「正直、面倒でした。」とでもいいましょうか。
敬愛するホウオウ様のためなら何でもやると言ったのは紛れもなく僕な訳ですが、まさかこんな落ちこぼれ高校に転入しなければならないとは…。
そもそも学校というものを僕は知らずに生きてきました。
昔から一人が好きだったものですから。
ホウオウ様に拾われてからも、基本的に単独行動。
パートナーをつける話も上がっていましたが、進展を知らせてくれないあたり、停滞しているのでしょう。
まぁ、誰であろうと構いませんけど。
「…と、ここですね。」
僕は扉の前に立つと、部屋の名前を確認しました。
『保健室』。
この高校に転入して早一ヶ月。一通り挨拶したつもりではいましたが、養護や事務の先生を忘れていました。
まぁ、挨拶しておくことに問題はないでしょう。
ある程度信頼を置いておけば、後々「有利」になりますし…。
「失礼します。」
扉を開けると、中には二人。
片方が玉置 静流養護教諭。長身にきっちりと着こなされた白衣、乱れた髪と、それに似合わないくらいのベビーフェイス。
見るからに「好青年」な彼は、天使といっても過言ではないでしょう。
そしてもう片方が火波 スザクさん。僕の一つ上の方です。
人目を引く白髪と赤い瞳。女性で「僕」の一人称を使う彼女は、印象に残って離れることはないでしょう。
様子を見ると、どうやら手の手当てをしていたようです。
どうやら僕はお邪魔してしまったようですね…。
「ノルン、とか言ったか」
自分の名前を呼ばれて、思わず顔をあげました。
「おお、覚えてくれましたか。嬉しいですねえ」
安堵が自然と口元を緩ませます。
比較的目立たない顔立ちに「していた」ので、記憶に残ってないかと思っていましたので。
「どうした、怪我でもしたか?」
「いえ、事務や養護の先生には、まだちゃんと挨拶をしていませんでしたので」
嘘を吐く必要はないので正直に答えます。
その様子に玉置先生は笑顔を向けますが、スザクさんがこちらをにらんできます。
『勘づいているのでしょうか』
本能で察した僕は、逃げるように保健室から出て行ってしまいました。
屋上は、この退屈な生活を幾分ましに見せてくれる力があるのでしょう。
僕はフェンスによりかかり、目の前に広がるいかせのごれを一望しました。
この世界は嫌いじゃありません。ただ、もっと笑顔がほしいのです。
…なんて台詞、僕が言ってもいいのでしょうか。
以前、話に聞いたことがありました。
敬愛されるべきホウオウに関わりながらも離れた能力者がいると。
一人や二人ではありませんので、覚えようともしませんでしたが、はっきりと分かりました。
火波 スザクさんはその一人であると。
特徴的なその見た目や物腰は、僕の記憶にも残っていました。
入っていたかどうかは別として、僕にはその理由が分かりませんでした。
なぜなら…。
「…!」
足音。誰か来ます。
そう感じた僕は、咄嗟にフェンスをよじ登っていました。
入口は一つ。ここにつながる階段も一つしかなかったからです。
そして、なりふり構わず飛び降りていました。
飛び降りた後に「この後どう着地するか」を考えるくらいしか余裕があらず…。
…ひどく大きな音がしていないことを祈るしかありませんでした。
盛大に上がる土埃。風に舞う枯葉。
アスファルトの欠片でありましょう、小石を払いながら立ち上がりました。
「ああ、制服が破れてしまいました…;」
膝元を見ながらつぶやいていました。
怪我は「彼」のお陰で、膝をすりむいて、手の平を切ったくらいで済みました。
「上級幹部までの細胞をもらっておいて正解でした…。」
そう呟いて、立ち上がりました。
が、それと同時に玉置先生がこちらに気付きました。
「どうしたんだ!?ぼろぼろじゃないか!」
僕に駆け寄り、手を取ります。
「ああ、大したことないですから。ちょっと悪ふざけに乗せられてしまいまして…。」
「大したことだよ!おいで、治療しよう。」
「いえ、結構d…」
断ろうとした瞬間、重圧感が突然襲い掛かりました。
それも目の前…、玉置先生から。
ここで信頼を失うとまずいでしょう。
いえ、その前に殺されそうなんですが。
「…やっぱり、お願いします。」
僕の笑顔は、引きつっていたことでしょう。
流石は養護教諭。ほとんど痛みがないほどにしっかりと治療してくれました。
制服が破れたことは悪戯に巻き込まれたことにし、一日を終えた僕は、暗い地下に帰っていました。
そこで告げられた、僕の運命。
「彼」との二人一組行動という命令。
学校で会った玉置先生と、スザクさん。
今まで保たれた均衡が崩されるような緊張感を身に覚えました。
敬愛なるホウオウ様。
僕がしていることは、正しいことなのですか…?
| 作者 | 登場人物 |
| 大黒屋 | ノルン、玉置静流、火波 スザク |
投下順
その痛みから彼は何を学ぶ?← 41話~80話 →ノルンの過去話(仮)