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歪みと共に、弱さを友に

汰狩から柔道部の勧誘を受けた。だけど、残念だがそれは出来ない。

「……せっかくだけど、僕にはやることがある。それは本来、他の何をおいても優先しなければならないんだ。だから、僕は入れない」
「そ、そうか……」

勧誘を断られた汰狩ががくっ、と項垂れる。相当見込んでくれていたらしいが、あいにく部活で時間を取られている余裕がない。まして大会となると、ますます「奴」を探すのに時間が割けなくなる。

「まあ、実戦訓練についてだったら少しは相談に乗れるから、時間が空いたら声かけてくれ」
「仕方ないか……そうするよ」

トキコについては伏せた。この学校であいつがホウオウグループだということを知っているのは、僕の他には、恐らくノルンとその相方、そして他にもいるだろうメンバー。
まさか、シスイと汰狩の前でそれを言う訳にもいかない。特にシスイが深刻だ。もしこの事実を知れば、完全に戦意が折れてしまう。現状、それは避けたい。なんとしても避けたい。

「そういうわけだ。じゃあ、これで」

言い切って、足早にその場を去る。汰狩の言う事は確かに正しかったが、シスイはともかく僕の場合、どこか特定の場所に縛られて動けなくなる、という事態が一番怖い。「奴」の動向や狙いがまるでわからないからだ。つまりそれは、何が起きるか、何をするかわからないという危機感に繋がる。
一刻も早く発見し、せめて何をしているのかくらいは明らかにしなければ。

言い訳になるが、「実戦に勝る訓練なし」だ。その点で言えば、僕は十分だ。それに、格闘術に関してなら、ゲンブ仕込みの腕前が在る。――――特殊能力の撃ち合いになる僕らの戦いで、どれだけ役立つかはさておいて。

「……だから、全てが終わったらまた行くよ」



「……というわけだ」

帰宅したあと、僕はゲンブに連絡を入れていた。念のためだ。

『なるほど。それで、ランカのために断わったのか』
「僕個人の事情も少しはあるけど。まあ、そう言う事かな」
『ふん、まあいい。それよりも』
「衝動か? トキコか?」

定番となった質問にうんざりしながら聞き返すと、変わらぬ調子で声が返って来た。

『両方だ。必要以上に入れ込んで、また再発させていないだろうな』
「大丈夫だ。……まあ、トキコに対しては抑える気はないぞ。いずれは敵だ」
『今は?』

相変わらず端的に弱点をついてくる。僕に仕込んだ格闘術もそうだが、短いセンテンスで言い逃れを許さない。多分、ゲンブが言い負かせないのはランカとののかくらいだろう。

「……ただのクラスメート、だ」

仏頂面でそう言うと、電話の向こうから即座に否定が返って来た。

『違うな。どんなに取り繕おうと、どんなに自分を欺こうが、結局は一つの答えに行きつく。スザク、はっきり言おう』

そして、ゲンブは僕に突きつける。


『お前は、トキコに対し親近感、そして恋情に近いものを抱いている』


「ッ!!」
『普段嫌ったり、邪険にしているのは、いわば同族嫌悪。お前は、それに気付かない振りをしているだけだ』
「……違う」

震える声で言うが、言葉にならない。

『一条寺 正人への思慕も、逃避に過ぎない。事実から目を逸らそうとして、トキコと真反対の相手を無理に意識した。それだけだろう』
「違う……」

拒絶が、拒否が、できない。

『命を取り合う約束を交わしたのは、そうすることによって繋がりを持とうとしたから。内容が殺し合いなのは、それによって「相手がより強く自分を意識する」からだ。まして、相手が相手だ。衝動をぶつける上では最適だろう』
「違う!!」

逃避を、拒絶を、ゲンブは許さない。容赦なく、僕に現実を突き付けて来る。

『違わない。お前は逃げている。衝動と向き合うことを拒否し、強い自分である「スザク」に逃げ込んでいる。それでは何も変えられない。それでは何も掴めない』
「う、うう……」
『……向き合え、綾音。弱い自分を殺すな。押し込めるな。それは、お前自身を追いつめることだ』

ゲンブの言葉は、僕を案じるがゆえだ。だからこそ、心に突き刺さる。

『強さを捨てろとは言わん。ただ、弱さを受け入れろ。そして、なぜ自分に殺意が根付いているのか、考えろ。その先に、光がある』
「…………」
『綾音、逃げるな。弱さを表に出す必要はない。それも自分だと、受け入れろ。区別をするな。自分で自分を区分けするな。それは何も生まない。自分を支える柱を、崩すだけだ』
「……………」

