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「僕」と「私」(仮)

さすがに堪えた。ゲンブに呼び出されて、話している時は、あれが僕の中で最高の答えだった。
しかし、家に帰って改めて1人で考えてみると、とんでもないことを考えていたものだ。


―――トキコは敵。僕の敵。抱く感情はどこか歪んでいて、僕はあいつをこの手で殺したい。


それは確かに事実だ、認めよう。……僕が堪えたのは、またあの衝動が出てしまった事に対してだ。
好きになった相手を殺す、それを以って愛情表現とする……短絡的にも程がある。わかっている。わかっていても、気を抜くと衝動に支配されてしまう。ゲンブやマナに改めて突きつけられないと、僕は自分が衝動に囚われていることを自覚出来ない。しかもそうされても、すぐには気付けない。こうして改めて振り返らないと、そのまま突き進んでしまう。

「…………」

ベッドに転がり、大きなテディベアにぎゅっ、としがみついて考える。
今はこうして落ちついていられる。でも、明日学校に行ってトキコや正人と顔を合わせれば、また殺意が芽生えるのだろう。愛おしさゆえの、殺戮の衝動が。

「……っ」

トキコは最悪、仕方がない。敵だ。奇跡でもない限り、いずれ戦わなければならない。
だけど……このままだと、僕はその内正人を殺してしまう。それだけは嫌だ。僕が本気で好きになった、初めての人なんだから。
僕のこの衝動は、相手を殺すか、失恋するまで止まらない。幸いと言うか、ゲンブのおかげで、まだ誰も殺してはいない。……だけど、今は学生だ。ゲンブはいない。もし、正人に告白して、彼が受け入れて「しまったら」……何の事はない、「終わり」だ。僕のスクールライフも、クラスメイト達の平穏も、全てが壊れてしまう。シスイが事件の相談に来てくれるおかげで何とか踏みとどまっているのが現状だ。

「そんなの嫌だ……殺したくない、殺したくないよ……」

子供のように、身体が震える。本当は誰も殺したくない。クラスメイトと一緒に笑っていられれば、それでいい。本当はトキコがホウオウグループだということさえ、忘れたいくらいだ。
――――なのに、顔を合わせると衝動に心が呑まれてしまう。こうしている間だけ、僕は「私」に戻れる。
「スザク」になる前の、私に。ホウオウグループに心を壊される前の、私に。

「……どうしよう……どうしよう……!」

あの頃に戻りたい。誰かを殺めることなど考えもせず、ただ無邪気に笑っていたあの頃に。
殺したい。殺したくない。聞いてほしい。聞かせたくない。伝えたい。伝えたくない。
相反する感情が心をかき乱す。私が私でいられなくなる。

「助けて……誰か、助けてよぉ……!」

呟きは届かず、闇に消える。だけど、本当に誰かに言う訳にはいかない。私の目的を果たすまでは、「奴」を見つけ出すまでは、私は強くあらねばならない。そう言い聞かせて、自分を保った。
そして、私はまた「僕」になる。火波 綾音は火波 スザクになる。

「……シスイが事件の相談に来るかもしれないんだ。ホウオウグループが動いてるんだ。僕は弱音を吐いてる場合じゃないんだ。僕は僕でいないといけないんだ。心を乱してる場合じゃないんだ…………」


――――翌日、火波 スザクは何も変わらず、いつも通りだった。
 


 

作者 登場人物
スゴロク 火波 スザク


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最終更新:2013年06月19日 21:48