「やっと授業が終わった……」
机にだーっ、と体を投げ出し、僕は放課後の解放感に浸っていた。
今日は非っ常ーに疲れた。どちらかというと精神的に。啓介が何やら上機嫌で、教室の空気が妙なことになっていたのと、トキコの念押しがある。
昼休みに、
『鳥さん。「その時」が来たら、ちゃんと殺しに来てね? 私も鳥さんを殺しにいくから、ね』
と。しかもいつもの楽しそうな感じではなく、どこか不安げに。
調子が完全に狂わされ、午後の授業はまともに聞けなかった。あー、疲れた。
(何があったんだ、トキコの奴)
啓介もそうだが、ホウオウに心酔し、いつも自信溢れるあいつが調子を崩すなど、僕にとっては想像だにしないことだった。しかし、あいつも人間である以上、ありえなくはない。ないのだが、正直今でも信じ難い。
―――まあ、安心しろ。「その時」が来たら、約束通り命を貰いにいくから。
さておき、今日はとくにすることもない。まっすぐ家に帰るとしよう。
けどその前に、
「ライブあるんだよな……これは見にいかないとな」
正人の所属するバンドがライブをやるのだ。衝動の問題で告白こそ今は出来ないが、それを差し引いてもライブは見に行きたい。純粋にあのバンドが好きなのもあるし。
――――オオオオオッ!!
「……入れない」
体育館に着いた僕は、入口で呆然としていた。――――こんなに観客が多いなんて、聞いてないぞ。
確かにこのバンドは学内でも人気が高いが、こんなに盛況とはどういうことだ?
立入禁止になっている、入口の玄関スペースの上にある物置に上がってステージを見て、そのわけがわかった。楽しげにフルートを演奏している、あの子は……。
「――――ネイロ! と、あれは……」
確か、「星神 ムーン」だ。12歳とは思えない容姿を誇る、水色の髪が特徴的な少女。
日本有数の資産家として知られる星神財閥の娘で、知る人ぞ知る事実として、歌手をしているという。
ただ、なぜか右目を眼帯で覆い、左の頬にはハート型の傷がある。ファンにとってはそれも魅力の一つらしいが、僕にはよくわからない。
それよりも今問題なのは、
「正人……は……って、いないのか~!?」
ドラム担当の正人がいない。僕としてはかなり落胆した。正人がいないなんて……。
「あーあ……」
残念だがそれも仕方ない。正人はバイトの都合で、ライブに出られないことがある。いつもはスケジュールを調整していると聞いたが、今日は無理だったようだ。
「しょうがないか……」
ライブは面白いが、一番の目的が空振った以上はもう見る気が起きない。すごすごと、僕は教室へ引き返して行った。
「……ちょっと待って下さい。なぜ私なのですか。私は開発担当ですよ。しかも、前の任務に失敗したというのに」
某所。ホウオウグループ開発部、ゼアは大いに狼狽えていた。というのは、ユウム経由で伝えられた命令の内容が、あまりに問題のあるものだったからだ。
「あたしに聞かれても困りますって。ホウオウ様の仰ったことをそのまま伝えただけですからね」
「だからと言って、なぜ私が」
「七谷さんとかスキュアロウさんも送るらしいですよ」
「……前の任務のメンバーじゃありませんか……連携は望めませんね、これは」
七谷 狂夜、スキュアロウ・バルカンチ。どちらも、ゼアが失敗したボルカノン予備機の移送任務の参加メンバーだ。しかも今回は支援と護衛。これは下手をすると……。
「……またしても失敗、ですかね」
「それはあなた次第、とのことですよ。じゃ、あたしはネイロちゃんと遊びに行くんで、これでー」
それだけ言い残し、ユウムは去って行った。残されたゼアは、柄にもなく頭を抱えていた。
「……ホウオウ様は潜入中のメンバーについては触れておられない……察知されればスザクは確実に来る……ということは、間違いなくトキコが邪魔をしに来ますね……」
トキコは正直、グループの中でもかなり扱いづらい部類だ。ホウオウには忠実だが、それ以外の命令はまったく聞かない。しかも、当のホウオウから「成すがままに任せよ」との命令が出ている。つまり、止める術がない。
「……仕方がありません。奴を使いますか……」
「……また、ストラウル跡地か?」
「そうらしい。アキヒロさんから連絡があった。しかも今回は反応が恐ろしくでかい」
屋上に出ていた僕は、シスイから話を聞いていた。なんでも、ギルギガントなるロボット、ボルカノンに続いてまたしても例のエネルギー反応があったらしい。しかも、今回はそれがかなり大きな反応だとか。
「でかいって……戦艦くらいか?」
「さすがにそこまでじゃない。サイズっていうより、使われてるエネルギーが多いってことかな」
使われているエネルギーが多いと言う事は、つまりそれだけ強力な何かということだ。奴らは世間に認められない才能や技術を持った連中の集まりだ、万一試作型でもとんでもない性能を持つ。それは、かつて出現したと言うボルカノン(その時は恐らく試作型だったらしい)が証明している。
「なんにせよ、ホウオウグループ絡みなら僕が行かない理由はないな。シスイ、手伝おう」
「そうしてくれるとありがたい。何しろ、今回は大掛かりな作戦になるからな」
「大がかり?」
アースセイバーが「大掛かり」……つまり?
