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嵐の間の晴天

セラの襲撃以来、無人のままであった情報屋「Vermilion」
そこに、何週間ぶりかの灯りと人影が見えた。

「よ…っと。準備はいいか、アーサー、ロッギー」
『うん!僕もアーサーもばっちりだよ!!』

他の二人よりも軽傷だったため、一足先に退院した長久。
メンバー内で唯一入院に至らなかったアーサー。
この二人で、長らく無人にしていた情報屋内の掃除をしようとしていた。

「銃弾で駄目になった家具とかの買い替えはハヅルが退院してからにするとして…割れたガラスだの花瓶だのの片付けぐらいはしないとな」
『めちゃめちゃだもんねー』
「本当にな……手加減ナシにやってくれたもんだよ、まったく」

小さくぼやきながら、ほうきを使って床に散らばった破片をかき集めると、アーサーがちりとりでそれを掬いゴミ袋に入れる。
長久と共に病院に運ばれたハヅルも今日めでたく退院の運びとなったのも、ここの掃除を始めた理由のひとつである。
ハヅルに余計な仕事を増やさないようにという長久の配慮と、散らかったものを綺麗に掃除してハヅルを驚かせたいというアーサーの企みからだ。

『ハヅルが帰ってきたら、びっくりするかなあ?』
「どうだろうな。アーサーとロッギーが頑張ったなら、褒めてくれるんじゃないか?」
『本当!?じゃあ頑張ってお掃除するよ!!』

明るく返すと、手にはめていたロッギーを外し、穴だらけのソファに丁寧に置く。
そしてぐっと腕まくりをすると、きつく絞った雑巾を手に、椅子を使って窓を拭き始めた。

「張り切りすぎて怪我するなよー。せっかく治ったのにまた足捻ったら笑い事じゃなくなるぞ」

長久がそう声をかけると、「大丈夫だ」とでも言うように手を振る。
椅子はほとんど被害を受けていないし、よっぽど無茶な体勢にさえならなければアーサーが落ちることも無いだろう。
一人頷くと、長久はほとんどドアの役目を果たしていないドアへ向き直った。

「……困るわ、マジ困るわ」

全体に弾痕が残るドアを見つめて、誰にともなくぼやくように呟く。
ドアノブは何発も撃たれて完全に変形して外れてしまっているし、蝶番も馬鹿になってしまったのかゆらゆらと揺れている。
おそらく一番の被害はこのドアであろう。細かい作業が得意で今まで小さな修繕もしていたハヅルがいたとしても、これを直せるかといわれたら難しいところかもしれない。

「…ま、帰ってきてから考えるか」

頭をがしがしと掻くと、掃除に戻る。
割れたガラスを片付け、落ちた薬莢や銃弾を分別する。
雑巾とバケツを持って二階へ行くと、固まってしまった血を力いっぱい拭った。

「…………」

ふと、手を止めてぼんやりと宙を見上げる。

紅は目を覚ましたようだが、まだ面会謝絶のようで長久もアーサーも会えていない。
それに、未だ何の足取りも掴めていない蒼介…カチナの行方も気になる。
以前UHラボのことを調べた際に出てきた単語『失われた工房』。ハヅル退院後にもう一度本腰を入れて調べることになっている。ここを襲撃し彼を連れ去った男がUHラボの研究員だったのなら、元研究員で構成されている『失われた工房』は何かしらの手がかりを有しているかもしれないからだ。
そのことを考え、はあ、とため息をつく。

『長久ー!!終わったよー!!』

階下からのアーサーの声で我に返る。
見ると、階段の下でアーサーが手を振っていた。
拭き掃除がだいたい終わったらしい。

「おう、ちゃんと雑巾は片付けたか?」
『片付けたよ!洗っていつものところに干した!』
「そうか。……お、頃合だな」

壁にかかった時計を見ると、そろそろハヅルが退院する時間だ。

「支度してちょっと待ってろ。俺も片付けちまうから」
『はーい!』

ばたばたと駆けていったアーサーを見送り、雑巾をバケツに投げ入れると立ち上がる。

「……なるようになるか。オーナーも、蒼介も、あのまま終わる人じゃあない」

自分に言い聞かせるように呟くと、掃除の後片付けを始めた。


嵐の間の晴天


「…お待たせ。じゃあ、ハヅルを迎えに行くか、アーサー」
『うん!』

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最終更新:2013年09月04日 11:18