが違うし?』
「前の模擬戦の時はあの忌々しい二本角だったが、今日はただのバトルドレスだしな……鎧を着ていない麒麟一頭に劣るほど、自分達ドグマシックスは弱くない」
「ってか、セクハラバイコーンに負ける訳ねぇだろ!」
「……ふふふ」

 口々に自分達を鼓舞する三人に、アッシュは笑った。その様子に、魎は背筋に寒気を覚えた。

「ブランちゃんとレンコちゃんは女の子だから手加減したけど……君達男にかける情けはいらない、よね?」
「ッ――!? エレクタ、アッシュの動きを、」

 止めろ、と言った時には、魎の身体は宙を浮いていた。一瞬何が起こったのか理解出来なかったが、すぐに分かった。アッシュの動きを止めようと巻き付けた鎖。その鎖を使って、アッシュが魎の身体を振り上げたのだ。

「あ――」

 もし義体に表情を作る機能があったのならば、その時エレクタはぽかんと口を開けていたに違いない。彼の眼前に迫っていたのは、アッシュが放り投げた魎の身体だったのだから。

 魎の巨体に押し潰されるようにして、エレクタが倒れる。エレクタ、と叫んで慌てて魎が身体を起こそうとするが、落下時の衝撃によって足が折れており、思うように身体を持ち上げられない。

「は――」

 身動きの取れない魎の目の前に、アッシュが現れた。彼は魎の腹に一発入れる。魎を黙らせるのは、その一撃だけで十分だった。

「野郎ッ!」

 ジェットハンマーの加速を利用し、激昂したリキが向かう。しかし、怒りによって直線的になった動きと、何より先程までと違ってリキ一人と言う事実。そんな彼を倒すのは、アッシュになら造作も無い。

 振り下ろしたハンマー。しかし、それは今度アッシュを捉えられない。大振りになった動きは、ジェット加速によって助長され、戦場において致命的な隙を生む。そうしてがら空きになった首に、アッシュが手刀を入れる。その一撃で、リキの意識は刈り取られた。

「…………」

 まさに電光石火。目の前で起きた出来事に、ブランもレンコもただ驚いて固まっている。そんな二人に向かって、アッシュは笑いかけた。

「ねぇ、ここまでにしない?」

 憎らしいまでの勝者面に、レンコは悔しいと思いつつも、降参、と告げた。

 ――・――・――

『ありがとうございましたー!』

 一対五で頭を下げる。ちなみにエレクタは義体が破損してしまったので、ハードを移し替え、レンコが持つパソコンの画面に映っている。

「ぐあー! くそっ、また負けた!」
「ただのバトルドレス、しかもメット無しに負けるとか……」
「五対一なのにねー」
「「うぐっ!?」」

 アッシュの言葉に、思わずリキとレンコは言葉に詰まる。そんな二人の様子に、エレクタがケラケラと画面の中で笑った。

『あははは、おっかしー!』
「エレクタ、お前はどっちの味方なんだよ!?」
「……しかしアッシュ、あんた強いな」

 静かな言葉の中に尊敬の色を含めながら、魎が言う。そんな彼に向かって、アッシュは嬉しそうに笑った。

「ありがとうね、五人とも。おかげで、いい特訓になったよ」
「あ、いえ。私達の方こそ、ありがとうございました」
『またね、アッシュー』
「次戦う時まで、もっと強くなっておこう」
「ってか、負かす!」
「今度ブランに変な事したら、承知しないからね?」
「あれ? じゃあ、レンコちゃんにならいいのかなぁ?」

 にやにやと意地悪そうに笑いながら、ずいっ、とアッシュがレンコに身を寄せる。至近距離から見つめられ、レンコの顔が見る見る赤くなった。

「な――ば、馬鹿野郎! ふざけんな!」
「あははは、少しは女の子らしくした方がいいよ、レンコちゃんー?」
「うるせー!!!!!!」

 能力を発動しながら拳を振り上げるレンコから、アッシュはわざとらしく頭を押さえながら逃げ回る。そんな二人の様子に、再びエレクタが――と言うか、残りの四人が笑った。

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最終更新:2012年12月05日 16:38