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スザクとお見舞い(仮)

「……まだか。まだなのか」

教室の机に頭を乗せ、現在僕は非常にイライラしていた。
何かの準備だかなんだかで今日は午後の授業がなく、午前中で終わり。「じゃあ帰ればいいのに」と思うだろうけど、それが出来ない理由がある。

「……遅い。1時間も遅れてる」

ランカのお見舞いに行くと言う事で、朝方ゲンブが連絡して来たのだ。正午になったら学校に迎えに行くから、それまで待っていろと。
僕はその通りにしたのだが、現在時刻はPM1:00。完全にオーバーしている。
一体何をやっているんだ、ゲンブの奴。

「久しぶりにランカに会えるっていうのに……遅い、遅い、遅ーい! 何してるんだ、あの鈍ガメ!!」

イライラして来た。こうなったらあいつは無視して1人で行ってやる。
そう思った瞬間、ポケットから「BLAVE」が流れて来た。この着信は……。

「はい、火波です」
『スザク? ……もしかして、まだ学校か?』

案の定だった。こいつは……!!

「ゲンブ!! 何やってるんだ、一時間も待ったぞ!!」
『す、すまん。うっかり病院に直行していた』
「…………自分で連絡しといて忘れるなよ……まあいい、それならそのままランカに会ってやってくれ。僕もすぐに行く」
『わかった。それなら急いでくれ』

通話を切る。これがゲンブの欠点だ。一つのことに集中し過ぎて回りが見えなくなる。極端になると、このように自分で行った会話すら忘れている事がある。

「……まったく」

パチン、とデコレーションした携帯を閉じ、僕は鞄を肩に引っ掛けて教室を後にした。



目的の病院は僕の家から少し離れた所にある。仲間のひとりである、ランカがここに入院しているのだ。
ロビーに問い合わせると、既に面会の許可は降りていた。エレベータを使って4階に上り、部屋を探す。

「403、403……あった」

僕の好きなアーティストの名前と同じだから、凄く覚えやすい。ノックをすると、

「はい、どうぞ?」

鈴を転がしたような綺麗な声で、そんな返事が返って来た。
息を整えて扉を開け、中に入る。

「あっ、綾ちゃん!」
「来たか……綾音」
「ああ。……久しぶり、ランカ」

待っていたのは、窓に腰かけるゲンブ。そして、ベッドの上で身を起こす、雪のように白い肌と、対照的に真っ黒な髪と瞳が目を引く、ひとりの少女だった。
ブランカ・白波、愛称「ランカ」。14歳の女の子で、僕の仲間のひとりだ。イタリア人とのクォーターらしいが、出自に関して詳しい事は知らない。彼女とのかかわりは、「施設」を逃げ出してしばらくの頃からだ。
とにかく明るくて素直な子で、この子を疑う奴は頭がおかしい、と言いたくなる。そして、この子の前でだけ、僕は「私」―――「綾音」に戻れる。

――――ただし、だ。

彼女はとにかく体が弱い。何かと言うとすぐに体調を崩し、こうして入院している。彼女にとっては、もはや病院にいない方が珍しいと言う状態なのだ。
そこで、こうして僕……私やゲンブがお見舞いに来ている、というわけ。

「久しぶり~、綾ちゃん。元気してた?」
「見ての通り。ランカ、調子は悪くないか? 気分はどう?」
「も~、綾ちゃんは心配しすぎだってば。大丈夫だよ、今日は調子いいから」
「そっか……それならいいんだ」

胸を撫で下ろした。以前はICU送りになったこともあるランカだが、どうやら今日は調子がいいようだ。
花の様な笑顔を咲かせる彼女を見ていると、衝動がすーっ、と薄れて行く。率直に言えば、癒される。

「ねぇねぇ、綾ちゃんは最近どうしてるの?」
「ああ……」

この間の王様ゲームの一件を思い出し、ちょっと気分が沈んだ。表には出さなかったつもりだが、ランカには通じなかったようだ。

「あれ、嫌なことあったの……?」
「そればかりでもないよ。実は……」

私は、最近のことを話して聞かせることにした。ただし、例のゲームで、最後の最後にどうなったかは省いて。
ランカはそれを時に驚き、時に笑って聞いていた。この表情は本当に見ていて幸せになる。

