「ここのはずなんだけどな…」
リオトは怪物の目撃情報のあった森の中をきょろきょろと見渡していた。
目的は勿論、怪物の排除。
作戦に支障を来さないようにするためだ。
不確定な存在は取り除か……
「………リオト?」
「ッ!?ゆっ、ユユユユウイ!!?」
背後から聞こえた不安げな声に、リオトは一メートルほどぶっ飛び、冷や汗をだらだらと流した。
そして驚愕の表情のまま、目前にいる少女へ向かって言葉を投げ掛ける。
「お、お前っ、なんで此処に!?」
「なんでって…今日一緒に帰る約束してたじゃん。それなのにアンタこそこそしながら何処かいっちゃうしさー」
その言葉を聞いた彼は、しまった!と今日の朝軽々とユウイの誘いに乗った過去の自分を呪う。
──まさかこんな失敗をするなんて…。
──こんなところで怪物が出てきたらどうする!?
──ユウイがいるから戦えない上、ユウイが危険に晒されるかもしれない!
──そんなこと、させてたまるか。
──…言うことといったら、決まってるよな。
「……帰れよ」
「え?」
「帰れっつってんだよ!!」
「ッ!」
リオトは目をつり上げながら少女に向かって精一杯の声を出す。
森全体に響くように、精一杯に。
ユウイは見たことのないリオトの表情に目を見開いて立ち尽くしていたが、やがて俯き奥歯を噛みしめて拳を作った。
「……しいよ…!」
「は?」
「リオト最近おかしいよ!いつも以上に食い物食うようになったし!」
「…元々だろ」
「違うッ!絶対違う!アタシの観察力ナメんな!包帯だって日に日に増えてきてるし!」
「………」
「それに、それにっ…笑ってたんだろ!?あいつが死んだ時…お前、笑ってたんだろ!?」
「……!」
「なんでだよ!」
ユウイがリオトの両肩を掴み、返事を急かすように激しく揺すった。
その瞳には、涙が溜まっている。
だがリオトは俯いたまま顔を上げない。
まるでユウイを殺す直前の"あいつ"のように。
「……っ…く…」
「り、リオ…」
「あははははははは!!」
「ひっ…!?」
突然笑い声を上げたリオトに、ユウイは悲鳴をあげてその場に座り込む。
恐怖で震えている彼女を彼は真紅の瞳で見下ろした。
「くっ…あははっ、…はーぁ…笑わずにいられるかよ。オレはずっと"あいつ"のこと邪魔だと思ってたんだ。オレがユウイに近付こうとしたらいっつも直ぐユウイ連れて逃げちまうからさぁ…」
「な……何、言って…」
「…それに、ユウイを殺した奴なんかが生きてて良いわけがねぇ!死んで当然なんだよ!」
「!なんで、それ、知って…」
ユウイは目の前の少年にただならぬ気配を感じ、その場を離れようとするが、腰が抜けてしまっているらしく、立ち上がることが出来ない。
とうとう彼女の頬に一筋の涙が伝った。
「…お前は"あいつ"と一緒に数学の勉強をしてて…」
「い、いや…やだ…」
あの時の風景がフラッシュバックする。
力無く俯いた友人。
その友人を揺するユウイ
自分に向けられた尖ったもの。
「"あいつ"はお前の目に向かってシャーペンを
「…いやぁあああああ!!!」
「!」
ユウイの悲痛な叫びと共に細長い灰色のものがリオトに向かって放たれる。
それに気が付かなかったリオトは身体中に鋭い痛みを感じた。
「………ぇ……?」
顔を両手で覆っていたユウイは突然訪れた静けさに小さく声を出した。
先程の騒がしさは嘘のようで、ただ静かな空間に小鳥の囀りが響いている。
しかし顔を上げた瞬間、その場には釣り合わない光景が広がっていた。
…リオトが血を流しながら地面に伏せていたのだ。
その身体にはシャーペンが深々と突き刺さっており、周りの大樹にもシャーペンが垂直に刺さっていた。
「り、リオト…?」
ユウイは自分の身体を引き摺るようにしながら彼に近付き、その身体に触れる。
「…嘘、だろ…?リオトっ!起きてよ!返事してよ!」
「何?」
「わぁああああああっ!」
呼び掛けと共にむくりと起き上がったリオト。
ユウイは再び叫び声を上げた。
…誰だって血を流している人が何事もなかったかのように起き上がるのを見たらそうなるだろう。
彼はぱくぱくと口を動かしているユウイをよそに刺さっているシャーペンを抜き始める。
抜くと同時に血が溢れてくるが、それは一瞬にしてパキリと固まった。
「……ナイフと同じ位の威力はある、と」
「リオト…だ、大丈夫…なの…か?」
「え、あぁ、全然平気」
「そ、か…」
「……いーからな」
「…?」
「お前は何も知らなくていいから。今あったこと、今までにあったことも誰にも話すな」
「……」
「…オレは"お前の"味方だから。……帰ろうぜ」
「…うん」
────
次の日
「ユーイちゃんっ」
「わ…ト、トキコ…」
アタシは突然、トキコに後ろから話しかけられた。
…なんだろう、なんだか、昨日のリオトを見てからトキコまで変な風に見えてくるようになってしまったような気がする。
「どお?昨日リオ君に会えた?」
「あ、うん…場所教えてくれてありがとな」
それ以上、会話を続けることが中々出来なくて。
気まずくなったアタシはトキコから目を逸らした。
「ねぇ、ユーイちゃん?」「ん?」
「ユーイちゃんはリオ君のことどういう風に思ってるの?」
汚れのない綺麗な微笑みを浮かべながらトキコはアタシにそう問いかけた。
…昨日のリオトにはビビった。
久しぶりに泣いてしまった気がする。
怖かった、恐ろしかった。
殺されるんじゃないかと思った。
…でも、最後に言っていた。リオトはアタシの味方だって。
思い返してみれば、小さい頃からそうだった。
アタシが何かされた時は必ずアイツがアタシを守ってくれてた。
…だからこそ、アタシは笑顔でこう答えるんだ。
「…信頼、出来る人。アタシが今一番信頼出来る人だ」
| 作者 | 登場人物 |
| 紅麗 | 高嶺 利央兎、榛名 有依、トキコ |
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