「…なぁ、ユズキ。もう昼飯食った?」
「…Zz。」
「寝てたんかお前!紛らわしい!」
暇で仕方ない午後。
由衣はいつも通りユズキのもとへ。
別に特別な理由などない。
転校した時に最初に話しかけてくれたからという理由で、仲良くしている程度だ。
青い目に女の様な顔立ち。黒いニット帽から乱れた金髪が覗く。
ガラこそ由衣に似ていたものの滅多にしゃべらない彼は、本当に由衣と仲がいいのかさえ分からない。
でも、それでもいいと、彼女は思った。
前に住んでいた所では散々暴れまわってて、思った以上に(悪い意味で)名前が広がっていた。
そのせいで怖がって誰も近づかなかった。
ユズキを除いては。
「なぁ、なんかまたかかねーの?」
「…何もかくのないからかかない。」
「屋上とかいかね?」
「もう何回も行った。ネタがない。」
「…つまんねーやつ。」
由衣は大きく伸びをすると、何気なく窓の外を見た。
その時だった。
一瞬しか見えなかったが、由衣には確かに見えた。
…上から人が降って来た。
「うぇ!?」
思わず窓を開けて見下ろすが、ベランダのせいで死角になり、誰が落ちたか分からなかった。
「ちょ…おい!ユズキ!今の見たか!?」
「何?うるさいなぁ。」
「人が今上からふって…!」
「屋上から飛び降りたんじゃないの?」
「あ?」
ユズキは体を起こし、大きく伸びをした。
「屋上のフェンス低いからね。やろうと思えば簡単に超えられるよ。」
「…お前、落ちた奴心配じゃねぇのか?」
「君が言えた台詞?」
少しカチンと来るが、拳を握りしめて抑える。
「うちの学校、ろくなやついないから落ちようが死なないよ。」
「つき落とされたとかないわけ?」
「学校でそんな事件起こそうって方が馬鹿だと思うよ。」
何か知ったような口調で言われたのが、由衣には気になった。
「な…なんだよ、その言い方?」
「うちの学校にはね、「救世主」がいるんだよね。」
机からスケッチブックを取り出し、鉛筆を走らせ出す。
「救世主?」
「自称だけど?いままでこのいかせのごれ守って来たんだって。」
「自称って…。そんなん脅しにもなんねぇだろ。」
「いや、彼は本当に救世主だよ。」
真剣な目はスケッチブックに向けられたままだ。
しかし、根拠もないことを断言する彼を、由衣は意外だと感じた。
「お前…そんな噂信じるタイプなわけ?」
「いや?噂は聞き流すタイプだよ?」
「じゃあなんで…。」
「あの人…常人じゃありえないような才能もってるよ。」
「なんで分かるんだよ。」
「本能っていうの?彼を描く度に思うんだよね。」
形作るように動いていた鉛筆が、上下に動きだす。
「彼はちょっとガラの悪い友達に囲まれてるけど、その友達に忠告したり、馬鹿にされても落ち込まないで。それはきっと、彼はその才能に気付いていて、信じられるから出来ることだと思うよ。」
鉛筆の動きが止まった。
スケッチブックを由衣に見せる。
そこに描かれた彼の姿。
いつもの雰囲気とは違う凛々しい姿。
その右手には、不思議な光を放つ「剣」…?
「僕にはこう見えるんだけど、どう思う?」
ありえない、と否定したかった。
それなのに、衝撃がひどく強くて、声が出ない。
もしかして、こいつも気づいているのか?
私の「才能」に…。
「…ねぇ、今度は君を書かせてよ。」
スケッチブックを一枚めくった。
「僕に君がどう映るか、見てみたいでしょ?」
素直に「うん」とは、言えなかった。
| 作者 | 登場人物 |
| 大黒屋 | 夏香 由衣、ユズキ |
投下順
密談← 41話~80話 →あにまるとーく(仮)