屋上では、一方的な戦闘が繰り広げられていた。
「ぐっ……!!」
サディコ、ラティオー、そして
クルデーレが召喚した魔物たち。
それらの絶え間ない攻撃を、千羽鶴…千羽望はかわし、あるいは防御し続けていた。
「ちっ、しぶてぇ奴だぜ。とっととくたばってくれりゃあいいのによ」
苛立たしげにサディコが毒づくのも無理はない。
既に相当量のダメージが与えられているのにも関わらず、望は倒れないからだ。
殴っても、切り裂いても、傷が瞬時に再生してしまう。
…流石に、右腕を折った時は腕を押さえて呻いていたが。
「…どうやら、自己治癒力を強化する能力者のようですね」
「どうすんだよ。このままじゃ埒があかねー」
「そうでもありませんよ。見てください」
ラティオーが冷静に望を指差す。
細かな浅い傷は既に治っているが、深い傷は治りが遅くなっている。
狼型の魔物に切り裂かれたらしい脇腹は、血も止まっていないのか左手で傷口を強く押さえている。
「…あれがどうしたっていうんだよ」
「お馬鹿。傷の治りが遅くなっているでしょう。つまり長期戦には向いていないということです」
「ばかって言うんじゃねーよ!!…けど、なるほどな。治るよりも早くぶん殴り続けりゃいいってことか!」
「…………。まあ、そうでいいです。それに…」
「っ……?」
急に望の表情が変わった。
右手で口元を押さえ、咳き込んでいる。
実はラティオーは先程
カイリの能力を奪い、それを使用しているのだが、望にはそれを知る術はない。
ただ、急な息苦しさに戸惑うだけだった。
「これで、先程までのように防御はできないでしょう」
「へっ、じゃあ遠慮なく!」
動きの鈍った望に向かって、サディコが拳を繰り出す。
その拳は、望の頭を正確に捉えて砕く…
「させねーよ」
…ことはできなかった。
「ぎゃっ!!?」
飛んできた風魔が、横から杖でぶん殴ってサディコを弾き飛ばしたからだ。
ついでに降り立つ際に勢いよく翼を羽ばたかせて風を起こすと、息苦しさの原因は吹き飛び、望は軽く咳き込んでから立ち直った。
「!カザマさん!!あの子は…」
「大丈夫。ちゃんと助けた」
「そうですか…よかった…」
安堵の息を吐く望に、風魔は軽く肩を竦める。
明らかに自分のほうがボロボロであるにも関わらず、見ず知らずの少年の心配をするとは。
「…ほんと、甘ちゃんだな」
「はは…すみません…」
「てめぇっ!!よくもやってくれたな!!!」
サディコの拳が飛んできたが、それはすんでの所で風魔の杖に阻まれた。
「…こっちは引き受けるから、あんたは親玉を」
「……ありがとうございます」
物理攻撃を仕掛けてくるなら杖で打ちすえ、空気に細工をすれば翼を強く羽ばたかせて追い払う。
彼ならば、自分よりもうまく立ち回ってくれるだろう。
望は風魔に軽く会釈すると、クルデーレに向かった。
「なぁに?まだやるつもり?」
「……ええ」
頷く望には、既に傷は見当たらない。
「本気?今のあなたに、私が負けるとでも?」
「………やってみなければ、分かりませんよ」
「分かるわ」
望が数歩近寄った瞬間、クルデーレの手が望の首を掴み、そのまま絞め上げた。
ぐっ、と苦しそうに息を詰まらせるが、それでも首を絞める手の力は緩まない。
「余計な手間をかけさせてくれたわね…それ相応の罰を受けてもらうわよ」
「…………ふ、」
首を絞められ表情を歪める望が、突然苦しげに笑った。
「……何がおかしいの?それとも、狂ってしまったのかしら」
「…いいえ。ただ……僕は、治るだけじゃないんですよ…」
そう言って伸ばされた望の右手が、クルデーレの頬に触れた。
「つ か ま え た」
刹那。
「あぐ――――――――っ!!?」
クルデーレの全身が、激しく切り裂かれた。
咄嗟に手を放して望から距離をとるが、もう遅い。
頬が、肩が、腕が、胸が、脇腹が、脚が、容赦なく切り刻まれて、血を流していく。
骨が悲鳴をあげ、音を立てて破壊される。
「ぐ……」
ついにクルデーレは、膝をついて床に倒れ伏した。
そして、すぐにダメージが目に見えるものだけではないことに気づいた。
体全体が石のように重く、ぴくりと動かすことしかできないのだ。
「……何、を……?」
「…大したことは。僕の負った傷と疲れを、貴女にお渡ししただけです」
その言葉に、クルデーレは疲労で鈍くなる頭をフル回転させて考えた。
おそらく、望には回復能力の他に、傷とかそういうものを他人に移す能力があるのだろう。
それを、あたかも能力で回復したように見せかけて少しずつ蓄積していき、今ここで爆発させたのだ。
しかし、その望も呼吸が荒い。
どうやら、いかな超回復でも失った体力までは回復できないようだった。
「ふ、ふふ……ふふふ…」
「…………」
不気味に笑うクルデーレに、望が何か言おうと口を開いた瞬間、
「――――――てんめえええええええええええええええええっ!!!!!!」
「っ!!」
激昂したサディコが、風魔を押しのけて拳を振り上げ飛び掛かってきた。
望は軽く唇を噛み、なけなしの体力を振り絞ってその拳を避ける。
だが、彼らが戦闘していたのは廃ビルの屋上。
古びて耐久力の落ちたコンクリートが、魔物であるサディコの攻撃、その衝撃に耐えられるはずもない。
サディコの拳が触れた瞬間、限界を迎えた床はその役目を失い一気に崩れ、宙へ飛んだ風魔以外の全てを飲み込んで落ちていった。
冷血と千羽鶴たち
「…無茶しすぎだろ」
(ビルの上空、)
(そうぼやく鴉天狗が一人、取り残されていた)
最終更新:2013年01月20日 15:12