縁日で
ハルキに励まされ、思い切って他の女子に話しかけて以来、クラスの友達が増えていった。
どうやら、一人が好きな奴だと思われてたようで、中々声をかけづらかったという。
どっちもどっち、だったのか……。
ついでにその訳も話すと(武器収集の趣味だけはやめといた)、別に変じゃないし大丈夫だと言ってくれた。
悩んでたのがアホらしい……良い人達だ……!
けど、良い事だけでなく、良くない事も舞い込んできた。
あの夜以来というもの――。
「蛍ー」
「はえっ!?」
「見て見て、凄い綺麗なカード、当たったんだー! 良いでしょ?」
「あ……え……」
「? 蛍?」
「ああ、うん、うん! 良かったな!」
「えへへー」
ハルキを見る度に、胸が高鳴るようになった。
「大好き」
「と……ところで、何枚集まった?」
「えーと、100枚はいったかなー」
「はあー……随分と買ったね……」
まあ、ハルキのカード収集を始めたきっかけは、あたしなんだけど。
今はあまりやってないけど、かつてあたしはカードゲームにハマっていた。
自分で言うのもなんだけど、全国大会で毎年連続優勝してた強者だ。
だがその栄光も、興味を持ったハルキに教えた事で、終わりを告げる。
初心者のハルキに、ボロ負けされた。
こうして、あたしの連続優勝の記録は幕を閉じたのであった……。
いや、別に恨んじゃあいないけどさあ。
何? あの強さ……化けモン級だぞアレは。
それから、こいつはカードゲームにドハマりし、集めるタイプのカードにも手を出している。
なので、大抵のおやつはウェハースチョコ(カード入り)。
「だって、蛍が教えてくれたから。楽しいよ、ありがとう」
「……そ、そりゃ、どーも」
「? どうして、顔赤いの?」
「なっ、何でもない! ああ、ほら! もうチャイム鳴るから、教室に戻りなよ!」
「あ、ホントだ。じゃあ、またねー」
いつもの笑顔で、手を降って教室を出てった。
見慣れてる筈なのに、まともに顔を見れなくって、油断したら声が裏返りそうになる。
頬に手を当ててみたら、まだ熱い。
どうしたんだ? あたし……。
昼休み。
仲良くなった数人の女子達と、一緒にご飯タイム。
ああ、この前まで相手がハルキだけだったのが信じられない……。
今は逆に、ハルキと食べるのに緊張しちゃう訳だけど。
「乃木鳩さんって、ショートにしないの?」
「んー……長いほうが好きだから」
「へえー、意外!」
「よく言われてたよー」
「でも長い髪、似合うよ」
「ホント?」
「うんうん! でもイメチェンして、ハルキ君……だっけ。ハート鷲掴みするのも手じゃないかな?」
……ん?
何でハルキが出てきた?
つかハート鷲掴みとは何だ?
「だって、好きなんでしょ? ハルキ君の事!」
「……………………え」
ええええええええええええ!!?
ちょっと……ちょっと待った!
どうしてそうなった!?
あたしが、あいつを好き、って……。
「だって、最近ハルキ君に対して、凄いぎこちなく接してなくない?」
「100%恋だよ! 恋!」
「あんなの、誰でも分かるよ~」
「え、いや、あの、あたしとハルキは、ただの昔馴染みなだけで……」
「じゃあ、何でいつも顔赤くするの?」
「そ、それは……」
というか、あたしが恋だなんて、そんな乙女チックな事……絶・対有り得ない!!!
「恋は、誰に対しても平等に訪れるものだよ! ワトソン君!」
「誰がワトソンだ誰が」
「命短し恋せよ乙女!」
「あの、すいませんちょっと」
「頑張ってね乃木鳩さん!」
「聞けってぇえええ!」
疲れた……。
体育無い日なのに、いつも以上に何か疲れた……。
「蛍~」
「あ……ハルキ……」
「どうしたの? 元気、無いよ?」
「……」
「?」
ヤバイ。ああ言われたせいで、余計意識してしまう……!
また顔赤くなるのだけは避けないと!
