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スザクの一日(仮)

「うわ――――っ!! 遅刻だ遅刻~ッ!!」

大騒ぎしながら走る僕、火波 スザク。
って、落ちついている場合じゃなーい!! 何で目が覚めたら8時なんだよ!?

たたでさえ留年したということで覚えが良くないのに、この上遅刻するわけにはいかない。
自転車もかくやという速度で走る、走る、走る。
学校に着くや否や玄関に飛び込み、靴を素早く履き替えて階段を駆け上がる。
現在時刻、AM8:28。

「間に合った――――ッ!!」

がらりとドアを開けて教室に飛び込むと、教室内の目が一斉にこちらを向いた。若干怯みつつも、席について鞄を置く。

「はーっ、はーっ、危なかった……」
「珍しいな~、鳥さん。ギリギリだ」

どこかのんびりと、前の席から真二が言う。肩で息をしている僕とはえらい差だ。

「いや、それが、起きたら、朝、8時、で……」
「えぇ~ッ? 何でまた」
「僕が、聞きたい、くらいだ……」
「……まあ、そうだよね~」

ようやく息が落ちついて来た。最後にふーっ、と大きく息をして、椅子に深く腰掛ける。

「とにかく、みんなおはよう」
「ん~、おはよう」
「おはよう、火波さん」

クラスメイト達と挨拶している内に、ホームルームの時間が来た。担任の先生が入って来て、出席を取る。
一日の連絡、次の授業などの伝達事項が終わり、5分休憩だ。
隣の席のネイロに話しかける。

「おはよう、ネイロ」
「うん、おはよう。どうしたの、急に」
「ん、何となくだよ。ちょっと話がしたくなって」

フリル付きの改造制服を着たネイロは、とにかく目立つ。いや、白い髪の僕も相当だけど。
ジト目で無表情と言う外見、1人でいたがる行動律から冷たい性格と思われがちだが、そんなことはまったくない。ちょっとマイペースで、音楽が好きなだけの普通の女の子だ。

「ネイロは、将来どうするんだ?」
「音楽の道に進もうと思ってるの。だから、ここを出たら音大に行くつもり」
「そっか……」
「……スザクは、そういうこと考えてないの?」

言われてちょっと考えた。僕の目下の目的は「異能殺し」――――ランカの父親探しだ。だけど、それが終わった後はどうしよう。
順当に考えればアースセイバーに行くべきなんだろうけど、気が進まない。今までが今までだし。
どうしようかな、と考えていると、ネイロが言った。

「考えつかないなら、トキコに相談してみれば?」
「え?」

固まった。トキコに相談? 何で? 確かにあいつのことは好きだけど、立場的に考えれば敵だ。
そんな内心の「?」には気付かず、ネイロはいう。

「いつだったか、トキコが言ったんだ」


『もしもどこにも進められなかったら、私のとこ来てね』
『トキコ、そういうところ知ってるの?』
『うんっ、思い当たりあるからさ~』


「……って」

今度は青褪めた。――――それって十中八九、ホウオウグループのことじゃないか!?
さすがに甘く見ていた。遠回しではあるが、布石はきっちり打っていたということか。

「い、いや、せっかくだけど自力でなんとかするよ」
「そう? まあ、自分の道だからね」
「そうそう、そういうこと。……あとさ、ネイロ」
「ん?」

小首を傾げる友達に向かって、僕は力強く言う。

「その夢、絶対に叶えるべきだ。ネイロなら出来る、必ず出来る!」
「そ、そうかな」
「そうさ、必ず出来る。諦めなければ絶対に叶うんだ、僕は知ってる」
「……ありがとう、スザク」

ちょっと照れたように、ネイロはそう言った。



一時間目は数学だった。

「……つまり、この公式にここの値を代入することによって……」

教師の声がチョークのカッ、カッという音を混ぜて響く。
さすがに一時間目とあって、居眠りをするような奴はいない。

真剣かそうでないかという違いはあるが、みな一様に授業を聞いている。かく言う僕はというと、とにかくノートを取ることに集中していた。
この教師は生徒を指名して解かせるということがなく、説明と板書だけで50分を使う。そのため、とかく退屈だ。