「何が出て来るかわからないから、ウスワイヤにいる人も含めて、出られる人はとにかく出よう、ってことになったんだ。ただ、ケイイチさんは諸事情で参加出来ないらしいけど」
「そんな緊急事態なのか? 誰が?」
「えーと……まず学生・子供組。俺、光一、ハヤト、啓介、ジミー、奈桜、アラタ、錬太郎」
「ちょっ、待て!? そんなに来るのか!?」
この時点で既に8人。いくらなんでも多すぎるだろう。
しかし、
「大人組が……修斗さん、聖さん、蒼さん、ゲンブさんの4人。シノさんとバク教官は後方指揮だ」
「おいおい……」
まだそのエネルギーの源が何かもわかっていないのに、総勢12人が前線へ。これはさすがに異常な事態だ。
シスイ曰く、エネルギーの規模が桁違いに大きいため、最悪の場合これでも足りないらしい。
「ま、まあ、そのくらいはするか……する、よな?」
「驚くのはわかるけど、それくらい非常事態なんだ。原子核砲の半分ちょっとくらいの反応だから」
――――納得した。
「……それは、なおさら行かないとな」
「すまない、スザク」
「気にするな。……ただ、今回はさすがに無事で帰る自信はないな」
シスイがちょっと心配そうな顔になった。そうは言っても、実際それほどの何かを相手にする自信はない。
戦闘力は高い方だと自負しているが、マシンが相手だと……。
「……弱気になってたら戦う前から負けるな。とにかく、頑張ってみよう。で、いつだ?」
「今夜だ。手遅れは避けたい」
「……サッカーが見たかったんだけどな……仕方ない」
――――夜。
「……では、お願いしますよ」
狂夜とスキュアロウを引きつれて目的の場所――――ストラウル跡地にやって来たゼアは、今回呼び出した相手に念を押していた。
「任せなさい。他ならぬホウオウ様の命令です、きっちりと仕事はしましょう」
「……本当に頼みますよ?」
「信用のないことだ。しかし、そういうならばあなたもあなたの仕事をきっちりとこなすのですね」
「わかっています。わかっていますとも、チネン……」
ゼアが話しているこの男の名は、チネン。ホウオウグループの庸諡(中級)幹部にして、上等諜報員。
元傭兵で、航空機のエキスパートでもある。偵察・諜報など情報関係の外部連続任務が主な役割だが、今回この男を使ったのは理由がある。
「……『ブラストル』はスタンバイ出来ていますか?」
「もちろんですとも」
「了解。……二人とも、すぐに戦闘の準備をしてブラストルへ。アースセイバーが来るはずですので、迎撃をお願いします」
「キヒヒッ、任せろ」
「おう。……ゼア、あんたはどうするんだ」
狂夜に問われ、ゼアは足早に「目的地」へ向かいながら言った。
「後始末です」
ストラウル跡地は、いつもとは違う雰囲気に包まれていた。
人の気配。そして、戦意。あるいは、動揺。恐怖。
それぞれの位置で待機するメンバーを、僕は眺める。
都シスイ。麒麟の力で自身を強化して戦う、戦友。
蒼崎 啓介。並みはずれた超能力を持つ、本物のエスパー。
ハヤト。実はアースセイバーにいた、ぱっと見女の子の見た目不良。
闇野 光一。レーザーを自在に操る、超奥手。
アラタ。星型の盾で仲間を守る、家族思い。
ジル・ミナル。爆発を操る、猫系の女の子。
藤岡 奈桜。時間を操る、ツッコミ属性。
錬太郎。四次元への扉の鍵を持つ、パソコン好き。
そして大人組。
水波 ゲンブ。格闘術を極めた、僕の監視役。
蒼井 聖。武器の扱いに長けた、能力者嫌い。
森山 修斗。ロープを手足の如く操る、マジシャン。
篠崎 蒼。大気を操る、元警官。
最後に僕、火波 スザク。決戦能力の紛い物を持つ、兵器のなりそこない。
これだけの人数が動員されるということは、感知されたエネルギーというのは相当に大きいのだろう。
全員が耳につけている通信機から、シノさんと七篠さんの声が流れて来る。
『全員配置についたっすね? 目標のエネルギーは、座標207-229より動かず。引き続き警戒をお願いするっす』
『戦闘に陥る目算がかなり大きい。各員、能力の使用と限界反応に、くれぐれも注意せよ』
――――了解。
全員の声が、それぞれに重なる。そしてそれっきり、人の気配は消えた。
全員息を殺し、気配を静め、何かが起きるのを待つ。何が出てこようと、このストラウル跡地から出すわけにはいかない。
時間だけが過ぎて行く。一分、二分……。
あとになって計算してみると、わずか12分しか待っていなかったというのに、感じられた時間のなんと長かったことか! 僕はてっきり、もうすぐ夜が明けるはずだとさえ思った。
そして、「来た」。
「来る……!!」
啓介が呟く。ほぼ同時、シノさんの叫びが走る。
『当該座標のエネルギー反応、移動開始! そっちに向かっているっす!!』
「来ますよ!! 全員、戦闘態勢!!」
蒼さんがそう叫び、全員がそれぞれに構えを取った瞬間、「それ」は現れた。
廃ビルを一つぶち破って現れたそれは、蜘蛛の様な姿をした戦車。
「ダルセノンだと!?」
「違うわ、あれは……!?」
奈桜の言うとおり、「それ」はダルセノンとはあちこちが違っていた。
足の先端に車輪。一瞬見えた背部に砲口。
奴らの新兵器なのか?
