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麒麟の産声

「なぁ、シスイ。ずっと前から気になっていたんだけど……」
「何、どうかした?」

 昼休みの屋上。そんな風にスザクが切り出してきた。一体何だろう。

「君って、一体どこに住んでいるんだ? 家族構成もさっぱりだし」
「ああ。今は一人暮らし。芸備線が近いから色々と便利なんだよね」
「一人、か。親は?」
「ううん。家族はもういない。親は二人とも、二年前に亡くなってるからね」
「あ……それは悪い事を聞いた」

 迂闊な事を聞いたと思ったらしく、スザクが申し訳なさそうな顔をする。しかし、俺は全く気にしていなかった。

「ううん、いいんだ。二人とも、そんなに永くなかったからね」
「……病気、だったのか?」
「ううん、寿命。八十歳まで生きたんだから、十分じゃないかな」
「……何?」

 スザクが目を丸くする。珍しい、彼女でも驚くような事があるんだ。

「待て待て待て……言い間違ってないか、それ?」
「いいや、あってるけど?」
「……えぇと……君、今いくつだっけ?」
「十六歳」
「……えらい、高年齢出産だったんだな……」
「……ぷ」

 何やら深刻そうな顔をするスザクに、俺は笑わずにはいられなかった。ああ、そういう事ね。

「違う違う……そういう事じゃなくって……」
「??? 一体、どういう事なんだ?」
「俺、拾い子なんだ。生まれた時には本当の親はいなくて、爺やと婆やに育てられたんだ」
「ああ……」

 異能力者の捨て子というのは、決して珍しいものではない。ウスワイヤに保護されている能力者の中には、その能力ゆえに家族から捨てられた人達も結構いる。それ故に、人の愛情を素直に受け入れられない、或いは受け取り方が分からない能力者はごまんといる。それらはすべて、幼少期に負ったトラウマや、正しい教育を受けられなかったのがほとんどの原因だ。

「ただ俺、どうも捨て子ってわけじゃないらしいんだ」
「何? それはどういう意味だ?」

 彼女が首を傾げるのは無理も無い。捨てる神あれば拾う神あり。その言葉通り、捨てる人がいるからそれを拾う人がいるのであり、そのどちらかがかけては成り立つ事はない。だから、「拾い子であっても捨て子ではない」という言葉には矛盾がある。

 けど、実際そうなのだ。俺は「拾い子」ではあっても、「捨て子」じゃないんだ。

 

 ムカシムカシの話です。

 ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでいました。
二人は人里離れた山奥でひっそりと暮らしており、慎ましくはありますが、しかし充実した毎日を過ごしていました。

 ただ、一つの事を覗けば。

「お爺さん。私達、この歳になっても、ついに子供は出来ませんでしたねぇ」
「ああ、そうじゃのう……」

 二人は大層仲の良い夫婦でしたが、残念な事に子宝に恵まれる事はありませんでした。老い先短い二人にとって、遣り残した事があるとすれば、それは二人で自分の子供を育てる事でした。

 しかし、ある日の晩です。
二人の枕元に、一頭の、今まで見た事も無い美しい動物が立ちました。それは麒麟でした。
麒麟は何も言わず、ただある一つの方向をじっと見つめています。
夢はそれだけで終わりでしたが、朝目が覚めると、麒麟が残した綺麗な真円の足跡が畳についていました。

「婆さんや、これは麒麟様があの方へ行けという事なんじゃろうか?」
「ええ。きっとそうですよ」

 そう思い立つと、二人は麒麟が見ていた方向へと歩いていきました。
それはずっと山の奥まで続いていて、山暮らしが長い二人でも老体には厳しい道のりです。ですが、二人は「麒麟様の導きじゃから」とお互いを励ましあい、やがてある場所へと行き着きました。

 そこは竹林の中にあり、大きな石がまるで台座のようにあります。竹はその台座を避けるように生えていて、まるで広場のようになっています。

見れば、台座の上に何かが置かれています。恐る恐る二人が近付いてみると、

「お婆さん、お婆さん、赤子じゃ! 子供が寝かされておる!」
「まぁ、なんとめんこい子じゃ」

 そこに寝かされていたのは、一人の子供でした。子供はお爺さん達が近付いた事に気付いて目を開けましたが、不思議と泣き声を上げる事はなく、それどころかじっと二人の様子を見つめています。

