「いや~。
デコラキャンディーの新作ケーキ、美味しかったねー」
「そうだな」
「凪っちも、一緒に行けたら良かったんだけど」
「凪姉、大丈夫かな…」
「こらこら、そんな暗い顔しちゃだーめ! 凪っちに見せたら、逆に心配されるよ?」
「うん…そうだね。ありがとう、
ミユカさん」
休日の昼下がり。
シスイ、ミユカ、冬也の三人はデコラキャンディーを出たところだった。
「そういやミユカ、昨日はえらく不機嫌だったけど……何かあったのか?」
「……白蛇さんにやられたの」
「ああ……」
百物語組の一人であり、ウスワイヤの調査員である、蛇妖怪の青年の飄々とした笑みを浮かべるシスイ。
「あの蛇野郎……いつかギッタンギッタンにしてやる……」
(燃えてる……)
(燃えてるな……)
……心なしか、般若が見えた気がする。
「帰ったら、白蛇さんをギャフンと言わせる方法を――」
ガシャ。
「ん?」
「どったのシー君」
「……この先から、物音がした」
「物音?
シスイの視線を追い、路地を見るミユカ。
「確かに、何かしらの反応があります」
「……一応、見に行った方がいいね」
「ああ。冬也、俺達で行くから、先に帰っててくれ」
「大丈夫ですよ。念のため、光弾銃もってきてます。僕だって、アースセイバーの一員ですから」
「おっ、頼もしいねえ。守られる側から、守る側に回る日は近いかな~」
ミユカに冷やかされ、顔を赤くする冬也。
その反応を見て、いつもの笑い声を上げ、頭をぽんぽんと撫でる。
「でも、無理はしないでね」
「はい」
「よし、行くか」
シスイを先頭に、三人は路地に入った。
迷路のように、時には直進し、時には曲がる。
「……ただの、物音だったかな」
「冬也、もう一度見てくれるか?」
「あ、はい」
再び能力を使う冬也。
数分経つと、確認し終えたらしく、目が見開いた。
「あの角の先に……」
「何かある、ってか」
「はい……」
三人にまとわりつく空気が、一気に強ばる。
ミユカはナイフを、冬也は光弾銃を構えた。
武器を持たないシスイは、いつ奇襲を喰らってもいいように、心構えをしておく。
「……行くぞ」
シスイの一声で、曲がり角へ踏み出した。
そこにいたのは――黒い外套を着た、幼い少女。
蹲ったまま、身動きひとつない。
心配に思ったミユカが声をかける。
「ねえ、どうしたの?」
「…………」
「どこか痛い?」
「…………」
「大丈夫だよ。お姉さん達、悪い人じゃあないから――」
「ちょ、ミユカ!」
少女に駆け寄るミユカ。
と、近付いた瞬間。
「おお、無用心なこと」
「え?」
ブワァッ!
「うわっ!?」
「ミユカ!」
「ミユカさん!」
動かなかった少女が突然、高く跳躍した。
驚いたミユカは尻餅をつく。
シスイと冬也の後ろに降り立った少女は、フードの隙間から見える口を、歪ませて弧を描いた。
「ほほほ、愚かなものじゃ。だが退屈しのぎが出来て、苦しゅうない」
「退屈しのぎ?」
「今分かる。ほうら、来た!」
と、周りから機械が擦れるような音。
見渡すと……
パニッシャーだ!
いつの間にか囲まれている!
「な……!?」
「そんな、反応は一つだけだったのに!」
「ほほほ……そやつらは、今まで妾の力で”生の音”を隠されていたからの。見破れる訳がなかろう」
穏やかながらも、小馬鹿に話す少女。
「では、妾は高見の見物とさせてもらうぞ。精々、楽しませてみよ」
「まっ、待て!」
「シー君! 危ない!」
と、追いかけようとしたシスイに、体当たりするミユカ。
直後、マシンガンの弾が、シスイがいた地面を抉った。
「悪い、ミユカ。助かった」
「その言葉を言うには、まだ早いよ」
「そうだな、さて……」
パニッシャーの数を数える。
ざっと、8機……いや、10機はいるだろうか。
「多いですね……」
「ちょっとキツいかな。正確に遠距離攻撃出来るのは、冬君だけだし。私も、腕伸ばせば出来ないことは無いけど……」
「銃撃する冬也を、俺が守る。ミユカ、単独攻撃、頼めるか?」
「任せて」
「よし、やるぞ!」
「見つけたー」
建物の上に移動した少女の背後に、少年――ヘルツが現れた。
彼を見るなり、少女は分かりやすいほどに顔をしかめる。
「おや、邪魔が入ってしまったか」
「えー。邪魔なんて、酷い酷い」
「この宴は妾だけのものじゃ」
「ボクにも見させてよ」
「ふん、勝手に見る癖に」
「てへ」
ニカッと笑うヘルツ。
対して、少女は服の袖で口を覆う。
まるで「吐き気がする」と言わんばかりに。
「猫かぶりなどするな。気色の悪い」
「そんなに辛辣にしなくても~」
「嫌いな奴にしてはいけない理由など、無いわ。同じ同志であることに、感謝するがよい」
忌々しげに、吐き捨てた。
「はあ、はあ……」
「シー君、大丈夫!?」
「……ちょっと、やべえ」
「数が多い……不利ですよ……!」
「あの子、どうやってこんな数を…!?」
息を切らすミユカとシスイ。
パニッシャーの数は10機どころか、20機以上もいた。
逃げることもままならない。
一人でも戦闘不能に陥ってしまえば、殺られる確率は高くなる。
現に、前線に突っ込むミユカは、右肩と左足に傷をつけられていた。
(このままじゃ…!)