『これはこれは、アースセイバーの皆さん。こんばんは』
「それ」の中から声が響いた。どこか癇に障る、男の声。声は続ける。
『私はチネン。もう気付いたでしょうが、栄えあるホウオウグループの一員です』
「けっ、栄えあるとは冗談が過ぎるな。まあいい、どっちにしてもてめぇは消す」
聖さんが対戦車ライフルを呼び出し、早速血気にはやっている。それを抑えるようにして、蒼さんが問いかける。
「お前の目的は、なんだ!?」
『さあ、なんでしょうねえ。知りたければ想像してみることです。ハハハハ……』
いちいち苛つく。物言いと言い、態度と言い。ハヤトや啓介辺りには効果覿面だったようで、苛々と足を踏み鳴らしたり舌打ちをしたりしている。
『さあて、せっかくお会いできたことです。この「ブラストル」の力、味わってみなさい』
戦車―――ブラストルがこちらに向き直る。それが、始まりだった。
「おら――――!!」
いきなり聖さんが仕掛けた。ライフルを構え、一発、二発と続けざまに撃ち込む。しかし、着弾する端から装甲に弾かれてしまう跳弾をアラタが防いでくれたが、効かなくてはどうしようもない。
『ハハハハ、無駄ですよ。その程度の攻撃ではね』
チネンの声が響く。くぅぅ、苛つく。
だが実際その通り、通用していない。――――それで詰みかといえば、まったくそんなことはないが。
「なら、こいつだ!!」
光一が両手をかざし、光を集め始める。しかし、それを見逃すような相手では決してない。耳障りな笑いと共に、背部からミサイルを放って来た。―――スタービングチルドレン!!
「させないっ!」
アラタが盾を展開するが、それだけで防ぎ切れる量ではない。だから、
「龍義鏡ッ!!」
「ここは、通さない!」
僕が鏡を展開して割り込むと同時、錬太郎が空間を割り、ミサイルを次々と防ぎ、呑み込む。そして、ミサイルをしのぎ切った時には光一のチャージは終わっていた。
「スザク、錬太郎!!」
警告の声に僕らが飛び退ると同時、光一は巨大なレーザーをブラストル目掛けて放った。最大出力なら加粒子砲に匹敵すると言うあれを受けては、機体が無事でも中のパイロットはそうはいかない。
「これでどうだぁぁ!!」
「よし!!」
シスイが快哉を上げる。コクピットの直撃コースだ。
――――これがダルセノンだったら、だが。
『無駄です、と言ったでしょう』
チネンがそう言うと同時、ブラストルがその巨体からは想像できない素早さで横に移動した。目標を失ったレーザーはそのまま突き進み、虚空を切り裂いて消えて行った。
「な!?」
「そんな……」
『どうしました、もう終わりですか?』
嘲笑するようなチネンの声が響く。どこまでも余裕を崩していないが、そこに割って入るものがあった。
「んなワケがあるかよ、ボケがっ!!」
それと同時、今度は機銃掃射がブラストルを襲った。この乱暴に過ぎる言葉遣いは、聖さんだ。戦いになると非常に荒っぽくなると聞いていたが、本当だった。
ブラストルに実弾は効かないが、チネンの気を引くには有効だったようだ。
『やれやれ、諦めの悪い』
「悪いさ。俺達アースセイバーが、ホウオウグループを見逃すはずがない』
修斗さんが力強く言うと、それに背を押されるようにして、学生組の表情に覇気が戻る。
すると、チネンの反応が変わった。
『我々に勝てるつもりですか、アースセイバー』
「当然だ」
即答したのはゲンブだった。
「戦う前から負けを覚悟する者はいまい。だからこそ、あの暗殺者は勝ったのだ」
「大体、あんたらの頭はケイイチに何度も負けてるだろ!」
錬太郎がそれに続けて言い放った。が、それはどうも逆効果になったらしい。
『…………』
しばらくの沈黙。そして、
『とんだ戯言を……人間という動物は脳の思考回路まで腐敗しているのか?』
口調も調子も変わった。――――逆鱗に触れた、のだろう。
『我らホウオウグループが、絶対者の手足たる我々がいかに恐ろしいか、少々わからせる必要がありそうだ』
そして、悪夢が始まる。
『さあ、お前たち。我らの力を見せてやるのだ!!』
「言われるまでもないっ!!」
「てめぇにだけは言われたくねぇなぁ、オイ!!」
ブラストルの両側から、二つの人影が飛び降りて来た。1人は月光の色を宿した、銀色の髪の青年。
そして、もう一人は、
「ス、スキュアロウ!?」
「ま、マジかよ……」
シスイと光一の叫びが全てを語っていた。僕も実際に見るのは初めてだ。
