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<ショウゴの回想と決意と覚悟。>

<ショウゴの回想と決意と覚悟。>














誰もいない柔道場で、ただ一人練習に励む姿があった。

ショウゴである。

ウミネコにより今日の訓練が別にされても、
ショウゴのやることは変わらなかった。

天子麒麟の副効果で回復させてほしかったので、
せめてシスイはこっちに来て欲しかったのだが、
それもこれも俺が不甲斐無いのがいけないのだ。

そう考え、3セット目のトレーニングを終える。
今日は乱取りが無い分、多めのトレーニングだ。4セット目に入る。

ランニングをしながら、いつしかの事を思い出す。

「どうして戦う練習をするの?」

という問いに、親父はこう答えていたな、と。

「体を鍛えるとな、心も鍛えられるんだよ。
戦いに強くなれば心も強くなるのさ。それにな、
銃やら刀やらを扱うからこそ、使う人間は精錬されてなければならねぇ。
…わからねぇか?簡単な事だ、暴力は武器が振るうんじゃねぇ。
人が振るうんだ。だからこそ心も鍛えなきゃなるめぇよ。
いいか、体といっしょに心もコントロール出来なきゃ、一流にはなれねぇ。」

今はショウゴもそう思う。

だからこそ、鍛練は欠かさない。



10種の腕立てを行ないながら、思い出す。

出雲寺組襲撃の時。

俺は、ただ歯を食いしばる事しかできなかった。

最高顧問である、九鬼兵二というオジキに、全てを滅茶苦茶にされた。

親父を、妹を、組員を、家族を、助け得る限りの全てを救う為には、
抵抗せずあの裏切り者の言う事を聞く他無いと思った。

俺は、ただ歯を食いしばる事しかできなかった。

出雲寺組組長のアスミを攫い、
オジキの視察と出雲寺組の奪還を合わせ混乱を誘い、
そうして得たものは、
親父の死と言う真相だけだった。

そう、親父の死、と言う真相だけ。

妹の死に繋がるモノは何一つとしてなかった。

あの妹の事だ。親父がやられて黙って見ているだけのハズがない。

だからこそ妹も死んだと思った。

15キロのダンベルを左右に持ち、
ゆっくりと10種の持ち上げを行ないながら、
ミヅチの襲撃を思い出す。

鬼英会総長の野心は、全くなかったわけではない。

しかし一瞬でも「ミナコがいなければ『仕方なく』総長の座に着ける」
と考えた自分を恥じていた。

だからこそ、鬼英会に戻らず生き残った幹部に運営を任せたのだった。

ミナコと親父の捜索を打ち切ったのにも理由がある。

誰がそれを見つけようとも、どの組員にもショックにしかならないからだ。

自分自身、二人の遺体を目の前にして、平然としてはいられないだろう。

リュウザ達が聞いた目撃証言だって他人の空似、という事も有るだろう。
空振りに終わる事も有るだろう。自分が死ぬまで探し続けても
見つからないかもしれない。

だからこそ、捜索を打ち切った。

…思いを、断ち切ったフリをしていた。


ダンベルを下ろし、鏡の前に立つ。
そこには、道着を着た男が写る。
インナー代わりとばかりに包帯やテーピングであちこちを固定され、
傷だらけの男が写る。

ショウゴはその男の顔を見て、ああ、と思った。

疲れている。くたびれている。覇気のない顔をしている。

ギリ、と歯を食いしばる。こんな情けない顔をしていたのか。
こんな姿でウミネコたちと訓練していたというのか。
次の瞬間、衝動的に拳を鏡にぶつけていた。

拳が血まみれになり、鏡は砕けて落ちた。

心のどこかで気付いていた。自分の不調の原因に。
心のどこかで気付いていた。どうすればいいのか。
気付いていたのだ。それはウミネコ達も。



全ては「覚悟」が足りてなかったのだと。



自分の中の迷いに気付かず、覚悟を決めた気になり、
中途半端に闇雲に訓練を行う、そんな事に意味はない。

ウミネコが訓練を中断した理由が、ようやく分かった。


ショウゴは正座し、黙想を行ない、気持ちを落ち着ける。

全てを思い出し、全てを整理していく。

そして、深呼吸をし目を開いた所で。


白昼夢を見た。


「…なぜ、」

また「なぜ」かよ、もううんざりだぜ。

「なぜ、お前は悩んでいる」

…怨嗟ではなかった。いや、それ以前に「なぜ」のあとが聞こえてくる。

「もうそろそろ、正直にならんか。お前は一体、どうしたい。」

「親父、俺は覚悟を決めたよ。」

「んなこたぁ知ってるわ。その覚悟も聞いてやる。言え。」

「…俺は親父も妹も両方とも見つけ出す。
骨だけだろうが髪だけだろうが見つけ出す。
その為に全力を尽くす。
 俺がどうなろうが知ったこっちゃない。
他がどうなろうが知ったこっちゃない。
邪魔する奴は生まれて来た事を後悔するような目に遭わせてやる。
組員に、家族に手出しはさせない。
俺は今以上に強くなる。
大衆の正義なんてクソくらえ、
揺るがない覚悟と信念こそが俺の正義だ。
限界まで力を出し切ってやる。
やりたい放題やってやる。

 …これが俺の、『覚悟』だ。」

男はニヤリと、不敵に笑う。

「よく言ったぞ、ショウゴ。それでこそわが息子だ。ついでに義侠心も加えとけ。」

ショウゴは再び目を閉じる。

もう一度目を開いたときに、ショウゴの前には誰も座ってはいなかった。

そう、白昼夢。九鬼兵一という、鬼英会総長であった親父は、もういない。






『…電話してきたってことは、もういいのかいショウゴ?』

「ああ。俺にゃ…『覚悟』、ってもんが足りてなかったんだな。
ようやく分かったよ、ウミネコ。」

『よろしい。どうするね、こっち来るかい?』

「いや、今日はやめておこう。明日また宜しく頼む。」

『そうか、じゃ。』


柔道の練習用の人形は3体とも壊れていた。
関節ごとに壊され、首は折れ、頭部には凹みがいくつも空いていた。
しかしそれは無理矢理紐で吊るされていた。
電話を置いたショウゴは、再びその人形に相対する。

その顔には最早、迷いは無かった。

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最終更新:2013年07月16日 20:57