京とアンが情報屋へついたときには、既に一番星が輝いていた。
力なく揺れる弾痕まみれの扉に目を見開くと、勢いよく開ける。
応接室は、めちゃくちゃだった。
扉を貫通して被弾したらしく、ボロボロになったソファ。
ひっくり返って傷だらけのローテーブル。
相当もみ合いになったのか、棚や机から落ちて粉々になった皿や花瓶。
そして、唯一被害の少なかったデスクに目を向け見たものは、
「うう゛……ううぅぅぅぅぅ…!」
受話器を握り締め、唸り声をあげて号泣するアーサーの姿だった。
「アーサーちゃん!」
「うぅ……うあああぁぁぁあ…!!」
京が呼びかけるが、聞こえていないのか反応しない。
もう一度近くで呼びかけようと室内に駆け込んで、ぐったりと力なく座り込んでいる長久を見つけてすぐに足が止まった。
「………!!」
生気の感じられない異様な状態に戦慄が走った。
最悪の予想を頭を振って掻き消し、強く揺さぶらないよう注意して横にすると、両手を重ねて左胸の上に置く。
「っ………げほ!!がっ、ごほ…!!」
そのまま数回強く圧迫すれば、幸いにもすぐ息を吹き返した。
激しく咳き込む声に、アーサーが反応し、顔を上げる。
「!!」
「………よかった」
ほっと息をついたのもつかの間、もうひとつの不安がよぎる。
「アーサーちゃん、ハヅルさんは…?」
「……うぅー……!」
京の問いに、アーサーは唸り声をあげて応接室奥の扉を指差した。
そして、何かを訴えるようにしゃくりあげる。
おそらく、ハヅルにも何かあったのだろう、と二人は察した。
「…アン、ハヅルさんをお願い」
「仰せのままに」
京の言葉に頷くと、アンが扉の向こうへと向かう。
京はアーサーから受話器を受け取り、手早く救急車を呼んだ。
「……う…うぅぅぅう……!」
その間も、アーサーは怯えるように頭を抱えて震えている。
京は受話器を置くと、小さな体を抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫よ。二人とも助かるわ」
「…うぅ…うー…!」
落ち着かせるように優しく背中を撫でると、唸りながらしがみついてきた。
温もりに触れて少し落ち着いたのか、まだしゃくりあげてはいるが泣き止みはしたようだ。
「……落ち着いた?」
優しく問いかけると、アーサーはこくりと頷く。
「そう…。…ねえ、何があったの?」
「!!」
その問いに、ばっと顔を上げた。
京の服を掴み、何かを訴えようとしきりに口を動かすが、不明瞭な唸り声と吐息の音しか聞こえない。
「……うぅぅうぅ…!!」
「…アーサーちゃん、声が出ないの?」
返事の代わりに、再びぼろぼろと涙を流す。
そういえば、先程から唸り声とジェスチャーしかしていなかった。
しかし、先日出会った時は、腹話術ではあったが自分と普通に会話していたはず。
京が疑問に思ったところで、ふと違和感に気づいた。
「…ロッギー君は?」
彼女がいつも持ち歩いていたパペットの行方を聞くと、アーサーは泣きながらある一点を指差す。
そこには、愛用のパペットの変わり果てた姿があった。
「……ひどい…」
家族同然の相手を傷つけられ、自分自身も酷い目に遭い。
そして、おそらくは彼女にとって深い思い入れのある人形を引き裂かれ。
短期間に強いショックを受けすぎたのだろう、声が出なくなるのも無理はない。そう、京は感じた。
アーサーがパペットなしでは声を出せないのは昔からなのだが、それを今京たちが知る由はない。
「……」
アーサーは、不安に震えながら京にしがみつく。
その様子を見て、京は安心させるように優しく背中を叩く。
ハヅルの応急処置を終えたアンが戻ってくるまで、アーサーは京から離れようとしなかった。
恐怖と不安の楔
(程なくして、遠くに救急車のサイレンが聞こえた)
最終更新:2013年05月17日 13:41