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密談

「トキコ。町を騒がせている噂について、何か知ってる?」

 俺、高嶺利央兎は休み時間、自分と同じホウオウグループの所属であるこいつ、朱鷺子にそう聞いた。

「何の事ー?」
「いや、最近町で「怪物を見た」って噂が色々挙がってきてる。トキコなら、何か知ってるんじゃないか、と」
「えー、怪物? どんなのどんなの?」

 両目を好奇の光で光らせながら、トキコが俺にずいと迫ってくる。その様子ははっきり言って無邪気な子供のようであり、もっと悪く言えば歳相応以下だ。
……やり辛い。ホウオウグループでの顔とこっちの顔で、こいつはあまりにもギャップが激しすぎる。

「……で、しょーじきなところ、何なの、それ?」

 そんな俺の心を読み取ったかのように、トキコの顔が日常の顔からホウオウグループとしての顔に変わった。

「分からない。何せ、俺自身直接その怪物とやらを見たわけじゃないからな」
「何それ? つまり、いるのかいないのかよく分からないって事じゃない」

 トキコの興味が失せていくのが分かる。がっかりしたように、こいつはため息をついた。

「……そうでもない」
「え?」
「お前、さっきシスイの奴を見たか?」
「一角君? そう言えば、今日はまだ会ってないかなー」
「あいつ、一限を休んで二限から来た」
「じゃあ、会わなくても仕方ないよねー」
「……あいつ、大怪我してた」

 俺の一言に、ぴくりとトキコが反応した。好奇心をくすぐられたらしく、こいつの口元ににやにやと笑みが浮かんでいく。

「それは何かの見間違いだよ、きっと。一角君、どんな傷でも麒麟の守りですぐに治しちゃうから」
「いや、肉体に直接作用するタイプの能力は反動が大きい。おそらくは、仲間の誰かに能力の使用を禁止されたんだろう」

 肉体の治癒機能に干渉する事が出来る能力は、能力者本人の生存能力を引き上げてくれるので非常に使い勝手がいい。俺の能力にしたってそうだし、同じくグループに所属しているウツロなんかいい例だ。死なない、死ににくいって言うのは便利だ。

 けれどもその一方で、不死性の代償が「自滅の可能性を持つ」というのは皮肉なものだ。体が処理しきれる範疇を超えて能力を使用すれば、当然能力は暴走を引き起こす。再生能力者はそれが顕著で、死なないからと言って慢心し、その結果自滅していく馬鹿を俺は何度も目にしている。もっとも、中にはウツロみたいな本物の不死身とかいたりするわけだが。

 シスイが能力の使用を止めて自然治癒に任せているのは、つまりそう言う事なのだろう。あいつ自身、再生能力者と言うわけではないが、自滅のリスクは少ないに越した事はない。

「それで? 一角君の怪我と、さっきの話にはどんな関係性があるの?」
「昨日、俺はあいつを街で見かけた」
「ああー……リオ君、ユーイちゃんとデート中だったんだよね」
「ッ!? ……お前、見てたのかよ」
「にっひっひっひ」

 こいつの、時々人をからかう性格はどうにかならないものか……そう言えば、火波スザクもこいつの性格に手を焼いていたな。

「……それはともかく、アースセイバー所属のあいつが街を歩いていて、その翌日大怪我をして学校にやって来ていた……街に流れている怪物の噂、あながち間違いじゃないのかもしれない」
「ふぅん……で、その話と私達にどんなカンケーがあるの?」
「大有りだ。俺達の目的はあくまで〝あの人〟のものと同じ。つまり、世界の合理化だ」

 こいつ、分かってて俺に聞いてるだろ。内心で思わずそう呟く。
グループに所属する全員がある意味〝あの人〟の信者と言えるのだが、その中でもこいつはとびきりだ。トキコは病的と言えるほどに〝あの人〟を敬愛している。それこそ〝あの人〟、ホウオウと呼ばれるその人が唯一絶対の神であるかのように。

