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現れた主犯

「最後の感染者が倒された……これで後はキャリアーを見つけ出して倒すだけか」

 しかし、ここに来てキャリアーに関する情報が全く出てこない。その不自然さに、俺は疑問を浮かべずにはいられない。

 と、その時だった。突然、ポケットの中の携帯が振動し、着信を告げる。

「スザクからだ……」

 やって来たのはメール。『話がある、ストラウル跡地で待つ』とだけ、簡潔な内容が書かれていた。待ち受け画面に目をやると、時間は午後五

時を過ぎるところだ。

「こんな時間から……?」

 小さな疑問を浮かべつつも、俺は跡地へと急いだ。

 

 跡地に入ると、そこに白い髪の少女が立っているのが見えた。俺が「スザクー!」と彼女の名を呼ぶと、彼女はこちらに気付いて手を振った。

「ごめん、遅くなった!」
「遅くなった? 何を言ってるんだ、君が僕を呼んだのだろう?」
「え?」

 話を聞くと、スザクはどうやら俺が送ったメールでここに来た事になっているらしい……おかしい。俺はそんなメール、送った記憶はどこにもないぞ。

「このメール、スザクからだよね?」
「いや、僕はそんなメール送ってないぞ?」

 彼女は訝しげな表情で俺のケータイの画面に映る、自分の差出名で書かれたメールと睨めっこする。一体これは、どういう事だろうか。

「よぉ! シスイにスザクじゃねぇか」
「え?」

 背後からの声に振り返ると、そこにはハヤトとリオトがいた。

「二人とも、どうしてここに?」
「俺? 俺は光一の奴に話があるからって、メールでここに呼び出されたんだよ。ホラ」

 そう言って彼が見せてくれたメールの画面には、確かに差出人名「コーイチ」とある。

「リオトは?」
「え、俺? 俺は……」

 ここに来た理由を聞いただけなのに、何でそんなに言いよどむんだ? 別に変な事を聞いた覚えはないけど……

「あー、こいつ? ユウイに『話がある』ってメールが来て、それでここまで来たんだよ」
「な!? 何でお前にメール見せてないのに、そんな事分かるんだよ!?」
「およ? その反応は、もしかして図星でしたか?」
「ッ!!」

 ……あーはいはい。つまり、ユウイからのメールで「いよいよ告白か!?」と喜び勇んで来てみれば、ユウイはどこにもいませんでした、と……ご愁傷様です。

 でも正直、それが偽者からのメールで良かったと俺は心底思う。何せこのストラウル跡地では去年、シゲナガの恋人であるミキがビルの崩落に巻き込まれ、シゲナガ自身も怪我をするという事件があった。そんな曰くのある場所で想い人に呼び出されるというのは、何かありそうで恐ろしい。

「ん、なんだ? そいつらも呼んでいたのか、ハヤト」
「光一!? お前、どこにいたんだよ!?」

 振り返ると、光一の姿がそこにある。彼は先程のスザクのように、ハヤトの言葉に首をかしげていた。

「どこにいたって……俺はお前に呼び出されて、今ここに来たところだぞ?」
「んなアホな。俺を呼んだのは、むしろお前の方だろ?」
「はぁ? お前は何を言っているんだ?」
「????」

 ……これは一体、どういう状況なのだろうか?

 呼び出された筈が、その呼び出した人物は呼び出された人物に呼び出されたという矛盾……自分でも言ってて訳が分からなくなる。
まぁ、そこから導き出されるのは、一つしかない。

「俺達はどうやら、何者かによってここに呼び出されたようだな」
「何者かって、何者だよ?」
「そんな事、俺に聞かれたって分からないよ……」

 大体、メンバーに統一性が無い。俺、スザク、ハヤト、光一、リオト。このメンバーに共通性なんて――

 その時、頭上から誰かの拍手の音が聞こえてきた。一斉に俺達は顔を上げる。

 そこには三階建ての廃墟があり、拍手をした人物はその屋上から俺達を見下ろしていた。黒い衣服、おそらくスーツだろうか。その上から、白い白衣を羽織っている。銀色の髪をショートカットにしていて、目はケイイチさんの様な糸目。そしてあまり良い気分のしない、薄ら笑いを浮かべている。

「やぁやぁ、皆さん。どうやら全員御揃いになったようで」
「……誰だ、あんた?」
「ああ、申し訳ありません。私、元ホウオウグループ所属、生物兵器の開発研究主任を務めさせておりました、ジングウと申します」
「ジングウだと!?」

