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『ごめんね』

バイオレンスドラゴンの暴走事件から数日が経った。

放課後、花丸はまっすぐ帰路につかず、少し離れた道の草むらの前に佇んでいた。
何かするわけでもなく、ただじっと草むらを見つめている。

「花丸ちゃん」
「………アッシュ、さん」

不意に背後から声をかけられ、少し驚いたように振り向く。
その声がひどく暗く、アッシュは少し面食らった。

「花丸ちゃん…大丈夫?」
「…いろんな人から、そう聞かれます」
「そりゃあ…聞きたくもなるよ」
「…僕は、大丈夫ですよ」

口の端を小さく歪めて、先程よりも明るい声で花丸は笑う。
遮光性のゴーグルのせいで表情は読みにくいが、どこか無理をしたような笑みだった。
表面上は普通だが、コハナを失ったショックから未だ立ち直りきれていないのだろう。

「そう……ここに、何かあるの?さっきからずっと見てるけど…」
「…いえ。何も……ただ、ちょっと…」
「?」
「……ここ…コハナと、初めて出会った場所なんです」
「……!」

少しだけ首をアッシュの方へ向け「ちょっと…話してもいいですか?」と、控えめに尋ねる。
アッシュが頷いたのを見ると、花丸は草むらに視線を戻し、ぽつぽつと話し出した。

「初めて会ったのは…確か、小学4年生ぐらい…僕がホウオウグループに入って間もない頃でした。コハナは…病気をしてしまったのか、生まれつきなのか、大きくなれずに他のアオダイショウより体が小さくて…鳥に狙われたり、心無い人たちにいじめられたりしてたんです。それで、ここでボロボロになって弱ってたところを、僕が拾って…」
「……」
「…最初は、自分のことを重ねてたのかもしれないです。僕も、よくいじめられていたから…同情に近かったのかもしれない。コハナも、拾った当初はすごく周りに怯えて気が立ってて…よく、噛まれたりしました。…でも、ずっと一緒にいて、二人で笑ったり泣いたりして…苦しいことや辛いことも一緒に乗り越えて…かけがえのない存在に、なっていったんです」

そこまで言うと、花丸はごめんなさい、と小さく苦笑した。

「…急に、こんな話をしてしまって。でも…誰かに聞いてほしかったんです、コハナのこと」
「花丸ちゃん……」
「…分かってます。もう、コハナはいないって…僕が泣いても喚いても、それは変わらないんだって………でも、どうしても納得できない自分がいるんです。頭では理解しているのに…『そのうちひょっこり戻ってくるんじゃないか』『帰ったらいつもみたいに出迎えてくれるんじゃないか』って…心のどこかで考えてしまう僕が、いるんです…」
「………」

アッシュは、何も言えなかった。
無理もない。友達で家族だと言っていたほど大切な仲間を、突然失ったのだ。
事実を叩きつけられても、現実が変わらなくても、「認めたくない」という気持ちがどこかにあるのだろう。
それを消し去ることは、出来ない。

しばらく、二人は無言のままだった。
時折吹く風が揺らす草の音だけが、辺りに響く。

「…帰ろうか」

やがて、アッシュが沈黙を破り、歩き出した。
少し遅れて、花丸がそれに続く。

歩いていると、背後から小さな声が聞こえた。
アッシュが視線だけ後ろに向けると、花丸が泣いていた。
ゴーグルを外し、俯いて制服の袖で零れる涙を拭っている。
歯を強く食い縛って、嗚咽を漏らすまいと、アッシュに聞かせまいとしている。

それに気づかないふりをして、アッシュは視線を前に戻し、けれど少しだけ歩みをゆっくりにして、歩き続けた。


『ごめんね』


(そんな声が、聞こえた気がした)

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最終更新:2013年06月09日 12:15