「世界の合理化に怪物の存在は不合理だ、悪戯に混乱を招いて世間から統制を奪う。幹部勢が作戦を開始しようとしている中、不確定要素は排除しておきたい。どんな完璧なものでも、たった一つの綻びから崩れてしまうからな」

 例えば、それはケイイチのような――

「――ホウオウ様はかんぺきだよ、ぜったい」
「ん?」

 見れば、トキコが不機嫌そうな顔をしている。口をきゅっと真一文字に結び、俺を見上げていた。その様子は、ある意味怒っているようにも見える。

「ホウオウ様は絶対なの、本当ならケイイチになんか負けたりしないの」
「いや、何も俺はそこまで意図して言ったわけじゃ……」
「今までのは……今までのは、ただ単に不幸が重なっていただけで……」

 ……なんだ、この違和感は。

 よく見ると、怒っているかのようなトキコの瞳の奥で、その実こいつが動揺している揺らめきのようなものが見えた。それにトキコの言葉は表向き俺の言葉に反論しているだけのように見えるが、聞きようによっては自分に言い聞かせているようにも聞こえる。

 なんだ、こいつは。俺の目の前にいるのは、本当にあの「朱鷺子」か?
今そこにいるトキコは、子供のような振る舞いの中に絶対的な自信と強さを秘めたいつものトキコじゃなかった。
その姿はまるで、外見の強さを取り繕いながら、大切なものを必死で守ろうとする「歳相応」の少女だった。

「……もちろん、〝あの人〟は完璧だ。そんな事ぐらい俺にも分かっている。それに歴史的観点から見ても、偉業というのは成すべきものの大きさに比例して障害は大きくなるものだ。〝あの人〟の場合でも、その例に当てはまっただけだろう」

 今まで見た事のない朱鷺子の姿をこれ以上見ていたくないのか、気が付くと俺はそう口走っていた。その言葉で納得したのか、(或いは安心したのか)、トキコは「そうでしょ? 変な事言わないで」と最後に文句を言った。

 そう言えば、コヨリがいつか言っていたな。「人って変だよね。「ある」と思っていたものが突然「ない」って事になると、急にパニくり出すんだもの」と。

 今のトキコは、きっとそう言う状態だったんだろう。あいつの持つ言い知れぬ自信は、その実あいつ自身が持っている自信というわけではなく、ホウオウ様という絶対的なものを信じているが故の自信だったというわけか。

「……なんだ、意外に可愛いところあるじゃないか」
「何か言った?」
「別に」

 こいつなら聞こえなかった振りをしてあえて聞いてくるような気もするが、ボソッと呟いただけなのでおそらく聞こえていない筈。
後一つ勘違いのないように言っておくが、俺はユウイ一筋だ。今の「可愛い」発言だって、見たまんまの感想を述べただけだ。浮気なんかしないぞ、絶対。

「っとと、話が脱線した……とにかく、お前にこの話をしたのは、その怪物って言うのが実は幹部達が進めている計画の一部で、ホウオウグループが作り出した生物兵器の一種なんじゃないかと思ったからなんだけど……その様子だと、そう言うわけじゃないらしいな」
「私知らないー。第一、ホウオウグループ製の生物兵器はKEAの裏切り以来、うんよーに問題があるからってコトでもっぱら開発がとうけつされてるじゃない」
「それもそうだな」

 生物兵器は恐ろしく運用が難しい。なまじ意志があるから従順であるとは言い切れず、かと言って強力な洗脳を施したり自我を取り払ったりすると性能がガタ落ちするし、そもそも自我がいらないなら機械製の機動兵器やロボットを作るのと何も変わらない。それに、時にはデザイン・クリエイトしたこちらの予想につかないほど化け物然した生き物が生まれ、作った本人達の手に負えなかったりもする。その癖製造からその維持にかけて高コストだったりとか、とにかくハイリスクで洒落にならない。

