あの日、大人たちに嫌われた。
それからずっと、僕は一人だった。
友達からは遠ざけられて、誰とも遊べない。
知らない人が怖くて、学校でも一人だった。
施設に来る犬や猫たちと遊んでいたら、「気持ち悪い」と言われた。今までは、褒めてくれていたのに。
それでも、この子達しか僕にはいなかったから、ずっと一緒にいたんだ。
でも、それも出来なくなった。遊んでいると、くしゃみが出たり、目が痒くなって涙が止まらなくなったりして、近づけなくなってしまった。
一度、施設の先生が渋々だけど病院に連れて行ってくれたら、「アレルギー」だと言われた。
「きっとよくなる」って言われて、薬をもらったけど…酷くなるかもしれないから、って、毛のある動物に触るのはやめなさいって言われてしまった。
唯一の友達とも会えなくなって、僕は本当に一人になってしまった。
一人の毎日が終わったのは、それから数年後。
小学校の3、4年生くらいのとき…だったと思う。
「花丸、ちょっとおいで」
普段は近寄ってくれない先生が、珍しく僕を呼んだんだ。
それはおかしいことだったのかもしれないけれど、僕は嬉しくて先生についていった。
そこにいたのは、知らないおじさんたちだった。
「……せんせい。この人、だれ?」
先生に聞いても、答えてくれない。
「この子供か?」
「……はい」
「……。来るんだ」
「えっ?」
わけの分からないまま、僕はおじさんに手を引かれて連れて行かれた。
先生は、見てるだけだった。
あの日見せたのと同じ目で、ずっと見てるだけだった。
おじさんたちに連れて行かれた僕は、大きな部屋に入れられた。
「そこで待っていなさい」と言われて、一人にされた。
しばらくすると、僕が入ってきたのとは別の扉が開いた。
「ひっ…!?」
出てきたのは、おじさんじゃなくって、よく分からない、気持ちわるい生き物だった。
“バケモノ”って、こういうもののことを言うんだって。そう思った。
あいつが動くと、床がぼろぼろになった。
怖かった。近寄ってくるそれが怖くて怖くて、僕は逃げ回った。部屋から出ようともした。
でも、どっちの扉も開かなかった。押しても引いても、全然動かない。
「あけて!!おじさんあけて!!こわい、こわいよ!!おねがい、あけて!!」
叩いても、叫んでも、扉は開いてくれなかった。
「あけて!!だして!!ぼく、いい子にするから!!わがまま言わないから!!おねがい!!だして!!!だして!!!!」
手が痛くなるぐらい叩いても、扉はびくともしなかった。
その間にも、あいつは近づいてきて。逃げるところがなくなって。
怖くて。怖くて。怖くて。
僕、言っちゃったんだ。
「来ないでっ!!!!」
って。
…その瞬間、ピタッとあいつの動きが止まった。
僕の様子を窺うように動いてるけど、それ以上近寄ってこない。
「………」
よく分からなかったけど、助かったんだ。って思った。
でも、このあとどうしたらいいか分からない。
おじさんを探そうと思って立ち上がったら、
「え――――――」
上から、鉄骨が落ちてきた。…落ちてきた、はずだった。
何が起きたのか、よく分からない。
施設の隣の空き地によく置かれていたから、落ちてきたのが鉄骨だということは分かった。
それが、僕目がけて落ちてきたのも、分かった。
でも、それは僕には当たらなかった。
当たる前に、全部バラバラになって吹き飛ばされてしまったから。
「………」
僕は、あいつを、見た。
「たすけて…くれたの?」
聞いても、あいつは答えなかった。どんな表情をしているのかも、分からない。
でも、僕には、その顔が“悲しそう”に見えたんだ。
そうして、気づいた。
あいつは…あの子は、僕と一緒。
怖がられて、一人ぼっちで、寂しかっただけなんだって、気づいた。
僕は、ひどいことを言ってしまった。
「来ないで」。
僕が、先生に言われて悲しかった言葉を、言ってしまった。
「……う、ぇ…」
謝らなくちゃいけないのに、僕の方が悲しくなって、泣いてしまった。
あの子は、そっとそばに来てくれた。
今までずっと怖かったのに、不思議と怖くなかった。
悲しくて、でも嬉しくて、僕はわあわあと声をあげて泣いた。
『ひとりじゃないよ』
(あの子が、ここでできた僕の最初の友達)
(あの日から、ここは僕の居場所になったんだ)
最終更新:2013年02月08日 15:26