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悔恨の雨

その日は、朝から天気が悪かった。
重く暗い雲が、空全体を覆っていた。


花丸は、近所にある廃材置き場にいた。
廃材置き場といえば聞こえはいいが、実際は広めの空き地に使われなくなったものがばんばん捨てられているだけだ。
そこに置かれているのは使われなくなった材木だけではなく、鉄骨や鉄パイプ、誰かが捨てたのであろう壊れたテレビや椅子なんかもそこかしこに転がっている。
スクラップ置き場とか不法投棄場と言ったほうが正しいかもしれない。

奥が見えないほど山のように積み上げられた廃材鉄材に、バランスもへったくれもあったものじゃない積まれ方をしたゴミの数々。
住宅地から離れていることもあり、危険極まりない場所として近づく人はほとんどいなかった。
だからこそ、花丸は一人になりたい時はいつもここに向かう。
そうして、入口から見えない奥まった場所で、気が済むまでじっとしているのだ。


「………」

子供が作ったかのような土の山に、木の枝と針金で作られた歪な十字架が刺さっている。
まるでお墓のようなそれの前に、虚ろな目をした花丸が座り込んでいた。

「……ミツさん……」

ミツの死を目の当たりにしてから、花丸は学校にも行かず家にも帰らず、ただずっと廃材置き場で膝を抱え蹲っていた。
考えるのは、ミツの言葉。あの時、『彼』が伝えようとしていたこと。


“貴方は、自分の本質を見失っています。もう一度思い出してください。貴方は、そもそも――”


「ミツさん……僕の本質って何ですか?貴方は、僕に何を思い出して欲しかったんですか?教えてください、ミツさん……」

抱えた膝に顔を埋め、弱弱しい懇願が漏れる。
しかし、それに答えてくれる相手は、もういない。

「…何で……何で僕を逃がしたんですか、ミツさん………ごめんなさい……ごめんなさい……」


ミツは、強かった。
戦闘力も、状況を把握する力も、花丸(じぶん)とは段違いだった。
ミツ一人なら、逃げることも出来たであろう。
それをしなかったのは、きっと花丸(じぶん)がいたからだ。
弱い花丸(じぶん)を庇ったが故に、ミツは死んだのだ。
死んでしまったのだ。

「……もうやだよ……どうしていいか分かんないよ…」

自分が弱かったから、友を失い、友を傷つけられ、あんなに強かった仲間さえ自分を庇い帰らぬ人となってしまった。
自分が強くなろうとしたから、己を否定され、仲間を傷つけ、心を通わせた家族を喪う結果となった。

強くなることもできず、弱いままでもいられず。
花丸の心は限界だった。壊れてしまいそうだった。


「………」

からん、と、風に煽られ廃材の上から落ちてきた鉄パイプが花丸の傍に落下する。
しばらくそれを眺めていたが、やがて立ち上がると徐に鉄パイプを拾い上げる。

「…………………うああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

そして、渾身の力で振り上げると、目の前の廃材を殴りつけた。

一度堰が外れてしまったら、衝動は抑えられなかった。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」


悔しかった。バイオレンスドラゴンを上手に操れないことが。
腹立たしかった。戦うことも守ることも、何も出来ない弱い自分が。
悲しかった。ミツを失ってしまったという現実が。
憎かった。己の選択を嘲笑い、仲間を奪った『失われた工房』が。

その全てを吐き出すかのように、ただ周りの廃材を滅多矢鱈に殴りつけた。






「はぁ……はぁ……はぁ……」

どのくらいの間、そうしていたのだろう。
持っていた鉄パイプはひしゃげて折れ曲がり、周りの廃材には大小さまざまな傷が刻まれている。
中には脆くなっていたのか真っ二つに折られたものもある。

肩で息をすると、力尽きたようにその場に座り込んだ。

「…………」

どこか放心したように、座り込んだまま空を見上げる。
遮光性のゴーグル越しに見る光景は、どこもかしこも薄暗い世界だ。
どんよりとした雲がさらに暗く、さらに重く圧し掛かってくる。

「………はは…」

口の端を歪め、自嘲気味に笑う。
衝動のまま暴れてしまえば気も晴れるかと淡い期待もあったが、そんなことはなかった。
むしろ、ただ虚しさが増しただけだった。

悲しくて、苦しくて、悔しくて、辛くて。
それらをどうすることも出来ない自分への腹立たしさに涙が溢れた。

「うっ、ぐ…………う、うあああああああああああああああああ……!!」

泣いて、泣いて、泣き続けた。

ゴーグルをかなぐり捨て、地面を殴り、天を仰ぎ。


悪夢を見た幼子のように、泣き叫んだ。


悔恨の雨


(ほどなく、雨が降ってきた)

(彼の心を表すかのような)

(大荒れの、土砂降りだった)

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最終更新:2013年07月30日 22:39