 建物の上にいる男がジングウと名乗ると、リオトが驚いたような声を上げた。思わずそちらを見ると、彼は信じられないものでも見るような目をしている。

「なんだ!? リオト、知っているのか?」
「っ……それは――」
「いけませんねぇ、リオト君。今私が自分で自己紹介をしているのですから、最後まで私に言わせて貰わないと」

 何だか、人を食ったような喋り方をする男だ。ジングウは話を続ける。

「私がいたのは六年前の事です。貴方達に分かり易く言わせれば、原子破壊砲によるグループの作戦が敢行されていた頃じゃないでしょうかね……まぁ、今はそんな事どうでもいいのです。その時私は、新型の生物兵器の実験をしていました。ですが、その生物兵器が突如暴走。不幸な事に、私はそれによって食い殺されてしまったのです」
「……あんた。自分でおかしな事を言ってるって事、気付いてるか?」

 ハヤトがすごく迷惑そうな表情を浮かべながら言う。
確かに、ハヤトの言う通りだ。その話の通りなら、このジングウと言う男がここにいるのはおかしい。

「いいえ、おかしくはないですよ……なぜなら私は、生まれ変わったのですから」
「生まれ変わった……だと?」

 まさか、ナイトメアアナボリズムの事か? そう思った俺だったが、

「はい……私は古い身体を捨てて、新しい身体を手に入れたのです」
「はぁ? 何を訳わかんない事を……」

 ハヤトにはその言葉の意味が分からなかったらしいが、俺には分かってしまった。

 脳裏に浮かぶのはこの地、ストラウル跡地に廃棄されていたホウオウグループ製のカプセル。それは、「外側」からではなく、「内側」から開いていた。
それが一体何なのか、シノさんは「ウイルスのキャリアー」であると考えていた。そして彼女はもう一つ、こう付け加えていた。

『どうにもアタシには、この事件に何かしらの意志の存在を感じずにはいられないんす』

 生物兵器に意思を与える事は出来ない。制御効率が落ち、扱いにくくなるからだ。だから俺は最初、シノさんの考えが飛躍しすぎだと思っていた。

 だけど、今なら分かる。シノさんは間違っていなかった。あのカプセルに入っていたのは、こいつだったんだ!

「お前が今までの事件の主犯か!?」
「ええ、その通りですよ、都シスイ。どうですかな? 私が差し向けた作品達は?」
「作品!? ふざけるな! あれはみんな、罪も無い人間にウイルスを打ち込んで怪物に仕立てたものだろうが!」
「ま、待てシスイ!? ウイルスって何の事だ!? 僕達は、そんな事一言も聞いてないぞ!?」

 スザクが困惑したように言う。見れば、ハヤト達も同じ様な顔をしている。それもその筈だ、これを知っているのは俺とアースセイバーの上層部だけなんだから。

「……余計な混乱を招くから今まで黙っていたんだけど、今まで俺達アースセイバーが倒して来たのはホウオウグループ製の生物兵器じゃない。実際は、「人間をやめさせるウイルス」に感染して怪物になってしまった人間達だったんだ」
「な……」
「そしてそのウイルスをバラ撒いていたのが、今俺達の前にいるこの男なんだ!」

 俺が睨みつけると、そんな俺の反応が面白いかのようにジングウの表情に笑みが浮かぶ。

「「人間をやめさせるウイルス」なんて、品の無い呼び方をしないで下さい。むしろ、あれは「人間を超えさせるウイルス」ですよ。意図的に進化を引き起こすのですからねぇ」
「進化? あれのどこが進化って言うんだ!? 知性を奪われ、ただ本能のままに行動する! あれじゃ、獣に退化しているだけじゃないか!」
「おやおや、どうやら君は進化と言うものが何であるか履き違えているようですね……進化とは即ち、生存能力の強化ですよ。その時その時の環境に適応し、自らを滅ぼそうとする存在に対抗する力を持つ。君だって、彼らの強さは身に染みている事でしょう? あれが元々、何の力も持たないただの人間だったのですから」
「ッ……」

 確かに、進化とはそう言うものだ。かつて大地を支配していた恐竜達が滅びたのは、環境の激変に適応出来なかったからだと言われている。俺達人類の祖先である哺乳類が生き延び、そして今日の世界を生み出した。進化とは言わば、「自らを殺そうとするものへの適応力」であると言える。

……だけど。あんなものが進化だなんて、俺には認められない!