焦るミユカ。
その時だった。
ドゴォオンッ!!!
「!?」
「パニッシャーが……」
「吹っ飛んだ!?」
突如起こった爆発が、パニッシャーを数機、木っ端微塵に吹き飛ばした。
すると硝煙の向こうから、咳き込む声が。
「ケホッケホッ……ふむ! 申し分ない威力ですね」
「誰だ!」
「あわわ、私は敵ではありません! 攻撃しないで~」
煙が晴れてくる。
そこに立っていたのは、白っぽい癖毛と、ライトグリーンの猫目を持つ少年だった。
「き……君は?」
「自己紹介は後で! 今はパニッシャーを壊しましょう!」
「わ、分かった」
とにもかくにも、戦力が増えたのがよろこばしいことなのは、違いない。
マシンガンの銃口が、自身に向けられたのに気付いた少年は、咄嗟にかわした……が。
ずべしゃっ!
『…………』
着地に失敗した。
「にゃ、にゃははは……運動は苦手なものでして……」
少しばかり不安になった三人だが、贅沢は言ってられない。
攻撃を再開する。
少年は、何かテニスボールのような球体を、数機のパニッシャーに向かって投げた。
直後、爆発したところを見ると、どうやらこれが先ほど、パニッシャーを吹き飛ばしたもののようだ。
「ありゃ、無くなりましたね……」
「えぇっ!? そんな!」
「でも心配ご無用! 青髪の人、ちょっとだけ銃を貸してくれるかな?」
「え? ……な、なるべく、早く返してくださいね」
「ありがとう!」
冬也から銃を受けとると、ポケットから何やら、炎のような模様をした、赤い塊を取り出した。
よく見ると、僅かながら湯気が上がっている。
「それは……?」
「撃ってみたら分かるよ」
と言って、それを銃に当てると、塊が銃に吸い込まれるように融合した。
冬也は、少し驚いた眼差しを向ける。
「はい! どうぞ!」
「は、はあ……」
不思議そうに、受け取った銃を見る。
(とりあえず、撃ってみよう!)
意を決して、一機のパニッシャーに狙いを定め、銃の引き金を引いた。
光弾がパニッシャーに当たった――瞬間、なんと、周りのパニッシャーに向かって、弾から大きな飛び火と爆風が巻き起こったのだ!
「凄い!! どうやったの!?」
「そんな複雑な事ではありません。”爆発”の要素を、銃に付与させただけです」
「”爆発”の要素……?」
「爆弾から取り出したんですよ。能力を使って、ね」
ニンマリ笑う少年。
「お次はコレ!」
「スプレー缶……?」
「えーと……では黒髪の方! これを拳に吹き掛けて下さい!」
「お、俺? わ、分かった……」
少年からスプレー缶を受け取ったシスイは、それを右拳に吹き掛けた。
その右拳でパニッシャーにパンチを当てると――。
バチバチバチィッ!
「うわっ!? 拳から電気が…!?」
「その電気は、機械の動力を停止させるんです!」
「停止……本当だ、動かなくなってる」
シスイの拳を当てられたパニッシャーは、脱け殻のように力をなくし、地にへたり込んでいる。
パニッシャーの数は、格段に減少してきた。
形勢逆転だ。
「よーし! この調子で行くよ!」
「おう!」
「はい!」
「ふー……何とか片付いたね」
額の汗を拭うミユカ。
周りはパニッシャーの残骸でいっぱいだ。
「助かったぜ。サンキュ」
「いえいえ。あ、まだ名前、言ってませんでしたね。私は紀野 ココロ、守人やってます!」
「守人!?」
「そうだったんだ~」
「はい! 皆さんはアースセイバーの方ですよね?」
「えっ、どうして分かったんですか?」
「その銃、ウスワイヤ製でしょ? 一度、知り合いに見せてもらったことあるんだ」
少年――ココロの「知り合いに見せてもらった」という言葉が引っ掛かるのか、ミユカは考え込む。
が、すぐさま分かったらしく。
「ねえ、その知り合いってもしかして、のぎのぎ……じゃなかった。蛍ちゃんの事?」
「はい、そうですよ」
「ああ、そういや、あいつも守人だったな」
「ついでに同じ学校ですよー」
「あれ!? 君もいかせのごれ高校なんだ!」
「おや? その反応からして、皆さんも?」
「ああ。冬也は1年で、俺とミユカは2年なんだ」
「おお~! 私も2年ですよ!」
同級生に巡り会えたからか、興奮ぎみなココロ。
「1組でも2組でも見ない顔だから、分からなかったんだな」
「確かに、あまりそちらのクラスに行きませんね」
「折角だから、昼休みにでもおいでよ!」
「そうですね……ええ。明日、是非そちらにお邪魔します!」
「終幕、だね」
「ふむ……まあまあ、じゃの。御主さえいなければ、最高の宴だったが」
「まーだ言うのー?」
「黙らぬか、二枚舌。耳障りじゃ」
「はいはい。随分と随分と、我が儘な姫だねえ。君という奴は……」
「ふん……戻るぞ」
―翌日・昼休み―
「ココロちゃん……」
「お前……」
『女子だったの(か)!?』
二人が驚愕するのも無理はない。
男だと思っていた人物が、スカートを穿いていたのだから。
「にゃはは、よく言われますよ~」
「てっきり、男かと……」
「ご、ごめんなさい……」
「いいですよ、気にしてませんから!」
守人「紀野」
(余談だが)
(『彼女』の格好を見た冬也も、驚いたのは言うまでもない)
最終更新:2013年09月04日 11:17