「あははっ、それホント~?」
「本当だ、この眼で見たんだから。それで……」

と、だ。

「……そこから逃げ出して、それでお流れかな」
「そっかぁ……ね、綾ちゃん」
「ん、なに?」
「どんな感じだった?」
「!? &%$#!=>!:@(%%}*=)@{%[%*)!!??!)()!=|?!」
「おい、綾音、落ちつけ。何を言っているのかさっぱりわからんぞ」

ゲンブがそう言ったが、私はそれどころじゃなかった。頭が沸騰して思考がこんがらがる。

「な、な、な、何でわかった!? そこは何も言ってないのに!?」
「いや、だって……」
「考えなくてもわかる。お前はパニックになると、なぜか行き止まり目掛けて進む癖がある。逃げ切れたとは思えん」
「そうそう」
「う、うぅ……」

言われてみればそうかもしれない。私は、そういう場合に逃げ切れたためしがない。
その事は当然ランカも知っているので、思えば当然だった。

「………ランカ、頼むからその事は聞かないでくれ。頭が真っ白になってて、思い出そうとすると物凄く疲れるんだよ……」
「そ、そうなんだ。わかった、ごめんね」
「い、いや、わかってくれれば」

―――本当に、あの事は思い出したくない。

なんとか衝撃から立ち直って、会話を再開する。それからは、病院で何があったかとか、僕やゲンブが何をしていたかを語りあった。

「――――でね、その先生が凄いんだよ。この間もね……」
「へー、それは確かに凄いな。今時珍しい」
「どこがだ。普通はそういうものだ、医者というものはな」

私とランカが語りあって笑いあい、ゲンブがたまにツッコみを入れる。そんな、いつもと同じやりとり。
今はその中でだけ、私は「私」でいられる。今はここだけが、弱さをさらけ出せる場所。

「……綾ちゃん、まだ『あの人』を追ってるの?」
「……うん」

唐突に、ランカがそんなことを言った。

「もうやめようよ……私は大丈夫だから。綾ちゃんや大さんがいてくれれば、私は平気だから」
「ごめん、ランカ。そうはいかないんだ」

悲しそうな顔でランカが訴えるが、私は止まるわけにはいかなかった。「奴」を探しだすまで、探してこの手で叩きのめすまで、私は、「僕」は、立ち止まるわけにはいかない。

「ランカを放って自分を優先するような奴を、私が個人的に許せないんだ。だから……」
「……そっか」

やがて、ランカが諦めたように笑った。ただそれは、同時に納得の笑みでもあった。

「そうだよね。綾ちゃん、一度こうと決めたら譲らないもんね」
「……ごめん、我が儘言って」
「いいよ。その代わり、また会いに来てね」
「ああ、もちろん。必ずまた来るよ」

約束は、指切り。昔からの、そして一番信頼する相手との誓い。

「約束ね」
「ああ、約束だ」

そして、楽しい時間は終わりを告げる。

「……そろそろ時間だ。いくぞ、『スザク』」
「……ああ、わかった。またな、ランカ」
「うん、またね」



病院を出ると同時に、私はまた「僕」―――スザクに戻る。

「ランカは元気そうだな。よかった」
「ああ。……スザク、俺は一度アースセイバーに顔を出して来る」
「アースセイバーに?」

珍しいこともあるものだ。ゲンブはアースセイバーでも特殊な立ち位置で、ほとんど外部で行動している。そのため、本部に顔を出すと言う事自体めったにない。

「ああ。いずれ、ボルカノンの3機目が出て来んとも限らん。情報をまとめたい」
「そうか。なら、僕はいつも通りでいいのか?」
「そうだな。その様子では、衝動は当分表には出て来ないだろう」

確かに、ランカと話せたのは大きかった。ボルカノンの一件で再発した衝動がほどけて、あの事件以前の状態に戻れた。根本的に解決したわけではないが、当分大丈夫だろう。

「では、な」
「ああ。……今度連絡する時は忘れるなよ」
「う……わ、わかっている」

ばつの悪そうな顔をしながら、ゲンブはまたな、と去っていく。
今日は久々に楽しかった。

「晩ごはんは何にしようかな……」

足取りも自然と弾む。何だか、とても気分がよかった。
さあ、家に帰ろう。また明日、みんなに会うために。また明日、笑えるために。
 


 

作者 登場人物
スゴロク 火波 スザク水波 ゲンブブランカ・白波


投下順
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最終更新:2013年06月19日 23:25