‐第二話・目に焼き付いた光景‐
俺は他人の過去をこの目で『視る』ことができる。
どんなに隠していても、たとえ本人が覚えていなくともその人の命の歩みを俺の目は体感し追想する。
ガキの頃はこの力を上手く制御できずに、見たくないものまで勝手にこの目に映っていたけれど、
今ではある程度思うがままに視たいものと見たくないものを取捨選択できるようになった。
でも、俺にとってはどちらにしろもう手遅れだった。
とっくに捻じ曲がってしまった俺の視界は、俺の心はもう元に戻ることなんて決して無いのだから。
俺のこの力はみんなを不幸にする。
俺の親はその被害者のいい例だろう。
こんな異形のアルビノの外見に、得体の知れない不気味で信じがたいような妙な『眼』を持って生まれてきた、
忌み子とでもいうべき子供を持ってしまったのだから。
俺が家に寄り付かず、親に冷たい態度なのはある意味一つの後ろめたさから来るものだった。
俺のせいで二人とも不幸になって、得体の知れない『化け物』を側に置かないといけない苦痛。
それを俺は望まない。
だから俺は二人が俺を嫌ってくれるように俺は仕向けた。
その結果、二人と会う時間や二人と話す時間というものは極端に少なくなっていった。
それでいい。
それが正しいことなんだ。
そんな他愛もない今更なことを、公園のブランコに揺られながら俺は思い返していた。
目線の先には沈みかける夕日が景色を赤く染め上げている。
昼に比べれば涼しいけど、まだ熱気の残る空気のせいでアスファルトの上の景色がぐにゃりと歪んで見える。
「嫌なこと…思い出しちゃった。」
嫌なことを考えれば嫌なことを思い出すのはある意味自然な流れで、そんな忘れることが苦手な自分を
恨めしく思いながら足元に視線を落とす。
ちょうどこんな時期だった。
俺の初めての友達が『逝った』のは。
それが彼女の名前だ。
小学1年の時に学校でこんな俺に最初に話しかけ、それ以来ずっと仲良くしてくれた女の子。
俺の姿も、俺のこの忌まわしい力も全部受け入れて信じてくれて、それでも一緒に歩んでくれた
遥は俺の唯一無二の親友だった。
いつも俺たちは二人一緒だった。
…遥が自ら命を絶ってしまうまでは。
その理由は俺だけがこの目を通して知ってる。
そのことに、近くにいながら気づいてやれなかったことを俺は今更になってから死ぬほど後悔している。
原因はいじめだった。
陰湿かつ他人にばれないような狡猾な、延々と続くいじめ。
それに耐えかねて、遥は学校の立ち入り禁止の屋上で首筋を斬り、ひっそりと亡くなっていた。
まるで眠るようなその顔を、俺はこの『目』で見た。
深い後悔と一緒に俺の目に焼き付いたその姿は今でも色あせることなく鮮明に記憶に残っている。
ブランコから立ち上がり俺はその隣、誰もいないブランコを視る。
そこにはキミの残滓が残っていて、あの時と変わらない笑顔を浮かべている。
『成見君、私は成見君のこと…大好きだよ。』
そう言って君は揺らめく様に消えてしまった。
あの時の欠片は俺の心を刺し続けて、キミの影は俺の視界でいつも踊っていた。
笑顔で…
<To be continued>
最終更新:2013年05月06日 12:55