「なんでトキコ、この学校にいるの?」
お昼時。唐突にコロネはトキコにそう問い掛けてきたのであった。
その発言によるものなのか、机を挟んで対峙する二人の間に少しだけ妙な沈黙が訪れる。
問い掛けられたトキコはといえば、自分の昼ご飯であるメロンパンを噛み切って口の中でモゴモゴと
させているだけで、答えようとはしなかった。何かを考えているような様子にも捉えられるが。
コクン、とメロンパンが消化されたところでようやく彼女は返事を返した。
「なんで、ってなんで?」
「んー、ここって皆理由が色々あって来てるでしょ?トキコも何かあったのかなーって。」
「・・・・・・・・・」
少しだけ、トキコの眼が細められた。
コロネはその変化を見逃さなかったのだが、彼女の感情の変化までは分からず、
ただその仕草に首を傾げるのみだけであった。
「・・・神様が、学校に行きなさいって言ったの。」
「神様が?」
「うん、本当は学校行くの嫌だったんだけどね。しょうがっこーの頃はは皆にいじめられてたし。」
「・・・え、トキコって昔いじめられてたの?」
意外だ、とコロネは驚いた。普段破天荒に振舞うトキコは「いじめ」とはまったく疎遠な存在だと思っていた。
しかしその少女自身の口から、いじめがあったとの事実が告げられたのだから、驚かないわけがないだろう。
トキコはそのことについてはあまり触れずに、次の言葉を続けた。
「家庭のじじょー、とか色々あったの。だから、神様に言われた時は嫌だーって言ったの。
だけどね、神様はもしまたいじめられるようなことがあれば、我慢しなくていいって言ったんだ。
お前はあまりにも我慢しすぎた、だから今度は我慢せずに好きなように振舞えって。」
「・・・へぇー・・・」
「それでね、神様からオシゴトを貰ってこの学校に来てるの。そしたら、毎日がすっごく楽しくなったんだよ!
ケイくんや鳥さん、ユーイちゃん、一角くん!それにハヤトやネーちゃん、たぁっくさんお友達が出来たの!
皆優しくて前の人たちみたいにいじめないから、私すっごく嬉しいんだ!」
「・・・そっか。」
トキコは、もちろんコロネもね、と付け足すと、コロネは照れたように笑った。
トキコの話しぶりから、本当に楽しいのだという気持ちが伝わってくる。
この学校が彼女にとって良い場所となって良かった、とコロネはそう思った。
「よかったね、トキコ。今すっごく楽しくて。」
「うん!」
満面の笑みを浮かべてトキコは元気よく頷いたのだった。
「トキコ、」
「ん?・・・なんだ、ゼアじゃん。またお出かけ?」
放課後。一人帰路を歩いているトキコに声をかけてきたのは、先のボルカノン再起騒動主犯者である、
ホウオウグループ開発部、ゼアであった。後ろから付けている気配はまったくなかった、にも関わらず
今この男はこうしてトキコの背後に立っているのだ。少なからずとも、彼女はそのことについて驚かない
ことはなかった。負けず嫌いの子供の性質上、そのような弱みは見せなかったが。
「どこに行くのですか?」
「どこって、決まってんじゃん。おうちに帰るの。」
「あの廃墟にですか?」
「・・・・・・・・・そーだよ、あんなんでも私のおうちだもん。」
「そうですか。」
人の良さそうな笑みを浮かべているゼアと、ただ無機質に答えるトキコ。
ただの質疑応答のやりとりではあるが、お互い腹の内を見せない冷戦を繰り広げていた。
考えの読めない面は流石ホウオウグループといったところか、とトキコはさも他人事のように思った。
「ほんで、なんか用?この前のことなら別に謝らないけど。」
「あれぐらいのこと、微塵にも気にしてませんよ。」
「そう、だったらそこどけてよ。おうち帰れない。」
「つれませんね、私達は同じ仲間じゃないですか?」
「・・・ぷ、あはは!それ本心で言ってんの?」
「さぁ?どうでしょう。」
かすかに、二人の間に殺気が漂い始める。今すぐにでも戦闘を始めてしまいそうな、一瞬即発の雰囲気である。
ゼアの全てを知っているわけではない、だがこの男が自分と同じように学校に通う少年、リオトのように仲間を
大切に思っているとは思いがたい。だから、トキコはこの男を元より信頼はしていないのだ。
そんな思考を遮るかのように、ゼアが口を開いた。
「・・・私の質問にひとつ答えてくれませんか?そうしたらおうちに帰してあげましょう。」
「いいよ、なあに?」
「何故、邪魔をしたのですか?」
「それはあの時言ったじゃん、鳥さんいなくなったら困るって。」
「違いますよね?」
「・・・・・・・・・」
自らの返答が否定されたにも関わらず、クス、とトキコが笑う。
その笑みは純粋な子供の笑みというよりも、狂気を秘めた歪んだ笑みに近かった。
「・・・鳥さんがいなくなったら困るよ、ホントだよ?」
「しかし、それはあの時貴方を突き動かした理由の”一つ”である。そうですね?」
「うん。」
「そして、滅多に接触することのない私とも戦いたかった、それも理由の”一つ”である。」
「でも一番の理由は、」
「今回の一件は、ホウオウ様の命令ではなかったから。」
「・・・当たり。」
ニヤリ、とトキコが口を歪ませれば、ゼアもまたククッ、と笑った。
「なるほど、本当に貴方はホウオウ様を崇拝しているようだ。」
「もちろんだよ、私にとってあの人は唯一の神。その存在でしかない。
何?裏切るとでも思ったの?」
「子供は大変気分が変わりやすい生き物ですからね、可能性はなくはないでしょう。」
「私がホウオウ様を裏切る時は、自分で自分を殺す時だけだ。」
その時のトキコは、いかせのごれ高等学校に通うあの純真無垢なトキコではなく、
絶対者に忠誠を誓うホウオウグループのトキコ・・・そのものであった。
そんな彼女を見て、ふ、とゼアは肩をすくめて呟いた。
「・・・狂信者、というわけですか。もう少し協力的なら助かるのですが。」
「ホウオウ様が言ったら協力したげるよ。」
ケケケ、と笑えば、もう普段のトキコへと戻っていたのだった。
朱鷺と少女と研究者
「その決意は、お友達との約束を破ることになりかねませんが?」
「嫌だなぁ、約束は破らないよ。だって、その時は私が殺すから。」
| 作者 | 登場人物 |
| しらにゅい | トキコ、コロネ、ゼア |