<ああ退屈だ。…おや>
<そこにいる君。…そう、君だよ>
<時間があるのなら、この
神江裏 灰音の話でも、聞いていかないかい?>
<…うん、よし。じゃあ始めようか>
レゴ・アナザー~灰色に映るモノ~
ここ、いかせのごれは実に摩訶不思議な土地。
まず特殊能力なる未知の力が跋扈しているのさ。
その様はまるで特殊能力の繁華街だよ。
こんな物が一人歩きしてるとなっちゃあ、人間の生死が更に揺れ動いてしまう。
厄介な事だ。
まあ神江裏 灰音には関係ないけどね。
あ、そうそう。特殊能力以外にも、妖怪とか、モンスターみたいな奴等とか、本の中でしか存在しないような種族もいるんだよ。
その一つに『怪盗』ってのがいてね。
昔は人を楽しませるエンターテイナー集団だった訳だけど、ちょっと色々あって今ではすっかり、ただの殺人集団に成り下がっちゃったのさ。
で、その怪盗の一人に、自称芸術家の男がいるんだ。
だがセンスはずば抜けてるらしいみたいだよ。
傍観者には全く理解も感動も出来ないけど。
普通に作品を作っていれば、ただのアーティストなんだけど、ところがどっこい。ここはいかせのごれだ。
変人奇人も結構いる訳でねえ。
他人を材料として使う事が多々あるのさ。
困ったもんだよ。
そこで話を少し戻すけど、神江裏 灰音はさっき、「人間の生死が更に揺れ動いてしまう」って言ったよね?
そういう事なんだよ。
…うん? 分からなかったかな。
つまり、特殊能力やそういう変人奇人の存在が有る事で、生死という名の振り子の大きな揺れが中々止まらない、という意味だよ。
無害なものもいるけど。
さて、別の話題に行こう。
君は『
カルーアトラズ刑務所』を知っているかな?
その名の通り刑務所で、特殊能力者も収容してるんだけど、他の所よりそれはもう凄惨でねえ。
囚人がどれもタチの悪い極悪人なのは勿論、ほとんどの看守や、あまつさえ所長すら振る舞いが非道かつ横暴。
そのせいで、『地平線の果て』『底無しゴミ箱』なんて呼ばれちゃってるんだよねー。
それと、特殊能力を買われて”裏”の方に横流しされる…そう、人身売買が行われているのさ。
しかもその囚人の行方は誰も知らない…。
所長は実態を知らないみたいだから、救いだと思ってるみたいだけどね。
そして救いという名の外道により、看守の手には札束が乗せられ、笑みを浮かべているだろう。
あ、因みに刑務所の経費だよ。人身売買でまかなってるみたいだから。
あ、大きく話変わるけど。
つい最近まで、『ジャシン』の噂が流れてたんだ。
…おや、知ってるみたいだね。確かに異様に流行っていたから、当然か。
で、そのジャシン――八岐大蛇なんだけど、『
百物語組』の妖怪達の奮闘で滅びたんだよ。
…主犯は、姿を眩ましたみたいだけど。
これでめでたし大団円…って訳でも無い。
一番頑張っていた遊女の化け狐に、とても懐いていた小さな少女がいてね。
実はその少女、主犯の策略で生き返った、まさに輪廻の違反者というべき存在だったんだ。
だがいつまでも”在る”訳にはいかず、狐は悲しみ嘆いた。
そんな彼女に少女は、笑ってこう言った。
「バイバイも、さようならも、言わないよ」って。
もう会えないのに、何でだろうね?
傍観者には理解できないや。
…何となく聞くけど、ここって嘘まみれだと思わないかな?
…んー…例えばほら、いかせのごれ高校。
色んな人間がいるんだけど、大体の奴らが自分の素性を隠しているのさ。
特殊能力者だったり、”裏”の人間だったり。
えーと、ウスワイヤと
ホウオウグループ、知ってる?
