京とアンに付き添われて、アーサーは病院へと向かった。
病院に到着すると、ハヅルと長久はすぐさま運び込まれる。
アーサーも痣だらけという事で診察を受けたが、気絶するほど頭を強く打ってはいたものの命に関わるようなものではない。
ぶつけた時にできた痣はそれほどひどいものではなく、捻挫も軽いもので安静にしていればすぐによくなるだろうとのことだった。
同年代の女子より小柄で軽い体が幸いしたのだろう。
今、京は手当てを受けたアーサーと共に待合室にいる。
アーサーが京の服の裾を握って離さなかったからだ。
アンは京の代わりに医師からハヅルと長久の状態を聞いている。
「……」
「………」
アーサーは表情を強張らせたまま、俯いている。
時折何か言いたげに口を小さく動かすが、すぐに口を一文字に引き結んでしまう。
やはり言葉が出ないのがもどかしいのだろう。
「……そうだ」
ふと思い出したように呟くと、京は荷物からメモ帳とペンを取り出し、アーサーに渡した。
「よかったら、これを使ってちょうだい」
「………」
メモ帳とペンを受け取ると、京の伝えんとすることが分かったのかアーサーは小さく頷く。
よほど話したいことがあったのか、すぐにメモ帳に書き込み始めた。
「…………!」
書き終わると、それを京に見せた。
どうやら、先程情報屋で京に聞かれたことへの返事らしい。
『知らない人が来たら そう介がおかしくなって、ハヅルをおそったの。』
「…そうすけ?」
『ベニー姉さんの家族。姉さんがずっとさがしていた人。』
「………その人がおかしくなって、皆を襲ったの?」
その問いに、アーサーはまたペンを走らせる。
そのやり取りを何度か繰り返してから、メモに書かれた情報を元に、アーサーの言いたい事をまとめた。
「………つまり…情報屋に怖いお客さんが来て、その人の声を聞いたソウスケくんがひどく怯えたから、ハヅルさんはソウスケくんを連れて二階へ避難した。そのお客さんが声を張り上げたら、ソウスケくんが急におかしくなって、ハヅルさんの木槌を取り出して皆を襲った。アーサーちゃんは長久くんに助けを求める途中で階段から落ちて気を失って、目が覚めたらソウスケくんとお客さんはいなくて、二人が倒れていた…ということでいいのかしら?」
「………」
京が確認すると、アーサーは小さく頷いた。
「……そう。辛いこと思い出させて、ごめんなさいね」
京の言葉に、アーサーは首を振る。
待合室の椅子に膝を抱えて座る様子を見ていると、小さく胸が痛んだ。
「…………」
「…?どうしたの、アーサーちゃん?」
不安そうな表情でじっと自分を見つめてくるアーサーに気づき、軽く問う。
声をかけられたアーサーは、おずおずとメモ帳を差し出した。
『そう介 たすかる?』
「…ソウスケくんを、心配してるの?」
『そう介は、今こわい人といっしょにいる。きっとこわい思いしてる。おうちに来てからおきものみたいだったのに、あの人が来たらすごくこわがってた。』
だから、と書いて、ペンが止まった。
しばらく何を書くか迷い、やがてゆっくりとペンが動く。
『早く、ベニー姉さんといっしょにしてあげたい。姉さんやハヅル、長久と会えなくなるんじゃないかって思って、ぼくはすごくこわかった。きっと、そう介も同じ気持ち。だから、早く見つけてあげたい』
文章を見せたアーサーの瞳は、まだ恐怖に揺れていた。
そして、それと同じくらい、姿を消した仲間を心配していた。
小さな決意
(廊下の奥から靴音が聞こえてきた)
(アンか、医師か、別の誰かか…)
最終更新:2013年05月21日 17:41