―――余計な真似はするな―――
そう言われて、はいわかりました。と素直に言うことを聞くほど、この男はいい子ではない。
そう、この男。風見 文也は。
「そわそわ」
「………」
「そわそわ」
「………」
「そわ、」
「
フミヤ、うるさい」
静葉が仲間に連絡をしてから数十分後――
パーカーのポケットに手を入れながら、それを羽のようにばっさばっさと動かしている男を、袖子はまるで母親のように叱った。
だってー、とフミヤは唇を尖らせる。がさがさと草の揺れる音がし、あの影のような猫が現れた。
それでも尚、フミヤは話を続けた。
「せっかくこの森に来たのにさ、ここで何もせずにただ助けを待つーだなんてつまらないよー」
「…」
「あー!つまんないつまんないつまんないつまんないつまんないッつまんな」
「じゃあ、お前だけいってこい」
静葉がフミヤの背中を、とん、と足で押した。「ひょ?」という素っ頓狂な声と出してフミヤは猫の前に転がり出る。
猫からしたらいきなり自分の前の草が大きく揺れたように見えただろう。猫が低い唸り声を上げる。
袖子と亮は短く悲鳴を上げると、静葉の両隣でわたわたと慌てた。
「ちょ、ちょっと静葉!あ、あんなことしたらあの人危ないよ!」
「そ、そうだよ!気持ちは痛いほどわかるけど!すっごいわかるけど!」
「ね、ねーちゃん、あんまり、揺れないで…」
「わああ、ごめんナルミ君!」
(少し、やりすぎたかな…)
これぐらいしないとあの「フミヤ」は黙らないだろうと思い、この行動に出たのだった。
少しだけ痛い目を見させて静かにさせないと、なんらかの衝撃で能力が解け、ここにいる全員が―――…そう、思ったからだった。
(もう、そろそろいいか。あいつも懲りただろう)
もう一度能力を使用し、フミヤの気配を消してやろう。そう思ったときだった。
「やーいやーい子猫ちゃん!ここまでおーいで!」
……フミヤは笑顔で、猫を挑発していた。
亮の力はかかったままなので、猫からフミヤの姿は見えない。なので、猫からすれば突然後ろから人間の声が聞こえたことになる。
フミヤは自身の能力「ゲイルトラヴェル」――簡単に言えば瞬間移動能力を駆使して、猫を翻弄していた。
「ほらほら、こっち!こないのー?」
今度は、前から。
「ねー、つまんないって!」
右から。
「こっちにおいでー!」
左から。
「こっちからいっちゃうよー?」
また、前から。
猫が焦っているのが目に見えてわかった。きょろきょろと顔を動かし、その場から動けずにいる。
「た、楽しんでる…」
「あぁ、もう…」
きょとん、とする静葉の隣で、袖子は大きな溜め息をついた。
「いいや、静葉ちゃん、そのままにしとこう」
「い、いいのか?!」
「うん、なんか楽しそうだから…」
親しい人物がそう言うのならいいか、と静葉は目を閉じた。
まぁ、またつまらないつまらないと騒がれても困る。丁度いいだろう。
「しかし…あいつはあんな化け物を前にしてまだふざけた調子でいれるのか」
「うーんと…まぁ、フミヤが超変わってる奴なだけだよ」
袖子は少し照れくさそうに笑う。
「昔からそうなんだよね。不思議なものが好きで好きでたまらない!って。いっつも不思議を求めてどっかへ走ってた。…今もだけど」
「世の中、いろんな奴がいるもんだな」
ふ、と笑みを浮かべながら、静葉は時刻を確認した。あと数分。数分で仲間がここに到着する。
そして、真っ青な顔のナルミを見ると、安心させるようにその頭を優しく撫でた。
「待ってろ、…もう少しで助かるからな」
5つの風
最終更新:2013年07月16日 20:52