―第9話、真夜中を疾走(はし)る―
真夜中、深夜1時を回った頃だろうか。
僕は目を覚ました。
アリェーゼ・アルミエーラ・クラソニスこと『
アリス』と言うらしい僕。
過去は分からない、思い出せない。
気づいたら僕はこうして奇妙な『サイボーグ』という存在として生きていて訳も分からないままでいた所を、
静葉と出会いこの世界を知った。
それ以来、僕は彼女のある目的の為にこの身に宿る力を使っている。
勿論秘密裏に、だ。
知られると厄介な連中がいる(アースセイバーだったか?)と静葉から聞かされているし、
普段僕は『いかせのごれ高校』に通う生徒として身分を偽装している。
誰もクラスメイトがサイボーグだなんて思わないだろう。
サイボーグが日常的なそんな世界は、病んでる。
こんな深夜に僕が目を覚ましたのには勿論理由がある。
一つだけ、僕はやってはならないことをしているからだ。
クローゼットから動きやすい黒が基調の服、同じ色のグローブとブーツを取り出し着換えると、
僕は家を出て隣にあるガレージを開ける。
そこにあるのは1台の黒に青いラインを持つ大型バイク。
排気量は1500㏄、4ストローク、最高時速は確認できただけで271㎞/h。
リミッターは勿論外してある、と言うより元からついていない。
ナンバープレートも無い…登録してないしね、登録してる『普通のバイク』は別にある。
これは僕の相棒『セスティアル』
僕がいちから組み上げたバイク、サイボーグにとって機械弄りは御手芸さ。
今から何をするのか、それは『走る』と言うことだ。
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街の道路に車はとても少ないけど、僕にとっては都合のいいことだった。
『セスティアル』の重低音が、吹き抜ける風が心地いい。
現在の速度は114㎞/h、まだまだ遅い。
月明かりのある夜と無機質な道路と整然と並ぶ街灯の光が電脳世界のようなコントラストを生み出し、
広い道はただひたすら遠くまで続いている、無限に続くような錯覚を僕に見せる。
僕の記憶に残る唯一の記憶。
いや、記憶とも呼べないような微かに胸に残っている『感覚』。
こうして、バイクに乗って何処かを走っていた光景を何故か断片的な『感覚』として感じる。
僕はそれを思い出したい。
記憶が欲しい。
だからこうして夜になると、時々疾走する。
根拠は無いけど、何かこの身体になる前のことを思い出せるかもしれないから。
アクセルをふかし、速度を上げる。
現在155㎞/h
行くあては無い、ただ走るだけ。
街の中心を抜け、海の見える道路をただひたすらに走る。
派手なことをしたいとかスピードへの挑戦とか、街を一周するとかそういうことはどうでもよくて、
無秩序にしいて言うなら記憶だけを目的にして。
ただ、何の感情も生まないというとそれは嘘になる。
こうして走っていると、懐かしさと安心感を感じる。
まるであるべき場所に帰って来たみたいに。
波の音が子守唄、揺れる車体は揺り籠。
そんな、不思議な感覚。
…でも、甲高いサイレンが陶酔の境地を引き裂いた。
赤いリボンの正義のパンダ。
さぁ、浸るのはおしまい。
スピードの境地を超えて、僕は日常に戻る。
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その数は白バイが2台、応援を呼ばれれば増えるだろうけど今までにそれが到着できたことは無い。
制止を呼びかける声を無視して、僕は鋭くハンドルを切り身体を倒して98㎞/hという高速でUターンを行い、
白バイの真横をすり抜けるように逃走してアクセルを吹かす。
普通ならあり得ない挙動だけど、僕はサイボーグだしこのバイクを作ったのは他ならない僕だ。
この『セスティアル』にできることは隅々まで理解している。
アクセルを開き230㎞/hまで加速して逃走する僕は当然ルートも、警察の行動パターンも把握している。
絶対に追いつけない。
…僕が家に帰りついたのは午前4時のこと。
服を脱ぎ棄て熱いシャワーを浴びる。
熱い湯が僕の頬を伝う…携帯が鳴る音が聞こえる。
「もしもし、静葉?」
『ああ、俺だ。明日は早めに集会所に来てくれ。』
<To be continued>
最終更新:2013年07月03日 16:04