「なんと可愛くも賢そうな顔付きの子じゃ。しかし、なんじゃってこんな山奥に赤子が……」
「お爺さん、もしかして麒麟様が、この子を私らにくださったのではなかろうか?」
「おお、もしかしたらそうかもしれんな」

 そう二人は考えると、赤子を大事に抱え、喜びながら家へと戻ったのでした。

 

「……で、その赤子って言うのが俺のコト。まるで桃太郎みたいだろ?」

 にわかには信じがたいらしく、スザクは何とも言えない表情をしている。まぁ、誰だってそうだろう。

 けれどもまぁ、超能力が実在し、世界を変えようとする悪の組織が実在するような世界だ。コウノトリならぬ、麒麟が運んできた子供がいたって何にも不思議じゃない。

「まぁ、そんな感じで爺やと婆やに拾われて、普通の子供と何にも変わらないように育てられ、普通の子供のように育った。まぁそれでも、麒麟が連れてきた子供だから、一つだけ違う力が宿っていた訳で」

 それが天子麒麟。俺の名前同様、名付けてくれたのは爺やだ。麒麟は俺を連れてきてくれた麒麟から。天子は、俺が天から授けられた子供って意味から付けてくれた。最初は仰々しいなと思ったけれども、爺やがつけてくれた大切な名前だから、今はこの呼び名でしっくり来てる。俺にとっては都シスイとは別にある、もう一つの名前みたいなものだ。

「爺やは、俺にこの力をどう使えばいいのか教えてくれた。超能力者は、普通の人には出来ない事が出来る。だから、その力が役に立つように使いなさい。力が無いために、泣いたり苦しんでいる人達がいたら、その人達のために力を使いなさい、って」

 俺達超能力者の力は、常識で括る事は出来ない。そう言った意味では、この世界にとってのイレギュラーなのだろう。
蒼井聖。ウスワイヤにいるあの人は、異能力全般をこの世界にとっての異物として忌み嫌っている。俺達超能力者はこの世にあってはいけない存在であり、そしていつか淘汰されるのだと、まるで予言のように口にする。

 でも、俺は思う。

 「超能力」は、きっと「可能性」と同義なんだ。可能性を作ろうとすれば、同時に良い可能性と悪い可能性の二つが出来る。それと何も変わらない。

 俺達という存在は常識を破壊する。けれども同時に、俺達という存在は今まで出来なかった事を可能にする。

 不要でもなければ、存在していけないわけでもない。俺達は、ただ在るがままに存在するんだ。

「だから俺は、この力を必要としている誰かの為に使う。それが、爺やから教わったこの力の使い方だから」
「……そうだったのか」

 何やらスザクは、俺の言葉に納得したような、感心したような様子を見せている。もしかして彼女は、今まで俺の行動原理がよく分かっていなかったのだろうか。割りかし、分かりやすいようなもんだと自分では思っていたんだが。

「それで、アースセイバーに?」
「いや、アースセイバーはどっちかと言うと保護者かな。爺やと婆やが亡くなると、あそこが俺を引き取りに来たんだ。始めから、そういう決まりだったらしい。爺やと婆や以外に、俺には身寄りなんかなかったから」

 麒麟が連れてきた子供である俺には、まともな出生届なんか存在しない。世間的に見れば、俺は「誕生していない人間」みたいなものなんだ。それを爺やと婆やは分かっていた。それと同時に、自分達が俺より長く生きられない事も。自分達がいなくなったら、俺に頼れる人間は誰もいないって事も。

 だから爺や達は、アースセイバーに託したんだ。自分達がいなくなっても、俺が大丈夫なように。

「…………っ」

 やばい。もう泣かないって決めたのに……あの二人の事を思い浮かべると、目頭がじんって熱くなる。こんな顔、とてもスザクには見せられない。

「ありがとな……爺や、婆や」

 俺、頑張ってるよ。いつか俺も、そこへ帰るから。

 だから今は、天の上から見守ってて。

 二人の自慢の息子は、今日も元気だから。
 


 

作者 登場人物
akiyakan 都シスイ火波 スザク


投下順
「僕」と「私」(仮)← 41話~80話 →いつか「私」であるために

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最終更新:2013年06月19日 21:53