スキュアロウ・バルカンチ。ホウオウグループの中でも上位に位置する男で、特徴的なのはその6本の腕。
それぞれから鋭い刃を出して敵をせん滅する、恐らく生身での戦闘力はホウオウに次ぐ。
そのホウオウは、様々な事情で自由に力を使えないことを考えると、実質グループ最強と言っても過言ではない。ケイイチやアキヒロさんならともかく、こいつと正面からやり合って勝てる奴が何人いるか。少なくとも、数の差はこいつの前では無力だと言うのは間違いない。
「おぉっと、どこかで見たツラがいるな。ボルカノンの事は忘れてねぇぜ、キヒヒッ」
シスイ、続けて光一に視線を移し、スキュアロウが嗤う。射すくめられた二人は、心なしか硬直したように見えた。
しかもこれに加え、ブラストルともう一人がいる。状況は最悪と言ってよかった。
俄かに緊迫する状況の中、蒼さんが叫んだ。
「スキュアロウともう一人は俺達が引き受ける!! お前たちはブラストルを!!」
「え!?」
確かに現状ではそれが最善だろうが、どうするのか。スキュアロウと銀髪は自由に動き回る事が出来、それにブラストルの行動範囲は広い。個々に相手すると言っても、どうやって。
「地割れでも起こすかぁ?」
からかうような銀髪の言葉に、修斗さんが答えた。行動で。
「そんなことはしないさ。こうするんだよ!!」
瞬間、修斗さんはいつの間にか正面に伸ばしていたロープを思い切り引っ張った。同時、聖さんがロケット砲をそちらに向けて撃ち込む。と、次の瞬間だ。
「!? な、なん……」
「う、おおおおおお!?」
敵味方問わず、全員が驚愕した。――――ビルが二つ、こちらに倒れてきている。
「まずいっ!!」
「くそが!!」
スキュアロウと銀髪は左へ、ブラストルは右へかわした。
僕達はというと、アラタと錬太郎が粉じんや瓦礫を防いでくれる中、ブラストルを囲い込むべく右へ右へと走った。
そして、完全にビルが倒壊した瞬間、轟音と粉塵が舞い上がり、戦場はきっかり分断されていた。
――――そう、三つに。
「やってくれるな、紐使い」
「フォレスト・マジシャンと呼んでくれ」
聖と組んでの大技を成し遂げた修斗は、どこか得意げにそう言った。前に進み出たゲンブがそれを嗜める。
「修斗、何をしている。相手はホウオウグループ最強の男と、正体不明のもう一人だ。気を抜くな、死ぬぞ」
「わかっています」
それを境に表情から笑みが消え、真剣そのもの、戦場の顔になる。蒼も手をかざし、空気を集め始める。
「行くぜ、スキュアロウ……ってどした?」
「冗談じゃねぇ、冗談じゃねぇんだよ。俺はあいつらに借りを返しに来たんだよ、借りをよ。なんでこんな連中の相手しなきゃならねぇんだ」
わかりやすくスキュアロウは苛ついていた。これはいける。どんな相手であろうとも、冷静な判断力が鈍れば、わずかなりとも勝機が見える。
が、
「よし、それなら俺がなんとかしてやる」
「は?」
スキュアロウが間抜けな声を上げるのと同時、銀髪の男はその足の下に手を入れると、
「おい、狂夜、何を」
「どっせぇぇぇぇい!!」
思い切り、放り投げた。倒壊したビルの、向こうへ。
「うおぉぉぉぉぉぉ……」
叫び声を残して、スキュアロウが吹っ飛んで行く。その行く先は、
「し、しまった!! あいつらの方へ!!」
蒼が叫んだ。力があるとはいえ、実戦経験で言えばスキュアロウの足下にも及ばない。このままでは、みんな殺される。
「くそっ、そうはいくかよ!!」
聖が瓦礫の山を乗り越えんと走る。が、その行く手を銀髪―――狂夜が阻んだ。
「行かせねぇよ、これが」
そして、その体が変貌を始める。
「参ったな……みんなと分断されてしまった」
「ここからでは援護出来ないな……どうする、シスイ」
僕とシスイは途方に暮れていた。走りこんだ際、ちょうどハヤト達と僕らを分断するように瓦礫が降ってきたため、戦場の外へ僕達二人だけが締め出されてしまったのだ。これではどうしようもない。
「身体能力を強化して、よじ登るか?」
「ダメだ、それだと向こうについてから足手まといになる」
僕の提案はあっさり却下された。となると、どうしたものか。
「……」
「……」
上手い手が思いつかないまま時間が過ぎる。と、その時だ。
「……ぉぉぉぉぉおおおおおおっ!?」
「「!?」」
突然上から声がした。驚いてそちらを振り仰ぐと、少し欠けた月を背に何かが降って来る。
――――腕が6つ!?
