スザクが目覚め、火波家での出来事は一段落着いた。
「…ただいま戻りました、京様」
「お帰りなさい、アン。……その様子だと、上手くいったみたいね」
「はい」
主の下へ戻ったアンを、京が迎えた。
先程までいた紅の姿はなく、残っていたのはアーサーと、帰っていたらしい長久。
そして、
「………あなたが、ハヅルですか?」
「…そうだ」
あちこちに包帯を巻き、傷だらけの大男が、ソファに座っていた。
どうやら彼が、アーサーの待っていた「
虎頭 ハヅル」らしい。
そう、アンが考えていると、ハヅルは彼女に向かって頭を下げた。
「…すまないな。俺の身勝手な行動で、迷惑をかけた…」
「……いえ。お怪我の方は、大丈夫なのですか」
「…問題ない。体は…丈夫なほうだ」
抉られたとはいうが、傷はそれほど深くはないらしい。
入院する羽目にならなくてよかった、とハヅルは笑っていた。
「ところで…紅様はどこへ?」
アンの問いには、京が答えた。
「紅さんは…今、資料室よ」
そう言って、応接間の奥にある扉を指差す。
その言葉の後を、ハヅルが引き継ぐ。
「紅は…俺が、戦った相手のことを、調べている」
「あなたが戦った相手?やはり、誰かと…」
「…ああ」
そこで少し言葉を切る。何かに迷っているようだったが、やがて意を決したように沈黙を破った。
「最近、連続殺人の噂を、耳にするだろう…。俺が戦った相手は、おそらく、その関係者だ…」
「……何故、急にその者のことを調べようと?」
「…奴が……紅の追っていた人物である可能性が、あるからだ…」
「!?」
驚いたように眼を見開くアンに、京は、紅がある人を探していること、そのために情報屋になったこと、ハヅルを襲った人物は紅の縁者であるとブラウに聞かされたことを、簡潔に話した。
「ハヅルさんは帰ってきて、すぐに戦った相手のことを報告したの。そうしたら、「盲点だった」と一言呟いて資料室に入ったきり…」
「…左様ですか」
話し合う二人に、ハヅルは再度頭を下げる。
「…重ね重ねすまない。俺たちの問題に巻き込む形となった…」
「いいのよ、気にしないで」
「私は、京様に従うまでですから」
「……そうか」
ハヅルは礼を言おうとしたが、それは言葉にならなかった。
紅が、勢いよく資料室の扉を開けて出てきたからだ。
そのまま、どこか思いつめた表情で脇目も振らずに歩いていく。
「……オーナー?」
「…ごめんなさい。ちょっと出かけてくるわ」
「オーナー!そんな急にどこへ…!」
長久の声も空しく、扉はばたんと閉められた。
「…………」
「当たり……だったのかしら」
「…分からない。ただ…何かは掴んだのだろう…」
ポツリと呟く京に対し、ハヅルはそう答えた。
「…それはそうと…二人は、時間は大丈夫か…?差し支えなければ、いいが…急いでいるなら、久我のバイクで、送ってもらってくれ…」
そう言って立ち上がるハヅルに、京が声をかける。
「…あなたも行くの?」
「……紅は、体が弱い。放っておくと、無茶をして倒れかねないからな…付き添いが、必要だ」
そう言って、ハヅルも出て行った。
絡まる糸
(ほとんど“分かっている”、でも“まだ分かっていない”)
(確固たる確証がほしい)
(…確証が)
最終更新:2013年02月08日 14:45