「で? 俺達を呼び出して、あんたは一体何がしたいのさ?」

 俺の代わりに、ハヤトが問いかけた。するとジングウは「よくぞ聞いてくれました!」とばかりに、芝居がかった調子で手を叩いた。

「君達は、私の出したテストの合格者達です?」
「テストぉ? 俺は学校以外でテストを受けた覚えなんざねーぞ」
「何を言ってらっしゃる……君達は皆、私が出した三つのテストに合格して来た者達ではありませんか」

 三つのテスト。その言葉に、俺は爆発しそうな感情を何とか抑え込む。

「……三人のウイルス感染者の事か」
「ええ、その通りです。君達五人は、皆彼らを倒した者達です。私の出題したテストに見事合格した者、と言う事ですよ」
「皆? ちょっと待て、リオトは関係無いだろ」
「あー、光一な。実は此間の、本部には俺一人で片付けた事になってるんだけど、本当はリオトに手伝ってもらったんだよね……」

 申し訳なさそうにハヤトが言う。リオトを見ると、彼はもう観念したような表情を浮かべていた。

「リオト……まさか、お前……」
「そのまさかだよ。俺も能力者だ」

 ……それで、か。以前感じた不穏な気配は、そういう事だったんだな。

「お前も、スザクみたいにどこかに所属していない能力者だったのか」
「……そう言う事にしておいてくれ」

 リオトは俺に対して興味を失ったように、視線をジングウへと戻す。俺も奴の方へと向き直る。

「それで、俺達集めて何したいんだよ、あんたは?」
「簡単な事ですよ……君達には、生贄になっていただく」
「はぁ? 何言ってんだ、あんた?」
「言葉通りの意味ですよ。これは、私からホウオウグループへのデモンストレーションです。私はもう、あそこに用はありません。私は君達五人を倒し、新たな組織の誕生を宣言させていただく」
「ホウオウグループに反旗を翻すって事か!?」
「ご名答! 世界を統べるのはホウオウではなく私だ! 世界を合理化するなどという幻想に付き合うくらいなら、私は私の手でこの世界を手に入れる! 君達には、その糧になっていただきますよ!」

 ……ジングウが何かを言っているが、途中から俺にはその半分も耳には入っていなかった。

 下らない、下らな過ぎる……そんな事の為に、こいつは何人もの人間の命を犠牲にしたっていうのか!?

 気が付くと、俺は自分の歯が砕けるんじゃないかって位に歯を食いしばっていた。ギリギリと言う音が耳に届いたが、それがやけに遠くに聞こえる。

「シスイ」

 そんな感情が沸騰寸前だった。俺の肩を、スザクが叩いた。振り返ると、彼女は首を横に振る。

「ああいうものを真っ直ぐに見るな。奴は、ジングウは完全に狂っている……正気じゃないものを真っ直ぐ見れば、お前まで正気でいられなくなるぞ」
「スザク……」
「今、僕達がやるべき事はなんだ? もう、分かりきった事だろう?」
「……ああ」

 俺は頭を振って気持ちをリセットすると、頭上にいるジングウを見上げた。

「いい……それでこそだ! 無抵抗な者を倒したところで、生贄の価値など無いからなぁ!」

 ジングウの背中に、後光のような、翼のようなものが出現する。顔の表面にも、模様のようなものが浮かんでいるのが見えた。

「奴さん、仕掛けてくるようだぜ」

 ハヤトが両手に短剣を持ち、身構える。

「奴が俺達の日常を奪おうっていうのなら、容赦はしない。徹底的に叩き潰す!」

 リオトが彫刻刀を抜き、視線の先にジングウを見据える。

「やれやれ、昨日の今日だってのにな。俺達アースセイバーに休みは無いみたいだ」

 光一の両腕に、無数の光球が輝く。

「やろう、シスイ」

 スザクが幻龍剣を顕現し、決意に満ちた声で俺を促す。

「――ああ!」

 能力禁止の命令を守っている場合じゃない。躊躇無く俺は、全身を金色のオーラで包み込んだ。体中に力が溢れ、見る見る傷が塞がっていくのが分かる。

「滅ぶがいい、五人の英霊よ! 私が絶対者である事の証明となるがいい!」

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 ジングウがこちらに向かって飛び降りてくるのを合図に、俺達は一斉に飛び出していた。

 ――to be continued
 


 

作者 登場人物
akiyakan 都シスイ火波 スザクハヤト高嶺 利央兎闇野 光一ジングウ


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最終更新:2013年06月21日 22:16