【急行ジャスティス】
―第10話、報われない話―
『静葉がアリスを名指しで読んで助けを求めている!』
ダニエルの切迫とした声を抜きにしたとしても、あの静葉が有事の際には団員の中で一番『戦闘能力』の高い
アリスを名指しで呼ぶと言うのが、どのようなことか位はよく理解しているつもりだ。
危険が、それも命に関わりかねないものが静葉の身に迫っている。
あの静葉が簡単に死ぬなどとは、アリスは考えていない。
それでも…アリスは静葉が心配だった。
記憶と共に文字通り全てを一度失ったアリスにとって静葉と団の仲間は家族に等しい存在だ。
静葉によってあの暗い廃棄された研究施設から救い出されたアリスは、その身に宿る力を全て静葉の為に
使うことを心に決めている。
暗く冷たい牢獄のような培養層から目覚めさせてくれ、最早化け物に成り果てた自分の家族になってくれた
静葉と、そんな彼女が愛する団の為に。
「…我は喜んで業を背負わん。」
とっくに覚悟は出来ていた。
「スキャンパー、ごめん。また力を貸してほしい。」
「イエス、マイマスター。」
黒光りするタンクを撫でながら言ったアリスに対して、なんとバイクが返答する。
『スキャンパー』と名付けられたこのバイクにはアリスによってAIが組み込まれている。
それは、相棒と話がしたかったからと言う何処か物悲しい理由だった。
エンジン音が響き、スキャンパーを駆りアリスは恩人を助けるべく走り出した。
「…はぁ。」
ため息をつくのは呆れ眼の静葉である。
彼女の目の前には猫を翻弄する珍妙な男の姿があった。
成見の視たものから察する限り、自分たちの身に危険が迫っている事には間違いないはずだ。
それも、そうそうヘラヘラしていられないような危険である。
だからこそ静葉はアリスを名指しで呼んだのだが、これでは余りにも緊張感が無さすぎる。
「なぁ、本当に危険なんだよな?俺、なんだか自身が無くなってきたんだが?」
「う…確かに見たんだ。けど、実は案外大丈夫なのかな?」
まだ体調が悪いらしく、袖子の背で揺られている成見もどうやら同意見のようだ。
これではアリスに申し訳ない。
「そういえばマナ…お前の知り合いも来てるんだよな?
アリスが到着したら回収してさっさとここから離れよう。」
「…一応、ありがとう。」
静葉の申し出にマナが答えたその時、再び静葉の携帯が鳴った。
「ダニエルか?」
「うん、アリスが後3分位で目的地に着くから能力を解除して。」
「わかった。それと、みんなを集会所に集めてくれ。
本格的な対策と今後について話し合う。」
「ん、了解だよ。」
そう言って、電話は切れた。
「聞いた通りだ。
もうすぐで助けが来るが、その間アリスが俺たちに気づくように能力を解除しなければならない。
フミヤ、そろそろバカな真似は止めて真面目に大人しくしろ。」
「ええ~つまんないよ~」
「いいから、冗談はここまでだ。
…能力を解除した。亮、お前も解除しろ。」
「あいよー」
その直後、まるで森全体からいきなり睨まれたような錯覚を覚える。
森は静まり返り、まるで害意を表すかのように。
「…静葉、これ不味くない?」
「ああ、なんか睨まれてるみたいだ。
…流石に、こんだけ衰弱してる成見に視てもらおうとは思わんが。」
みるみるうちに何らかの気配が強くなっていき、息が詰まる。
しかも、あの影のような猫はこちらを睨んでいた。
――――その時だった。
「間に合ったようだね。
静葉、状況の説明をお願い。」
空中から、制服姿の少女が濃藍色のポニーテールの髪をなびかせ静葉たちの目の前、
猫との間に割って入るように着地した。
人間が着地して無事な高さではなく、地面が大きく陥没する。
そんなありえない場所から降ってきた少女が顔を上げると、その瞳は片方は髪と同じ藍色だが、
もう片方は鮮やかな紫色だあった。
「アリス、済まないな。
成見が不吉なものを視たんだ。しかも命に関わるような物らしい。」
「そう、それだけ聞けば十分だよ。」
「わぁ!キミ凄いね!
なんて言う名前?キミも超能力者だったりするの?」
「ちょ…フミヤ!」
「僕の名前はアリス、サイボーグだよ。」
少女は立ち上がり、そう告げた。
<To be continued>
最終更新:2013年07月30日 22:41