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夜の帳の下りる町で

夕重が“行方不明”になって数日が経った。
家にも帰らず、学校にも来ず、足取りは掴めていない。

…そんな日の夜。
夕重…否、「強奪者」はストラウル跡地の廃ビルにいた。
屋上の錆びついた手すりに腰掛け、月の隠れた夜空を見上げている。

その強奪者の背後に、音もなく人影が現れた。
暗い色のフードとマント、ぐるぐる巻きのマフラー。
以前、彼女が“ティミッド”と呼んだ人物であった。

「………やあ」
『……君カ』

気配も感じさせないティミッドに驚いた様子もなく、強奪者はゆるりと振り返る。
仮面をつけているからか、耳障りな声とキィキィという甲高い雑音が辺りに響く。

「具合はどうだい?」
『平気ダヨ。君モ随分ト心配性ダネ』
「当たり前さ。君は僕の唯一の協力者。動けなくなられては困るんだよ」
『ハハハハ!ソレモソウダ!』

おそらく笑っているのだろうが、仮面のせいで表情は読み取れない。
そんな強奪者の様子にも呆れる様子はなく、ティミッドは言葉を続ける。

「君もそろそろ活動に支障がなくなってきた頃だろう。3日後の夜から、本格的な活動に入る。いいかい?」
『異論ハナイヨ。随分待タセテシマッタヨウダシネ』
「まったくだ。その分は、働きで返してもらうよ」
『ハハハハ。了解』
「…それと、いつまでその趣味の悪いお面をつけてる気だい?もう僕らしかいないんだから、それ取ってもいいんじゃないのかい」
『オット、コリャ失敬』

耳が痛いよ、と愚痴るティミッドに、おどけた仕草で謝罪する。
手馴れた様子で仮面を外すと、それを頭へとずらした。

「……ついつい昔からの癖でね。これでいいかい?」
「ああ、そっちの方がずっといい」

ティミッドの声にどこか安堵の色が混じっていたのを、強奪者は聞かないふりをした。



「……なあ。この世界は好きかい?」
「…何だい、突然藪から棒に」
「まあいいじゃないか。で、どうなんだい?」
「…特に好きでも嫌いでもないさ」
「ふーん…」

まあそういうものか、と一人納得したように呟きながら、ティミッドは強奪者の隣に陣取る。
強度に不安のある手すりにも関わらず、不思議ときしむ音はしなかった。

「君は、嫌いか?」
「ああ。この世界は異常すぎる。異常なのが“普通”になってきてしまってる。分不相応な力があるからこそ、人間は過ちを犯すのさ。なのにそれを推奨するかのようなこの世界が、僕は、反吐が出るほど嫌いだ」
「知ってるよ。だから私と手を組んだんだろ?」
「そうさ。君の力と僕の力があれば、きっとこの“異常”な世界を元に戻せる。“普通”の世界に戻れるんだ」

ティミッドの表情は全く分からないが、その声が決意の固さを物語っていた。
拳を握って力説するティミッドに、強奪者は薄く微笑む。

「……力を貸すよ。君の理想に、少しでも近づけるよう」
「……ああ。一緒に、この世界を正そう」

「「………行こうか」」

二人で目配せすると、手すりからぽんと飛び降りる。
地面に二人が降り立つことはなく、また、夜の暗闇へと消えていった。


夜の帳の下りる町で


「……ねえ、ひとつお願いがあるんだ」
「何だい?」
「“夕重”の友達は…普通にするのを最後にしてあげてくれないかい」
「……いいよ。もしかしたら、彼らもその間に改心してくれるかもしれないしね」

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最終更新:2013年04月06日 16:21