…あ、知ってる? なら話は早いというもの。
それに属する人間二人がお互い騙し合ってる訳なんだよ。
知ったらどんな顔するのか、どんな思考になるのか、傍観者としてはちょっと興味あるね。
…一部、既に知ってる人いるけど、それはまあさておき。
ホウオウグループにね、鴉を名乗る男がいるんだけど、その友人…正確に言えば腐れ縁な付き合いの妖怪。
一言で表すなら、「損得感情」って奴だよ。
…え? 漢字が違う? これでいいんだよ。
彼は鴉に似てドライだからね。この言葉がピッタリだ。
因みに彼は鴉天狗という妖怪なんだよ。
類は友を呼ぶって、まさにこの事かもね。
で、他のホウオウグループの人間の話になるけど、冷血を名前にしている女がいるんだ。
それはもう、他の名前が浮かばないってくらい。
それでその女、黒い影の様な、不気味な生物兵器を造ってるんだけど、洗脳とやらが出来るらしい。
その洗脳のやり方はね、人間の心臓辺りに生物兵器を埋め込む様に憑かせるんだよ。
ただ、直接心臓にいるって訳じゃなくて、そう…心。
心を支配するって感じかな。洗脳だし。
また別の人間の話に変わるけど、こいつは中々大物だ。
千年王国という研究チームの主任でね、とても興味深い価値観を持っている。
それも「戦いの火種を巻くことで、優れた人間のみを残し、合理的な世界にする」という価値観。
確かに生き残った人間は優れていると言える。
でも人間だよ? 優れているだけの人間なんて、いる訳ないじゃないか。
まあ理解なんて必要ないかな。
神江裏 灰音はただ傍観してるだけだし。
あ、そうだ。
何ともない閑話だけどいかせのごれ郊外に、まあまあ規模のある賭場があってね。
そこを取り仕切っている女性、とても強いんだ、賭けが。
イカサマなんて、彼女の前では無駄な行為となるのさ。凄いよねえ。
と、まあ、本当に何ともない閑話だけど。
それでこのいかせのごれ、君はどう思う?
……ほう、なるほどね。
神江裏 灰音は、「歪な街」だと言ってみるよ。
こんな場所、他には無いだろう?
この街で育った者の大半は、当たり前を、常識を捨てるのさ。
ん? 捨てなきゃ何かあるのかって?
別に死ぬとかは無いよ。
ただその大半が、そういう人間だって事。
思ったんだけど、ホウオウグループの基地凄いねえ。
要塞レベル並みだよアレは。
あ、そうそう。
さっき言った千年王国の本拠地、支部施設の閉鎖区画にあるんだよね。
主任の名前がアレなんだし、鳥居建てればいいんじゃないかなあ。
後は社と賽銭箱…はいらないか、はは。
でね、その男、かつてグループを裏切ったんだよね。
何か目的あったらしくて、戻ってきたみたいだけど。
”見た”限りじゃあ、グループの技術力を借りたかったぐらいしか、分からないな。
では次はホウオウグループの話でもしようか。
あそこってさ、何か宗教団体…いや、宗教民族って言えばいいのかな?
何かそれっぽく見えるんだよねえ、傍観者的に。
君もそう思わない? あの絶対者への崇拝降り。
神を嫌う者の集まりなのに何だか皮肉だよねー。
後、ウスワイヤと比べて意思がごった混ぜ。
絶対者のカリスマ性だけで出来てるもんだからね。
…今、その崇拝者の一人の恋人を思い出したんだけど、この前白髪だったのが赤い髪になってね。
それでその白髪はね、弱さを切り捨てて強さだけを持とうとした結果だったんだ。
まあ弱さを受け入れたら、本来の髪色に戻った訳だけど…傍観者にはそーゆーの理解出来ないね。
ああ、そうそう。
関係ないけど、四霊って知ってる?
四神とも呼ぶんだけど、その中に『霊亀』というのがいてね。
何でも、吉凶を予知したり強い結界を張ったりする力があるらしい。
今いかせのごれの最東端にいるみたいなんだ。
いつか会ってみたいものだね。
…そうだ、知ってるかもしれないが。
つい最近、ホウオウグループととある集団が戦ってたんだ。
その様はまるで荒廃された戦場だったよ。
中々凄まじいものだ。
その後、その集団はどっか行ったけど…何がしたかったのやら。
宣戦布告……うーん、分からない。
とまあ、ここって色々五月蝿いよね。
止みそうに無い喧騒、散々にも程がある。
いつになったら落ち着くのかな。
いつだったか、身勝手な妄想で友人を殺した少女がいたっけ。
確か、目に…アレはシャーペンだったかな?
