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嵐の後に、見える景色は

 アースセイバーの談話室。そこに、シノと獏也の姿があった。

「一先ず事件が収束して良かったっす~」
「だけど、お前が作った特効薬無駄になっちまったな」
「いっすよ、それ位。また何時か、必要になる日が来るかもしれないじゃないすか」
「まぁな」

 そう言って、獏也はコーヒーを啜る。その表情は穏やかだ。

「どうしたんすか、バクさん?」
「ん? いや、これででかいヤマが一つ無くなって、ガキ共を危険な目に合わせる心配が無くなったな、って思ってさ」
「そりゃそうっすけど、表に出ないだけでいかせのごれで起きる超常現象はキリがないっす。これじゃ、何時か人手が足りない日が来るかもしれないっすね」
「ふむ……」

 そこが、アースセイバーの少人数精鋭による対応の欠点だと獏也は思っていた。有能な能力者に、あまりにも多くの仕事を任せ過ぎている。おそらくは、これまでケイイチが仲間達だけでホウオウグループを倒して来たその体質が、組織設立からも抜け切っていないのだ。
またそれだけでなく、政府に対する対応として隊編成が出来ないという問題点もある。どんな能力を持っているにしても、能力者であるだけで国家にとっては脅威の存在なのだ。その能力者が数人と群れを成す事態になれば、その脅威の度合いはより多くなる。その為、獏也の考えとしてはせめて小隊だけでも組ませたいところなのだが、それさえ叶わず一人、二人で対応させざるえない状況なのだ。

「ガキ共には、これからも苦労をかけるな……」
「だけど、あの子達の多くは強要させられているんじゃなくて、自分達の意志で力を貸してくれているっす……まぁ、一部はそうじゃないんすけど……」

 彼らは、自分が能力者であるからと言って他と自分、能力者と非能力者を分けたりはしない。みんなただ、自分達の日常を守りたいから。或いは、自分の力が他人の為になるからと力を貸してくれている。

 獏也は思う。彼らのような若者がいる限り、まだ世界は明るいと。

 

「ここにいたのか」

 屋上で何となしに外の景色を眺めていたら、後ろからスザクに呼ばれた。振り返ると、何時も通りの彼女がそこにいる。

「元気が無いけど、何かあったのか?」
「いや、別に……」

 口ではそう言うけど、俺自身、実際は傷心している事に気付いていた。
つい昨日の事。俺達は、元ホウオウグループの男、ジングウを倒した。その時は、勝利に対する高揚感で俺の心は満ちていた。
でも、一晩経ってからはどうしようもない空虚さが心の中にあった。その原因は、俺が初めて「本物の悪人」と出会ったからだろう。

「なぁ、スザク」
「ん?」
「君は、ホウオウグループが悪だと思うか?」
「はぁ? 君は突然何を聞くんだ、そんな事分かりきっているだろう」

 そうスザクは、当たり前の事のようにホウオウグループが悪であると言う。確かに奴らは、目的の為なら手段を選ばないところがあるし、スザク自身も奴らの被害者であると言えるから、そう言っても仕方が無いだろう。
だけど、その延長線上には「他人の幸せ」が確かに存在する。ホウオウ「だけ」が幸福になる世界なら、ホウオウグループには誰もついていったりしないだろう。彼らは皆、ホウオウが与える幸福が自分にとっても幸福になるものだと信じているから、ホウオウに協力しているんだ。目的の為なら手段を選ばない姿勢も、ある意味それだけ彼らの意志が強固だからとも言える。

 だから、俺の中ではホウオウは決して「悪」なんだと完全に言い切れる存在ではなかった。俺達を「正義」とするならば、彼らは「もう一つの正義」みたいなものだったんだ。

 だから、昨日出会ったジングウと言うあの男は、俺にとって初めての「本物の悪人」だった。

 奴は、自分の事しか考えていなかった。世界は自分だけのものであるのだと当然の事のように思い、命をそこら辺にある小石となんら区別する事無く扱っていた。

 奴は「完全な悪」だった。だから俺も、躊躇無く拳を振るう事が出来た。それを倒した後に、心から勝利を感じ取る事が出来た。

 だけど一晩経ってから、俺はどうしようもなく虚しさを覚えていた。

「……俺は昨日、本物の悪を見た」
「ん?」
「己のみを考え、他を何とも思わない、ホウオウにも勝る本物の悪……俺は今まで、本当に悪い奴なんかこの世にいないと思ってた……」
「…………」
「だけどそれも、正義の味方と同じで幻想だった。そんな都合の良い世界は、この世には無かったんだ。この世界は、〝ああ言うもの〟も生み出してしまうんだ……」

 俺はまだ、「夢を見る子供」のままだった。世の中には悪人がいっぱいいるけど、でも根っこから全部悪い奴なんて本当はいなくて、世界はとても綺麗なものだと思っていた、思い込んでいた。
でも実際は違っていた。正義の味方と同じで、そんな都合の良い世界は無かった。世界は決して綺麗なものではなくて、時にはジングウのような悪人を生み出してしまうんだ。

「……シスイ、そう悲観するなって」

 ポン、とスザクが俺の肩に手を置いた。

「世界は確かに綺麗なものじゃない。でも、だからと言って汚いわけでもない。世界の綺麗な部分を受け入れるのはいい。けれども、世界の汚い部分から目を背けちゃいけない。両方受け入れた者だけが、本当の意味でこの世界を語る権利を持てるんだ」
「スザク……うん、そうだな」

 スザクの言うとおりだ。世界の汚い部分が見えたからと言って、世界が突然汚くなったわけじゃない。今まで綺麗なものだけしか見た事がなくて、たまたま汚い部分を目にする機会が与えられたに過ぎない。二つを受け入れる器量無しに、この世界を語る権利は無い。

「……ありがとう、スザク」
「別に。僕は大した事をしてないよ」

 そうスザクは、何でもないように言う。でも、それはスザクが強いからだと俺は思う。

(……何時まで経っても敵わないな)

 出会った時からそうだった。火波スザクと言うこの少女はとても強い。その強さに、いつも俺は助けられる。

 強くなろう。その為には、この世界を今よりもっと愛さないと。綺麗な部分も、汚い部分も、丸ごと全部。

「よっし!」

 自分に活を入れるべく、声を上げた。何だか世界が、今までよりも違って見える気がした。
 


 

作者 登場人物
akiyakan 都シスイシノ七篠 獏也火波 スザク


投下順
 閉店間近のレストラン(仮)← 81話~120話 →ガールズ(ボーイ一名)トーク

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最終更新:2013年06月21日 22:36