「は……早く帰るよ! ほら!」
「あ、うん。帰ろう」
「……」
少しは疑問に感じないのか、こいつ。
緊張ぎみで挙動不審なあたしの、この振る舞いを。
……マイペースな奴なのは分かってたことだし、今更か。
「あ、蛍。お祭りで買った剣、ぼくも触ってもいい?」
「い、いいけど……」
「ありがとー。ぼくも、カッコよくて好きだよ。アレ」
「……あの時は、ホントに……その、ありがとう」
「ううん。だって、”友達”には喜ぶ事をしてあげろって、教えてくれたのは、蛍なんだよ?」
「……」
「? どうしたの?」
「あんたには関係ないっ」
「え。……ご、ごめん」
”友達”……か。
まあ、色々鈍いし、そうだよな。
……こいつに、恋なんて理解できるのか?
伝えても、意味あるのか?
そう思うと、溜め息をつかずにいられなかった。
―翌日―
「乃木鳩さん、おはよ」
「ん、おは」
教室で友人に挨拶をする。
内の一人が焦ってるような顔で、あたしに駆け寄って来た。
「乃木鳩さん! ちょっと宿題見せてくれる!?」
「宿題?」
「日本史のプリント! ハルキ君の告白手伝いますから!」
「ええええいいいいいいいらんから!! 見せるからしなくていいって!!!」
「おおっ、自分の力で道を切り開くとは……」
「ちっがーう!!!! 別に、告白とか……そんな、無理!!」
「え~、何で?」
はっ、恥ずかしいし……どうせ、伝えたところで『友達として好き』~なオチになるんだよ、あいつの場合!!
「じゃあ、このまま思い続けるだけでいいの?」
「う……」
「分かってくれなくても、伝えた方がいいと思うよ。私は」
「…………」
「あ、そろそろチャイム鳴る」
「えっ! の、乃木鳩さん! プリント!」
「あっ、ああ。はい」
「ありがと~! 恩に着るよ!」
昼休みになった。
今日も、ハルキはあたしのクラスに来ている。
会話をする傍ら、友人に言われた事を何度も思い返した。
でもさ、伝わらなかったら、告白の意味無いんじゃあ……。
「蛍!」
「はひっ!?」
「聞いてる?」
「あー聞いてる聞いてる」
「ホント?」
「はいはいホントです」
全く、こっちの気も知らないで。
「それでね、カード交換したんだけど、そのカード、蛍みたいなんだー」
「あたし?」
「うん」
見せてもらうと、水色の鎧と絹の服を纏い、勇ましげに剣を振るう、綺麗な女の人が描かれていた。
「ほら。強くて、カッコよくて、可愛い蛍にピッタリ!」
「…………」
「蛍?」
「あ、いや、あの……ありがと」
顔を見られないように背けた。
こいつ……分かってて言ってんじゃね?
恥ずかしくて、もどかしくて、腹立たしくて。
こいつのせいで、自分の中で弱気なもう一人のあたしが、時々顔を出してくる。
こんな感情、一体どうしろって言うのさ?
ああ、いっそ無かった事に出来れば、楽になれるかもしれないのに!
「…………」
「随分と静かねえ。どうしたの」
「……何も」
気持ちを口に出せず、あいつの頬を突っついて帰ってきた後。
あたしは何かするわけでもなく、居間で食卓にうつ伏せのまま、ぼーっとしていた。
「ま、恋煩いもほどほどにね」
はいはい。
………………うん?
「恋……煩い?」
「だって、この前、ハルキ君が家に来た時、様子おかしかったもの。誰でも分かるわよ」
「え、ちょ、嘘!? そんなに分かりやすい!? あたし!」
「うん」
「……」
ま、また顔が熱くなりそう……。
「……もう、気持ち悪い。抑えきれない」
「じゃあ、伝えたら?」
「……ムリ」
「あら、珍しく弱気ね」
「ハルキに言っても、無駄だよ。恋とか、分かんないって。きっと」
そしたら、叔母さんは穏やかに笑って言った。
「私なら、それでも伝えるわ」
「……何で?」
「無理矢理、気持ちに蓋して、苦しいままでいて、それで失恋になった時、後悔するよりマシだよ」
「……」
「ありったけの思いをぶつけて、すっきりした方がいいじゃない?」
「…………出せないんだ」
「ん?」
「勇気も、素直さも。口に出せないんだ」
「まあ……確かにそういうことも、あるわね」
「でも」と叔母さんは前置きして、
「そういうのは、自分からいかないと何も変わらないよ」
「…………」
「あら? 電話だわ。誰かしら」
裁縫道具と布を食卓に置き、叔母さんは電話に出た。
ふと時計を見てみると、いつの間にか8時30分過ぎになっている。
「はい、もしもし。……ああ、サキ。どうしたの? ……えっ、来てないけど…………ちょっと待って。蛍、ハルキ君と一緒に帰ったわよね?」
「え、今日は、用事があるとかで、あたし一人で先に帰ったけど……どうしたの?」
「ハルキ君が、まだ帰ってきてないみたいなの」
「!!!」
あいつ……一体どこに!?