それをブスリ、と…ね。
痛々しいものだ。
しかし何であんな凶行に至ったのかなあ。
たかが会話を交わしていただけだろう?
それで殺すものなのかい? 人間とやらは。
うーん、やっぱり理解不能。
痛々しい話はここら辺で、凡庸な話に移ろう。
先程の崇拝者の一人と、その恋人の話だ。
今こそは仲がよろしいお二人だが、前まで恋人は崇拝者を嫌っていたんだ。
理由? さあ? 傍観者に聞くなよ。
ただ崇拝者の様子は前と今とあまり変わらない風景でね。
「待って、ねえ、鳥さん」といった感じで。
何だか笑えないかい?
すっかり大人気のアイドル、君はご存じかな?
…そうそう、あの娘だ。
喝采だらけな彼女だが、色々隠してそうだよね。
自分についてとかさ。
それにしても歌声だけで心を癒すとは。
神江裏 灰音には永遠に出来ないだろうな。
関係脈絡ない余談だが、この前ストラウルを歩いていて、ふと上を見上げたんだ。
そしたらメガホンの生えた鉄塔が見えたよ。
あそこ、誰かいるんだけど、君は分かるかな?
高いところから見ると、人だかりが海の様に見えなくないかい?
アレは見てて地味に飽きないよ。
それでそうやって見てた時にね、あの『白い闇』の道化師を見つけたんだ。
あの男は相変わらず壊れたままだったね。
今日もどこかで誰かを壊してるんだろう。
何が面白いのかなあ。
………ナイトメアアナボリズム。
この単語、知ってるだろう?
でなきゃあここにいない。…まあ、だからウスワイヤやホウオウグループとか知ってる訳だけど。
ん? いきなりそれがどうしたって?
いやね、さっき話した、友人に目をシャーペン刺された少女。
そのナイトメアアナボリズムの力で生き返り、特殊能力を得た訳だけど…彼女は未だに引き摺ってるんだよ。
自分を殺したんだから仕方ないのに。
他にも、似た感情や、それに怯える者もいる。
夜、悪夢を見て眠れない幼子の様に…ね。
彼らの目は常に抱いているのさ。
…その憂いを。
そういや、題名が分からない歌を、一つ歌えるんだ。
また機会があれば、聞かせてあげよう。
え? 今歌わないのかって?
気乗りしないんだ。
それに何の変哲も無い、浅い歌だよ。
そうだ、今思い出したよ。
つい最近まで、学校でいじめってやつが流行ってたんだ。
その時、いじめられていた少女を助けた麒麟が泣いてたんだ。
それも、いじめをしていた奴に怒っていた時に。
まるでそいつらを哀れんでいるみたいでさ。
本当に彼の心理は分からない。
自分の事でもないのに、ましてや加害者をだよ?
…まあ。神江裏 灰音の知った事じゃない。
突然だけど、最近、ある一家の無理心中があったのを知ってるかな?
最初ら辺で話した、ジャシン騒動の中心にいた小さな少女の一家なんだ。
真偽は定かじゃないが、どうやら主犯の策略でそうなったらしい。
しかし何故そうしたんだろうね?
だって、八岐大蛇を召喚するほどの力を持ってる訳だから、少女を洗脳するなり何なり出来た筈だろう?
心が分からないって、たまに傷だよね。
本当にたまにだけど。
……ウスワイヤの人間と、ホウオウグループの人間。
何で自分の意志や想いを曲げずに、捨てずに生きようとするんだろうね。
現実ってやつは、世界ってやつは。綺麗事ばかりで醜く、非情なほど救いなんてほとんど無い。
それが当たり前で、それこそが摂理ってやつなのに何故彼らは、そうするのか。
感情感覚 理解不能 だ。
…さて、また世界を眺めようかな。
神の御姿浮かぶ、この世界を。
真っ暗なこの場所とも、君ともそろそろお別れだ。
それじゃあ また明日――。
最終更新:2013年03月28日 20:48