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情報屋、動く

「………」

ハヅルが目を覚まして一番最初に目にしたものは、真っ白な天井だった。
次に感じたのは、微かな薬品の匂い。

おそらく病院の一室だろうと結論付け、鈍く痛む後頭部に軽く顔を顰める。
何故自分がこのような状況に置かれているのか、ひとまず整理しようとしたところ、不意に声をかけられた。

「ああ、起きた?」

聞き慣れた声に、首だけをそちらへ向ける。
ベッドの脇に首に軽く包帯を巻いた長久が立ち、こちらを覗いていた。

「……久我、か?」
「ああ。一応、本物の、な」

いつも通りの軽口を叩く長久に、軽く口の端を上げて笑う。

「俺は……どのくらい、こうだった」
「一週間は経ってねぇよ」
「…そうか」

それだけ聞くと、ゆっくりと上体を起こす。
「目が覚めてすぐに体起こせるなら上等だ」と笑うと、長久は隣の自分のベッドに戻り、腰掛けた。

「…アーサーは?…無事か?」
「階段から落ちてあちこちぶつけたり足捻ったりしたみたいだけど、平気そうだ。“保護者”もついてるみたいだしな」
「…保護者?」

長久の含みのある言い方に軽く首を傾げる。紅も自分も長久もこうして入院しているのに、誰がアーサーの面倒を見ているというのだろうか。
長久に視線を向けるが、彼は既にどこからか取り出したハードカバーの本に視線を落としている。
小さくため息をつくと、ハヅルはそれ以上の追及をやめた。

「…久我。お前は、大丈夫なのか…?」
「あんたやオーナーほどじゃない。次の検査で異常なければ退院できる」
「そうか…大した事がなくて、何よりだ…」

そこまで言って、はたと気がついた。
今、長久は「あんたや“オーナー”ほどじゃない」と言った。
しかし、以前お見舞いに行ったときには危険に陥るような体調ではなかったはずだ。

「…紅にも、何かあったのか…?」
「……ああ。昨日、アーサーが教えてくれたよ」

本から視線を上げると、長久は肩を竦める。
そして、自分たちが襲われたのと同じ日に、いきなり容態が悪化し、峠は越えたものの今も予断を許さない状態なのだと話した。

「……それは…」
「…おそらく、あいつが噛んでるんだろうさ。あの悪運が強いオーナーが、そう簡単に死に掛けるはずが無い」

そう言うと、長久は持っていた本をハヅルに投げて寄越した。
手に取ってようやく、ハヅルはこの本が長久がいつも自らの能力『ファイリング(情報綴込) 』に使用している本だと気づく。

「…何か、載ってるのか?」
「まあな」

その言葉を聞くと、本に視線を落とし、表紙をめくる。
目次に新規に追加された項目を見ると、目を細めた。

「……蒼介のことか」
「襲われた時に思いっきり叩いたんでね。蒼介自身にダメージは無さそうだったけど、少しだけ情報は頂いた」
「…そうか」

ぱらぱらとページをめくり、「音早 蒼介」の項目に目を通す。
しばらくの間無言で読んでいたが、やがて読み終わったのか本を閉じると長久に返した。

「何か分かったか?」
「……ああ。蒼介は…やっぱり、UHラボと関わりがある」
「そういや…あの時も言ってたけど、UHラボって何だ?ラボって言うんだから研究所なんだろうけど…」
「それは…おいおい説明する。今は…少しでも情報が必要だ」

ゆっくりとした動作でベッドから降りると、どこかへ向かおうとして足を止める。
そして、少し考え込むような仕草をすると、長久に向かって尋ねた。

「…アーサーは…携帯を持っているか?」
「ん?ああ、多分…。オーナーが緊急連絡用にって、子供用の持たせてたはず」
「…番号、知ってるか?」
「ああ。……ほらよ」
「…すまない。…少し、アーサーに電話をかけてくる」

長久がアーサーの携帯番号を走り書きした紙を受け取ると、病室を出る。
少し廊下を歩いた先には、面会室があり、そこに公衆電話がある。
ハヅルは小銭を数枚入れると、メモとにらめっこをしながら公衆電話のボタンを押した。

数回のコールのあと、聞き慣れた腹話術の声が聞こえる。

[…も、もしもし?]
「……アーサー…いや、ロッギー…か?」
[…ハヅル!?目が覚めたんだね!よかった、よかった!!]
「ああ…心配をかけた。…ロッギー。アーサーは、無事か?」
[アーサーは平気だよ。ちょっとあちこちぶつけたり足捻っちゃったりしたけど、大した事無いって。僕も一度はぼろぼろにされちゃったんだけど、親切なおにーさんが直してくれたの]
「…そうか。…それは、よかった」

[…それで?ハヅルが僕らに電話かけてきたのはどうしてだい?ただおしゃべりするために電話かけるような人じゃないだろう?]
「ああ………アーサー、ロッギー。…お前たちに、仕事を頼みたい」

そう告げると、電話の向こうで空気が張り詰めた気がした。
アーサーも情報屋の一員だ。仕事と聞いたら真面目になる。
特に、今情報屋の中で自由に動けるのはアーサーただ一人なため、責任感もあるのだろう。

[…うん。僕らは、何をすればいい?]
「調べたいことがあるんだ……関連する資料を、資料庫から探して持ってきてくれ。欲しいのは…――」
[――……分かった。いつ持って来ればいい?]
「なるべく早いほうが…いい。蒼介の手がかりになるかもしれない、からな…」
[…分かった、すぐ探すよ。今度お見舞いに行く時に持ってく]
「ああ……頼む」

電話が切れたのを確認すると、受話器を置く。
それを見計らったかのように背後から声がかかった。

「子供使いが荒いぞ、ハヅル」
「……仕方ないだろう。今、外に出られるのは…アーサーだけなんだ」
「ま、それもそうだな。…で、調べものってそのUHラボのことなのか?」
「…ああ。アーサーから資料が届き次第、本格的に調べる。…久我、手伝ってくれるか」
「言われなくとも」
「…助かる」


「誘拐犯には、きつい灸を据えてやりてえな」
「ああ、そうだな……身内に危害を加えた罪は、重い」


「「徹底的に、叩くぞ」」


情報屋、動く


(生きていれば、戦える)

(頭が動くなら、抗える)

(情報と知識が、我らの武器)


(さあ、反撃準備だ)

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最終更新:2013年07月16日 20:48