「な!!」
ズドォン、と轟音を立て、そいつは頭から地面に突っ込んだ。そして、粉塵を割って、立ち上がって来る。
「何しやがんだ、あの野郎……っと、いつかのガキ共じゃねぇか」
――――スキュアロウ・バルカンチが、そこにいた。
「なんで、こっちに……」
「狂夜のバカが無茶しやがったのよ。まぁそれはいい……せっかくだ」
ジャキン、と音を立て、6つの腕から鋭利な刃が飛び出る。
「ハデにやろうぜ、ガキ共っ!!」
応えるようにして、僕の髪が赤く染まり、シスイがオーラを纏う。
絶望的な戦いが今、幕を開ける。
「ぬおおおお!!」
咆哮を上げ、ゲンブが狂夜に襲い掛かる。しかし、狂夜は繰り出された神速の拳を軽くいなし、逆に痛烈なカウンターを叩き込んで来た。
「そらよっ!」
「!! が、ふっ……」
ハンマーで殴られたかのような痛みに、思わずゲンブが後ずさる。入れ替わりに聖がガトリングガンを乱射するが、人間離れした動きでアクロバットに回避され、まったく当たらない。
「ちぃっ、化け物が!!」
「同類に言われたかねぇよ、武器商人が」
「だぁれが商人だぁぁっ!!」
見え見えの挑発にあっさり引っ掛かり、聖はさらに弾丸をばらまく。当然の如く回避した狂夜は、跳躍して一気に躍りかかろうとしたが、
「ぐほっ!?」
顔面に蒼の放った空気の弾丸をくらい、仰け反りながら墜落した。
「聖さん、熱くなりすぎっす!」
「ちっ……」
舌打ちしながら聖が次の武器を呼び出す。サモンアームズ……一度使った武器と同じ種類の武器を呼び出す能力だ。現れたのはマシンガンだ。
その銃口が狙う先で起き上がった狂夜は、人間の姿をしていなかった。
全身が獣毛でおおわれ、手には鉤爪、顔は狼そのもの。狼男――――おとぎ話の中の存在のはずの者が今、ここにいた。
だがここはいかせのごれ。何が起きても不思議ではない。そもそも神だの巨人だのがいる世界だ。狼男がいてもおかしくはない。
「当たらねぇって、そんなもんはよ!!」
ばらまかれる弾丸を、再び獣の動きで避けにかかる狂夜。だが、その動きが突如止まる。
「ぐお!? な、なんだ、動けねぇ!?」
気付けば、彼の四肢を黒いロープが縛っていた。修斗がひそませていたものだ。
「聖さん、蒼さん、今です!」
「わかってらぁ!」
「いけぇぇぇっ!!」
聖のマシンガンが火を吹き、蒼の空気弾がぶつかる。もんどりうって倒れた狂夜目掛け、さらにゲンブが跳躍からドロップキックを見舞った。
「ふんっ!!」
「あぐ、ぉおっ!!」
優勢だったが、相手は腐ってもホウオウグループ。そう簡単に崩れはしない。
「なぁめんじゃ、ねぇぇぇぇっ!!」
「!! うおおっ!?」
跳ね起き様にゲンブの足を掴み、振り回した挙句に聖達目掛けて放り投げて来た。
「危ない!」
修斗が咄嗟にロープで網を作り上げ、それをキャッチした。しかし、それは隙となる。
一瞬で肉薄した狂夜が、その体を尋常ならざる力で蹴り飛ばした。
「がっ!!」
修斗の体が鞠のように弾み、転がる。
「修斗!? う、おっ!!」
聖が新たな武器を召喚するより早く、狂夜の一撃が襲う。声を上げる間もなく吹き飛ばされ、残るは二人。
「くっ、ここまでとは……」
「あまりのんびり相手はしてやれんのだがな」
『ハハハハハ、どうしたアースセイバーの諸君!!』
完全にスイッチが入ったチネン駆るブラストルを相手に、啓介達は激戦を繰り広げていた。しかし、決め手を欠いた状態ではどうしても防戦一方になってしまう。
不規則にばら撒かれるミサイルの雨は、ハヤトの「音」が、アラタの盾が、錬太郎の「扉」が防ぐ。奈桜が時折時間と共に敵の動きを止め、そこに啓介と光一、ジミーが攻撃を加える。全力を尽くした攻撃も、ブラストルの特殊装甲の前では悪足掻きに過ぎなかった。
「だからと言って、足掻かないわけにはいかん……!!」
「ああ、でなきゃ死んじまうからな」
未だ戦意を折らない啓介に、ハヤトが同調する。
「そーよ、こんなに服を汚してくれちゃって……絶ッッッッ対に許さない!!」
ジミーが憤怒の形相で言い切る。明らかに丈の合っていない真っ白なローブを着ているが、これが戦闘でボロボロになっている。怒るのも当然だった。
『戯言はその辺にするのだな!!』
瞬間、ブラストルが跳んだ。そしてその頂点で、腹部からミサイルを乱射して来た。
「またか!!」
「ええい、性懲りもなく!!」
再びアラタや錬太郎が防御を行うが、疲労が激しい。何発か防御を抜け、周囲に着弾して爆音を上げる。
「ぐわああ!」
「あう、うっ!」
また、何人かが傷を負う。ここまでで無傷なのは防御を担当していた内のアラタと、感知能力で攻撃を避けまくっていた啓介のみ。その2人も消耗して来ており、長くは戦えない。
ズズン、と音を立てて着地したブラストルだが、ここでチネンがさらに動いた。
