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夏の縁日、恋の花火

「……はあ?」
「だから! ハルキに惚れた理由教えてって言ってるの!!」

ヘッドフォンから流れるラジオを聞き流し、漫画を読むあたしの前で、スイネがキラキラした目で言った。

「だって二人は恋人でしょ?」
「そ、そうだけどさあ……つか、何でそんなこと聞くの」
「気になるからに決まってるじゃない! 全部言うのよ、さあ!!」
「はああああ!?」

いやいやいやいや。
ふざけんな……マジでふざけんな!!
この手の! 話はすげえ!! 苦手なんだよ!!!

「あら、どうして?」
「恥ずかしいからに決まってんだろアホ!!」

顔真っ赤で反論すると、右辺りから笑い声が。
この声は……お前かトキコ!

「ホタルさんって、意外とシャイだよねー」
「うっ、五月蝿い五月蝿い!!」
「変なところでねぇ~。リア充の癖にぃ」

だああああああ華燐まで混ざってくるなあああああ!!!!

「そんな、天を仰ぐようなポーズしなくても……」
「するわ!!!」
「まあまあ。で、どっちが告白したの?」
「聞けよコラ」
「いいじゃない別にぃ~。アタシにも聞かせてよぉ」
「はいはーい! 私も私も!」
「囲むな! 聞き出すな! やめろぉお!!」

ホント勘弁してくれ!
そんな、頭爆発しそうな、甘酸っぱい乙女な話なんかやってられっか!!

「今の蛍も十分、乙女だけどぉ」
「そっ、そんなこと――」
『お~ね~が~い~』
「ああもうハモるな! 鬱陶しい!! 分かった、分かったよ!」
「おっ? という事は?」
「言うよ! 言えばいいんだろ! はあ…………えーと――」


* *


14になった年の夏。
あたしは、ハルキと一緒に縁日に来ていた。
たくさんの人だかりと、夜店の仄かな明かりが、祭りの雰囲気を作っている。
店も「たこ焼き」、「わたあめ」、「金魚すくい」、「射的」と、種類はとっても多い。
弟の面倒を見る姉のように、ハルキと手を繋ぐあたしは辺りを見渡した。

「どこ行く?」
「うーん……とりあえず、お腹へった」
「それじゃあ、何か食べ物買うか! どれにしよっかな~……」

寄る屋台に悩んでいた時、あたしの目は『ある物』に吸い寄せられた。
それは――。

(光る剣だ……カッコイイ……!)

中学二年にもなって、こんな子供臭い物に惹かれるなんて、って思うけど……。
やっぱり、こういう武器モノに弱いんだよなあ、あたし。

「蛍?」
「ふえっ」
「どうしたの?」
「あ、ああ! あのさ――」
「ねえ! アレ可愛くない?」
「!」

この声は……まさか……。

「ホントだ! 可愛い~」
「どれにしようかなあ」

やっぱり……。
ここから離れた屋台で、同じクラスの女子達が、キーホルダーやストラップを見てはしゃいでいる。
どれも女の子が好むような、可愛いものばかり。

(……やっぱり、あたしって変かなあ……)

同じクラスの女子達は大抵、恋愛やファッションの話だとか、手芸やお菓子作りだとか、如何にも女子らしい趣味や会話。
それに引き換え、あたしは少年漫画や武器関連の本を読み、趣味は武器の手入れと製作、収集と女らしさの欠片もない。
そのせいで話しかけづらくて、クラスの友人があまりいないんだよな……。

「? 蛍?」
「あっ……な、何でもない! えっと、たこ焼き食べよう! たこ焼き!」

剣の玩具買ってるところ……それを持って喜んでる顔、正直見られたくない。
不思議そうなハルキの手を強引に取って、たこ焼きの屋台に行った。




「お祭り、楽しいー」
「ね! ちょうど花火上がる頃だし、疲れたからどっかに座ろ」
「うん」

座れそうな場所を探す。
けど、どこもいっぱいで中々見つからない。
するとハルキが。

「見つけた」
「え、どこ?」
「あそこ」

指を差す方向には鳥居の階段。
意外なことに、人一人いない。
木陰であまり目立たないせいか?