答えが出て来ず黙っていると、ゲンブは最後にこう言った。

『すぐには難しいだろうが、少しずつでも弱さを許容しろ。弱いということは、恥ずべきことでは決してないのだからな』
「…………わかった」
『いい答えだ。では、またいずれ』

それを最後に通話が切れた。しばらく携帯を見つめた後、パタン、と閉じる。そして、ベッドに転がって考える。

(……僕の弱さ、か)

確かに、言われてみれば逃げていたのかもしれない。正人を好きになるのとトキコと関わるの、どちらが先かと言えば後者だ。自分と似た空気を持つトキコを見ると、衝動に呑まれる弱い自分を見ているようで嫌な気分になった。だからこそ、それを忘れさせてくれる正人に惹かれた。

――――それが本当に恋と呼べるものだったのか、今はもう自信がない。

僕はただ、すがっていたのかもしれない。強い自分である「スザク」に拘るあまり、弱い自分である「綾音」を殺していた。だから、弱さを映さずに済む、都合のいい「鏡」を探していた。それに当てはまったのが、たまたま正人だったというだけ。

(滑稽な話だよ、な)

そして、トキコ。――――そうだな、認めよう。あいつは敵だ。そして、僕はあいつが好きだ。
だから、僕はあいつの命を欲した。いや、正確に言えば、トキコと命を奪いあうことを求めた。それによって、無意識に繋がりを持とうとした。
だけど、それに気づきたくなかった。自分が歪んでいることを、認めたくなかった。だから、僕はトキコに対して嫌悪を抱いた。あくまでも、上辺だけで。そして、それが全てだと思い込んで、割り切っていた。いや、割り切ったつもりでいた。

(………なんだ。全然ダメじゃないか)

認めてしまえば楽なものだ。火波 スザク。トキコに好意を抱き、ゆえに命を奪いあおうとしている。
端的に言って、それが今の僕の全てだ。逃げても、否定しても、しょうがない。
受け入れてやろう、それを。僕という人間はそれが本質だ。結局、あいつとはそういう形でしかわかりあえそうにないし。――――他に方法はないか、とどこかで願っているのも事実だし。

(まあ、何も変わらないけどな)

だからと言って、劇的に何か変わるわけでもない。認めただけで、僕は僕のままだ。人間関係も変わっていない。恋かどうかはともかく、正人は個人的に嫌いじゃないし。明日からも、多分いつも通りだ。衝動に呑まれないように、精々まで頑張るとしよう。
ただ、

(……ちょっとくらいは、優しくしてやってもいいかな)





「まったく、いくつになっても手間のかかる」

某所。スザクへの説教を終え、通話を切ったゲンブは、携帯を閉じないまま別の人物に通話を繋げた。
短縮でかけたその相手は、画面に「ALMA」と表示されていた。
幾度かのコールを経て、通話が繋がる。

『ゲンブさん? 何ですか、俺はこれから晩飯なんですけど』
「それは悪いな。だが、スザクについて聞こうと思ったんだが」
『なるほど、それでですか』

言われたアルマは、包み隠さず最近の様子を話した。それを聞き、ゲンブはふむ、と考える。

「鍵を握るのは、やはりシスイか。あるいは奴こそが、スザクを本当の意味で救えるのかもしれん」
『一理ありますね。向こうがどう思うかですが』
「そうだな。まあ、しばらくは静観といこう。この際だからスザクにはきっちり釘を刺しておいた、当分大丈夫だろう」
『わかりました。では、これで』

会話を打ち切るアルマに、ゲンブは伝える。

「……俺はまだ、やらねばならんことがある。スザクを頼むぞ、アルマ」




「ええ。わかっていますよ、ゲンブさん」

電話の向こうの上司に頷き、アルマは通話を切った。やれやれ、と体をほぐし、食事にしようとダイニングに向かう。と、今度は備え付けの電話が鳴った。
よくよく忙しい日だな、とアルマは受話器を取り、名乗る。


「はい、一条寺です。―――ああ、正輝? どうしたんだ、こんな時間に」



――――それぞれに、一歩を踏み出す。




余談。

「……よく考えたら女同士だよな? うわー、何してるんだ、僕」

頬を押さえるスザクであった。
 


 

作者 登場人物
スゴロク 火波 スザク汰狩省吾都シスイ水波 ゲンブ一条寺 正人


投下順
<汰狩省吾の勧誘。>← 81話~120話 →渉ノ章_タガリショウゴ編

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最終更新:2013年06月21日 22:01