『ふむ、先ほどから避けられるはずの攻撃を何度か喰らっている……ここは』
ブラストル正面の黄色い目が、ギロリと奈桜を捉える。
「!!」
『貴様を潰すべきだな』
言うや、ブラストルが奈桜目掛けてミサイルを発射した。咄嗟に彼女はその空間の時を止め、安全地帯へ走る。これ以上、アラタや錬太郎を消耗させるわけにはいかないからだ。しかし、
『逃がすわけがないだろう』
ブラストルがそちらに回り込みながらまた撃って来た。
「!! くぅぅっ!」
歯噛みしながらまた止める。そして走り、回り込まれる。
何度かそんなやり取りを繰り返した後、
「しまった……!!」
奈桜はようやく、己の失策に気付いた。気付いた時には、周囲が己が時を止めた空間に固定されたミサイルで埋まっており、逃げ場がなくなっていた。
これこそがチネンの狙い。
『ハハハハ!! お前の能力、そして行動パターンはわかっているのだ!!』
動揺が、精神を乱す。そしてそれは、能力の維持の終わりを示す。
――――そして時は動きだす。
「――――ッ!!」
鉄の火矢が―――――。
スキュアロウはまさに怪物だった。
6つの手を、まるで初めからそうだったかのように自在に操り、鋭い刃で確実に命を狙いに来る。事実、ここまでの全ての攻撃が急所狙いだった。
「く、この……」
「どうしたガキ共。それで終わりか?」
こちらも何度か攻撃を当てていると言うのに、まるで効いた様子がない。一方の僕達は、避け損ねた何発かが当たり、またここまでの疲労も相まって満身創痍の状態だった。特にシスイは深刻だった。疲労に負傷、さらに限界ギリギリの「天子麒麟」でダウン寸前の状態だ。
このままでは、二人とも殺される。
どうする? どうすればいい? 必死で考える僕に、シスイが囁いた。
「スザク……ここは、俺が食い止める……君は逃げろ……!!」
「!? 何を言うんだ、シスイ!!」
こんな状況で、こんな状態のシスイを置いて行けるはずがない。しかし、シスイは言う。
「冷静に考えろ……こんな状態じゃ、二人とも死んでしまう……だから君はアースセイバーに行って、助けを……」
「ダメだ!! それでは君が助からない!! コロネや玉木先生に何て言えばいいんだ!」
「いいから行ってくれ……!! 天子麒麟を限界以上まで使えば、足止めくらいは……!!」
「聞けるか、そんな頼み!! 僕は……僕は君を死なせたくないんだ!!」
迸ったのは、嘘いつわりのない本心からの叫び。そうさ、僕はシスイに死んでほしくない。僕にとって、絶対に欠くことのできない、大切な大切な日常のひとつなのだから。日常を護る。それこそ、アースセイバーのみんなが命をかける理由。組織に属していない僕も、その想いは同じだ。
「キヒヒヒッ、悪ぃがそこまでだ!!」
スキュアロウが嗤い、そして刃を振りかざして襲ってくる。
そのスピードに、避ける事はおろか、考える事もろくに出来なかった。刃が目前に迫り、そこに映る僕の顔がこわばり、
突然、その全てが視界から消えた。
「…………え、っ?」
一瞬何が起きたか理解できず、目を瞬く。と、
「ぐ……な、何が……!?」
何かに吹き飛ばされてうめく、スキュアロウの姿があった。そこから視線を移すと、さっきまで奴がいた場所に、別の誰かが立っていた。
背中に看板を背負った、赤いざんばら髪の男。
「紅、蓮……!?」
「…………」
紅蓮。僕も一度だけ共闘した事がある。束縛を嫌い、いかせのごれ中を放浪している孤高の能力者。
異様に発達した身体能力と、相手の思考をぴたり当てるという特技を利用し、ほとんど無敵を誇る。一言もしゃべることはなく、看板に字を書いて意志疎通を行う。
スキュアロウとまともにやり合って勝てる能力者は、ケイイチ以外に何人いるか、というレベル。紅蓮は、その「何人か」にカテゴライズされるのだ。
立ち上がるスキュアロウに向けて、紅蓮は地を蹴った。
狂夜との戦いはこう着状態に陥っていた。ヒットアンドアウェイを徹底して翻弄するゲンブと、空気の密度を変えて移動を妨げたり、呼吸を妨害したりして援護する蒼。対する狂夜は、的を絞られまいと動きまわる。
「ちっ、ちょこまかと」
「ええい、鬱陶しい連中だよまったく!!」
ゲンブは大きな一撃を叩き込めず、狂夜は蒼の妨害を受けて攻めきれず、お互い決め手を欠いたまま戦いが続いていた。
それが崩れるのは、このもう少し後の事。
「はぁ……はぁ……」
「あ、ありがとう、啓介兄……」
「ぶ、無事なら、結構だ……」
奈桜は無事だった。啓介から飛ばされた強烈な思念がミサイルの制御を乗っ取り、全て別方向へ飛ばしたのだ。操作をミスしたものはアラタが防ぎ、錬太郎が「扉」の向こうに消した。ただ、三人ともそれで力を使い果たし、倒れてしまった。奈桜もこれ以上時間操作は出来ず、戦力としては外れた。