 今回の作戦で使用されるのがボルカノンやトラストラ、そしてコヨリと言った機械製兵器群で構成されているのも、生物兵器の運用の難しさ故だ。もっとも機械は機械で、与えられたスペック以上の事は出来ないところが難点なのだが。そこはまぁ、一長一短だ。

「分かった。つまり、街を騒がせている怪物とやらと、ホウオウグループは無関係なんだな?」
「まぁ、そうだねー……で、リオ君はどーすんの?」
「決まってる。作戦に支障を来さないためにも、不確定要素は徹底的に取り除く」
「放っておいてもいいんじゃないかなー。ほら、怪物が人を襲ってくれたおかげで、アナボライザーに覚醒する人間が出てくるかもしれないじゃん。怪物の悪夢、うーむ、つよそー」
「それは希望的観測だろ。大体、どう言った条件でアナボライザーに覚醒するかなんて、まだ誰にも分からないのだし」
「……ちゃんなら、もしかしたら分かるかもね」
「ん、なんだって?」

 今何か、トキコが口走ったような……しかしもう一度聞き直そうにも、トキコは「ううん、何も言ってないよ」と言う。俺の気のせいか?

「とにかく、俺は怪物について少し調べてみる」
「無駄足かもよー?」
「それならそれで、作戦の障害になる心配が無くていい。どっちにしろ、噂の真偽をはっきりさせておく必要がある」

 そう言うと、俺は自分の教室へと戻っていく。もうすぐ休み時間も終わりだ、有益な情報は得られたし、こんなものでいいだろう。

「待った」

 すると突然、歩いて行こうとする俺をトキコが呼び止めた。

「何だよ?」
「何年か前の話だけどさー……生物兵器の開発研究主任にいたじゃん、あの人。えーっと……」
「ジングウか」
「そうそう、その人」
「そいつがどうかしたか? ジングウは確か、自分で作った生物兵器の実験中、その暴走に巻き込まれて死んだだろ」

 記録でしか確認した事が無いので何とも言えないが、ジングウとは当時のホウオウグループで生物兵器関連の開発研究の主任を務めていた男だ。生物学に関しては天才的な頭脳と才能を持っており、いずれは幹部昇進もあったらしい人物だ。しかし不幸な事に、自身が生み出した生物兵器の実験中、それが暴走して食い殺されたそうだ。

 しかしまた、何だってそんな奴の名前をここで出すんだ?

「その人ってさー……本当に死んだのかな?」
「あのな、お前は何を言ってんだ。生死不明ならともかく、そいつの死体はあったんだぞ(と言っても、食い残し、だけど)」
「だよねー。いやね、何となくなんだけど、その人の事がとーとつに頭の中に浮かんだんだよね、これが」
「…………」

 トキコの直感は馬鹿にならない(本人曰く、「女の勘、ってやつなのさー!」とか言っているが、絶対違う)。一応、頭の端にでも記憶に留めておくか。

「あ、そーそー。リオ君、リオ君」
「ん、なんだ?」
「リオ君、怪物を倒すのは計画の支障にならないように、って言ってるけどさー」
「?」
「実際のところ、ユーイちゃんに危ない目にあってほしくないからでしょ?」
「なッ!?」

 な、な、な、な。こ、こいつッ……!

「あははは~。もう少し、自分に正直になった方が長生きするよー」
「う、うるさい!」

 してやったりな表情を浮かべるトキコに、ついつい俺はムキになって反応してしまう。

 前言撤回。こいつ、何にも可愛くねぇ……!

 そんな俺達を注意するかのように、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
 


 

作者 登場人物
akiyakan 高嶺 利央兎トキコ


投下順
─彼はピンク玉の生き物なのか?─← 41話~80話 →ザ・スクールライフ~由衣編~

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最終更新:2013年06月19日 22:51