「見晴らしも問題なさそうだし、いいな。あそこで見ようか!」
「花火、見たことないから、楽しみ」
「あ、そういやそうだっけ……きっと気に入ると思うよ」
「わーい」

一番上まで上り、冷たい石段に腰かける。
まだ花火が咲かない夜空を見上げつつ、かき氷を食べ始めた(因みにソーダ味)。
ハルキはりんご飴を食べる……と思いきや。

「あ」
「むー?」
「寄るの、忘れるとこだった」
「え、どこよ」
「ちょっと待ってて」
「あ……」

何も言わずに降りてった。

「……まあ、いいか」

黙々とかき氷を食べる。
たまに空を見上げて、後の事を考えた。
半分ぐらい食べ終わったところで、空が光ったのに気付く。
花火の打ち上げが始まったんだ。

「まだかな、ハルキ……」

愚痴を溢すと、下から足音が聞こえてきた。
もしや、と思い見ると、見慣れた水色の髪が。

「はあ、はあ、はあ……」
「遅いよ。もう花火始まってるってのに」
「ごめん。ここから結構、離れてて……」
「……ったく。で、何買った?」
「えっと、蛍へのプレゼント」
「へ? ……あたしに?」
「うん。はい」
「…………」

あたしは、驚きのあまり何も言えなかった。
だって、ハルキが買ってきたコレって……。

「剣の……玩具……」
「蛍、凄く欲しそうに、見てたから」
「……あ」

バレてたのか。
……何か、恥ずかしい。

「つか、わざわざ自分の分で、買わなくても良かったのに……」
「じゃあ、何で蛍は買わなかったの? 欲しいなら、買えばいいのに」
「………………中学生なのに、こんな小さい子が欲しがるような玩具、買うなんておかしいし……それにあたし、こういう物ばっか好きで、全然女の子らしくなくて、変わってるだろ……?」

小学生の頃はあまり気にしてなかったけど、中学校に通いだしてからというものの。
周りの女子を見て、男子みたいな嗜好の自分が恥ずかしくて、でも変えれなくて。
正直、辛い。

「むー……よく分かんないけど、ぼく、蛍のそういうところ、良いなって、思ってるよ?」
「……え」
「ぼくの知ってる蛍は、強くて、カッコよくて、頼もしくて、物知りで、優しくて、ちっとも変なんかじゃないよ。だから、落ち込まないで」
「…………」

何だか、胸がざわざわし出すと同時に、ほっとしてくる。
けど、最後の長所、寧ろそっちじゃん。
あんたの方が、優しい奴だよ。



「……プレゼント、嬉しくなかった?」
「……いや。嬉しい、凄く! ありがと!」
「ホント? ……良かった!」

柔らかくて、優しい笑顔が花火の光に照らされながら、目に飛び込む。
気のせいか、胸のざわつきが速まった。

「ぼくもね、蛍が喜んでくれると嬉しいんだ。蛍は自分のこと、女の子らしくないって言うけど、蛍の笑った顔凄く可愛いよ」

そう言われた途端。
高鳴った胸に、色んなものが混ざった何かが溢れだしそうになった。
……? 何だろ、今の。

「蛍? 顔赤いけど、大丈夫?」
「……へっ!?」

口から裏返った声が出た。
いや、待て、何で裏返った?
というか、顔赤いって……。

「……ホントだ」

頬を触ってみると、火照ってるのが分かる。

「熱あるの?」
「?!」

ハルキの手のひらが、あたしの額に触れた、瞬間。
心臓が、一気に跳ね上がったような感覚。
更に頬が火照ってきて、頭の中がぐるぐる、ごちゃごちゃ。
反射的に、ハルキの手をのけてしまった。

「ななななな何してんの…!?」
「え、叔母さんがやってたみたいに、熱あるかどうか……」

た、正しいんだけどさ…!
いきなり触れるとか…………アレ、ちょっと待てよ?
昔だって手繋いだり、寄りかかって昼寝してたのに、何で今恥ずかしいんだ?
何回も言ったけど、男子みたいなあたしに、乙女な恥じらいは無い。
何で? 何で? 何で?
……あああああ訳分かんねえ!!

「ねえ、大丈夫なの? 風邪、引いてない?」
「へっ!? ……あ、い、いや大丈夫、大丈夫! 熱いから火照っちゃったんだよ、きっと! あははは」

よくわからない感情を抑えるように、笑って誤魔化す。
あたしってば、変なの。

「そっか。じゃあ、また回ろ」
「おうよ!」

と、意気込んだが。
その後しばらく、変な気持ちに振り回されてるのか、ハルキの顔を中々まともに見れなかった。

* *



「それが、惚れたきっかけ?」
「…………」
「おお。ホタルさん、茹でタコみたいに真っ赤」
「当たり前だっつの~……! もう、恥ずかしい……!」
「それで、告白までの経緯は?」
「まだ聞くのかよ?!」
「当たり前でしょ!」

いやもういいって!!
羞恥心で死ぬから!!
これ以上はもたない――そう判断したあたしは、逃げるように教室を飛び出した。
嗚呼……どーにかしてくれぇ……。


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最終更新:2013年08月23日 19:54