「くそぉぉぉっ!!」
現在はハヤトと光一が応戦しているが、光一は溜めの時間が得られないため、大きな一撃が叩き込めない。ハヤトの能力である「音」と両手に持っている短剣はブラストルとの相性が最悪だった。しかも、回りに仲間の多いこの状況では大声で攻撃するわけにもいかず、防戦がせいぜいだった。
『フハハハ、そこまでかアースセイバー!!』
チネンの哄笑が響く。
「黙んなさいって言ってんのよ!!」
ジミーが怒声を上げ、ブラストルのあちこちで爆発が起こる。彼女の特殊能力「ダイナマイトキャノン」によるものだ。
任意の地点を起爆させるというシンプルかつ強力なものだ。しかし、ブラストルの装甲の防御を破るには至らない。
『無駄、無駄、無駄ァ!!』
「くっ……!!」
車輪の回る音を立て、ブラストルが向き直る。
『クックククククク……さあ、贖罪の時間だ! 愚鈍なる人間諸君、迷え、惑え、苦しめ、そして非力たる己を蔑み、苛み、憎み、恨みそして自らの魂を滅ぼし死ぬがいい!!! ハーッハッハッハッハッハ!!』
紅蓮の力はまさに圧倒的だったが、スキュアロウもよく粘っていた。互いに攻撃を見切り、かわし、防ぎ、また攻める。
そんな繰り返しで、ここに来て紅蓮の方が押され始めていた。原因は、ここに来た手段。
スキュアロウはブラストルに乗っていたが、紅蓮の方は歩いてここに来たのだ。つまり、体力の差が現れ始め、徐々に、しかし確実に、紅蓮は追い込まれていく。
「……!」
「ハッ、どうやら限界が近いらしいなぁ!!」
スキュアロウの言葉が全てだった。紅蓮が倒されれば、今度こそ僕らの死は確定する。―――だけど、それを甘んじて受け入れる気はない。
「……シスイ」
「何、スザク……?」
問いかけるシスイに、僕は言う。
「一か八かだ。切り札を使うよ」
「切り札……龍精落か? でも、あれじゃ……」
そう。僕の「偽」では、ケイイチやゼア程の威力はとうてい見込めない。しかし、ここで意味を持つのがシスイだ。
「君の『天子麒麟』で、僕の力を一気に強化するんだ。上手くすれば、一気に状況を引っ繰り返せる」
「け、けど……それは」
シスイが迷うのも当然だった。強化された龍精落は、瓦礫の壁を突き破って別の戦場へ到達する。下手をすれば、仲間達を消し去ってしまう可能性があるのだ。
だけど、僕には不思議な確信があった。
「大丈夫」
「え……」
「僕の力は、それだけじゃ破壊にしか使えない。だけど、君がいれば大丈夫。きっと、みんなを救う力になる」
「スザク………」
「……僕は、信じてる。だから、シスイ」
「僕に、力をくれ。みんなを守るための、力を」
沈黙は一瞬。そして、
「……わかった、スザク……俺は、君を信じる」
無言で頷き、立ち上がる。両手を右腰に引き付けるようにして構え、隣に立つシスイが手を重ねる。
高められる「龍義真精・偽」の力が、「天子麒麟」によってさらに増幅される。
(ぐ、うぅ……)
今にも破裂しそうな力を、渾身の力で押さえつける。まだだ。まだ足りない。
と、
「!! させるかよっ!!」
スキュアロウが気付いた。紅蓮を跳ね飛ばし、こちらに急接近して来る。
「スザク……!」
「まだ……今、逃げるわけには……ッ!!」
しかし、最悪の事態は、またも現実とはならなかった。
突然僕達の視界を、黒が覆ったのだ。
「な、ぶっ!?」
突撃の勢いをそのまま蹴りで跳ね返され、スキュアロウは吹き飛んで瓦礫の壁に激突した。
即座に飛びのいたその姿は、喪服を来た黒髪の青年。
「龍牙!?」
呼び声には答えず、彼は無言で促す。―――――今だ。
こくりとそれに頷き返し、次いでシスイと目を合わせる。
―――行くぞ。
―――ああ。
力は既に光球を維持する限界まで達しており、電光や火花が散り始めていた。チャンスは、一度。
互いに頷き、そして前を見据える。
「二度と……!!」
「姿を……成すんじゃない!!」
声が、心が、重なる。
「「龍・精・落――――――ッ!!!」」
重ねた両手を、解き放つように伸ばす。光が――――――。
「うおおおおっ!?」
突如瓦礫の壁の向こうから襲って来た巨大な光の奔流に、啓介達は成すすべなく呑み込まれていた。
しかし、死を思ったのは一瞬。すぐに気付く。破壊がやって来ない。力が戻る。傷が癒える。
『ぬおっ、ぐおわああっ!?』
ブラストルだけは、その恩恵を受けられずにいた。光の奔流に呑まれ、各部が瞬く間に崩壊していく。
今がチャンスだ、と光一が動いた。チャージを一瞬で完了し、
「吹き飛べぇぇ―――――ッ!!」
極大のレーザーを放った。ブラストルはそれをまともに喰らい、次の瞬間各部を誘爆して炎に包まれた。
状況は修斗達も同じだった。狂夜は間一髪で気付いてかわしたが、光を浴びた4人は、活力が再び漲って来るのを感じていた。
―――今だ!!