もう夜更けてるんだぞ!?
…………くそ、嫌な予感、なんて考えたくもねえ!!
「探してくる!」
「えっ、ほ、蛍!?」
四の五の言わず、あたしは家を飛び出す。
当てなんて、無いけど。
それでも、いてもたってもいられない。
あいつに何かあったら――!
「ハルキ……! どこにいんだよ……!」
走ってる内に、涙が出てくる。
あたしは本当に、どこまで弱気になれば気が済むんだ。
このままずっと、素直な心を隠して、あまのじゃくな態度を取るつもりか?
ふざけんな。
そんなことしたって、この気持ちは消えない。
――いっそ無かった事に出来れば、楽になれるかもしれない
何であんな馬鹿なこと、思ったんだろう。
無くしたくなんかないよ。
この胸の高鳴りも、あんたも。
溢れそうな気持ちに、蓋するのはもうやめよう。
伝えなきゃ。分からなくても、報われなくても――。
「――蛍?」
「!?」
後ろから、聞き慣れた声。
恐る恐る振り向くと、水色の髪に水色の左目。
そしてあの、赤い右目と、右腕。
「……ハルキ……」
「どうして、ここにいるの?」
「…………」
「? 蛍――」
「こ、のっ……ノー天気ヤロー!!」
「えっ」
「それはこっちのセリフだ!! こんな遅くまで、何してたんだよ!!!」
「ご、ごめん……中々、見つからなくて」
「はあ?」
「コレ……」
と、ハルキが鞄の中から箱を取り出して、あたしに渡した。
「何だよ、コレ」
「開けてみて」
「……」
まだ不機嫌な顔をしたまま、あたしは箱を開けた。
…………これって。
「……あたしが欲しかったヘッドフォン?」
「うん。この前、それ見て欲しいなーって言ってたの、覚えてたから」
「……じゃあ、これを探してずっと?」
「えへへ……そういや、サキやシュウスケに連絡するの、忘れてた」
…………ホント、あんたって奴は……。
「人に心配、させといて、理由聞いたら、プレゼント、探し、かよ…………」
「えっ……と……嬉しく、無かった?」
「……あんた、ねえ……」
「蛍……?」
「……ひっく、本当に、心配したんだぞ……! ひぐっ、くっ、うあああ……」
「! ……ごめん、なさい。泣かないで……」
「泣かしといて、よく、ひぐっ、言うよ……でも、ありがとう……嬉しいよ……」
「……本当?」
「本当だ」
いつも呑気で、バカで、マイペース。
けど優しくて、いつもあたしを喜ばせようとする……笑顔が素敵な奴。
そんなあんたが、あたしは。
「……ハルキ」
「ん?」
「今まで、臆病で素直になれなくて、ずっと言葉を封じ込めてたけど…………あたし……」
「ハルキのこと、大好き」
「…………」
「…………」
「そっか、そうなんだ」
(あー、やっぱりオチは……)
「ぼくも、蛍のこと大好き」
…………えっ?
「えええええ!!?……マ、マジで……?」
「うん」
ちょ、ちょっと待て!
だって、恋とかけ離れたような男子なのに!?
鈍いやつなのに!?
「あのね、蛍と一緒にいるとね、顔がぽかぽかしてきて、胸がドキドキして、変な気分だったんだ」
「え…………それって……」
「昔はそんな事、無かったけど、段々そうなってきた。この気持ち、何なのか分からなくて、ずっと考えてた。何で蛍といると、もっともっと、幸せなのかなって」
「……」
「でも、蛍の言葉で分かった。ぼくの気持ちは、蛍と同じものだって。嬉しいな、蛍がぼくのこと、大好きだって分かって」
おま、抱き着くな! 恥ずかしいだろ!
こ、これはこれで、何か……ああ畜生~……。
「蛍、好き。大好き」
「~~~っ、は、早く帰るぞ! サキとシュウスケが待ってる!!」
「あ、そうか。うん、帰ろう」
って、然り気無く手を繋ぎやがって……っ!
…………まあ、悪く、ないけど。
伝えて、良かった。
最終更新:2013年09月04日 11:13