起き上がり様に修斗が動いた。忍ばせていたロープを一気に展開し、狂夜を完全に拘束する。
「うぐっ!? この、離しやがれ!!」
そうはいかない。ここぞとばかり、蒼は特大の空気弾を、聖はハンドミサイルを叩きこむ。
「くらえ―――ッ!」
「おらおらおらおらおらっ!!」
回避も防御も出来なくてはどうしようもなく、狂夜はふたつの攻撃をまともに喰らってしまう。
そして、
「おおおおおおッ!!」
飛び込んだゲンブが、それこそハンマーそのものの蹴りを叩きこんだ。
「ゴ、ハッ!!?」
あまりの勢いにロープがちぎれ、狂夜は廃ビルの方へ吹っ飛んで行った。
「や、やった……」
瓦礫に空いた穴から、僕は戦いが終わった――――勝利した事を確認した。気付けば、紅蓮も龍牙も、姿をとうに消している。
ふと隣を振り返ると、シスイの姿がない。見れば、力を使い果たしたらしく倒れ込んで眠ってしまっていた。無理もない。あれだけ消耗した後に全力の「天子麒麟」など使ったんだ。――――というか、僕もそろそろ眠くて仕方がない。とても、疲れた。
「ふ、ぁ……」
足に力が入らず、ばたりと倒れる。そしてそのまま、シスイに寄り添うようにして意識を手放した。
「………完了です」
アンバランスゾーン地下。ゼアは、操作を終えていた。
これが、彼の任務。即ち、「開発中のトラストラ及びバラトストラ、ボルカノン完成機のデータの削除」。
万が一これがアースセイバーに漏れるようなことがあれば、それはホウオウグループに著しい不利益を齎す。それは避けねばならなかった。
しかし、ここはギルギガントやボルカノン試作2号機の一件でアースセイバーに目をつけられている。
そこで彼は一計を案じた。強力なエネルギーを放射し、わざとアースセイバーにここの事を警戒させる。
そして、人員が集まった所でブラストルを出撃させ、目がそちらを向いている隙に地下の隠し部屋にあるこの端末を操作し、登録データを全て抹消する。
本当はこちらをチネンにやらせたかったのだが、ブラストルは操縦系統が「マンダラオペライズ」を前提にしている上、各部の制御に電子技術を用いていた。そのため、バツがまだ「姿を成して」いない現在、チネンしか動かせる者がいなかったのだ。
(とにかく、これで任務は完了しましたね)
続けて地上の様子をモニターする。
どうやら連れて来た3人は全員敗れてしまったようだが、回収は完了したらしい。
(さすがにリイです。こういう時には役に立ちますね)
密かに部下への賛辞を送り、
「では、お暇しましょうか」
ゼアは、その姿を闇の中に消した。
「シノさん、教官、任務完了しました。犠牲者ゼロです」
『応。一時はどうなるかと思ったぞ」
『お疲れっす。こっちからも何度か指示出したんすけど、聞こえてました?』
シノにそう言われ、蒼は頭を掻いた。
「あー……すんません、戦いに集中してて聞こえなかったです」
『そっすか。まあ、無事だったんだからいいっす』
『さあ、早く帰還してくれ。無事に帰るまで任務完了とは言えない』
獏也の忠告に「了解」と苦笑いしながら呟き、蒼は声を張る。
「さーて、本部に帰還するぞー!!」
「了解ー!」
返事が一斉に帰って来たが、その中に聞き覚えのある一つの声がない。
「あれ、シスイはどこに?」
言って見回すと、ハヤトが笑いながら親指で瓦礫の向こうを指している。
何かと思って行って見ると、
「……あらら………」
すっかり安心した表情で寄り添って眠りこけている、シスイとスザクの姿があった。
「どうします、蒼さん。起こします?」
ジミーの問いに、首を振る。
「いや、さすがにそれは可哀想だ。啓介、ゲンブ、送ってやってくれないか」
「わかりました……」
「……まったく、世話の焼ける」
苦笑しながら、二人がシスイ達を背負う。
それを見届け、一行は本部へ帰還すべく歩きだす。その道中で、錬太郎が言う。
「しかし、今回は大変だったなぁ」
「おお。まったく、二度とこんな戦いはゴメンだぜ」
ハヤトが肩をすくめて同調する。そこに、
「まあまあ、いいじゃないですか」
最後尾から空を見上げる、奈桜が言う。
「終わったんですから、ね」
視線の先には、今にも登ろうとしている太陽が、彼らを照らしていた。
| 作者 | 登場人物 |
| スゴロク | 闇野 光一、ハヤト、星神ムーン、森山修斗、錬太郎、ジル・ミナル、龍牙、ゼア、七谷 狂夜、藤岡奈桜、篠崎蒼、スキュアロウ・バルカンチ、都シスイ、紅蓮、アラタ、チネン、ユウム、ネイロ、シノ、七篠 獏也、火波 スザク、蒼崎 啓介、水波 ゲンブ、蒼井 聖 |