「ん~……」

公式だけ覚えてしまえば楽だ、と教師は言うが、実際にはそんなことは全然ない。応用力がなければ無駄に終わる。
典型例が隣のネイロだ。数学が苦手な彼女は、公式を当てはめるまではいいのだがその後が続かない。いわゆる「応用問題」が苦手なのだ。

「あぅぅ……」

必死で考えているのが目に見えてわかるが、声をかけるわけにもいかず静観する。教室が静かだと、何となく喋るのをためらうのは集団心理というやつだろうか。
数学が苦手なのは、他にもいる。

「……………………」

さっきから完全に固まっている紀一だ。あの様子では妄想に逃げ込んでいるのだろう。目があらぬ方向を泳いでいる。
さらには、

「むぅ……」

ユウイもそうだ。ただ彼女の場合、数字自体見るのも嫌なレベルらしい。一体何があったのだろうか。裏情報ではアナボライザーらしいが、何の悪夢だろう。
まあ、考えた所でわかるはずもないし、今は関係ない。ため息をつき、僕はノートに戻る。

結局、この時間は一同を退屈させただけで終わった。




二時間目、現代文。

今度は、前の時間で放心していた面子が復活している。
中でもさっきから凄いのが瑠璃だ。

「―――この場合、『情報は整理するな』という言葉の意図として、次のように考えられ――――」

元来読書好きの彼女、水野 瑠璃は、古文・現文・英語で真価を発揮する。中でも現代文が得意で、その実力は見ての通りだ。
「情報は整理するな」という言葉についての考察なのだが、前後の一文から筆者の意図をほぼ読みとってしまっている。

「――――ということです」

たっぷり20分近くの発表を終え、ようやく席に座った。相変わらず読解力が凄い。その理解力、少しシノさんにわけてあげてくれないものか。




三・四時間目は二時間続けて体育だった。今日の種目は男女別、2チームに分かれての野球。
思い切り動けるとあって、特に男子チームの気合いの入りが半端ではない。

「よぉぉ―――っし、やるぜーっ!!」
「おおう!!」

ハヤトの気合の入った叫びに、男子一同の応えが重なる。大した士気だ。
一方、僕ら女子チームはというと、

「走るの嫌いー。遅いもん」
「投げて、打って、走る……あえてバットを投げるとか……」
「ちょ、セナ! 不穏な言動ヤメテ!」

このありさまだ。男子はよくも悪くもまとまっているが、僕達は癖がありすぎる。
果たして勝てるだろうか……。
3回ウラ、男子チームの攻撃。
向こうは攻守ともによく連携が取れていたが、こちらも何とか喰いついていた。浩美やののか、由衣が頑張ってくれたおかげで、どうにか0対0で推移していた。
しかし、3回の表で満塁のチャンスを迎えるも、2回で登板したリオトのピッチングが奮い、そこで攻撃が終わってしまった。
現在カウント、ノーアウト・ランナー2・3塁。

(このままだとまずいな……)

外野手の僕からは、フィールドの様子が一望できた。2塁ランナーにはシスイがいる。あいつは逃げ足が速い……つまり足が速い。もし、バッターのノルンがバントでも何でも当ててくれば、即座に2塁に到達してしまうだろう。
ピッチャーはセナ。ただ、普通と違う遊び方を好む彼女の悪癖はここでも発揮されており、球速は速いのに打たれたり、盗塁されたりしている。
このピンチでどう動くか……。

「……っ!」

短く息を吸い、セナが振りかぶり――――投げた!
ボールは……一直線にキャッチャーミットに向かっている。どうやらやってくれたらしい。

「むうっ!」

ノルンがバットをスイングしたが、当たる事はなく空振り。が、

「あっ!」

ユウイが零した。途端、ノルンが一塁目掛けて走る――――振り逃げ!!

「三塁に投げて、都君が来る!!」
「回れ回れ回れーっ!! 都、回れーっ!!」

男子の声援に混じってコロネが叫び、それに従って、ユウイが全力で三塁に投げる。一塁のノルンはこの際仕方がない、次で何とかしよう。

「アウト!」
「セーフ!」

『へ?』

二つのコールが同時に響いた。三塁を見ると、シスイは三塁ベースを踏む直前に由衣にタッチされている。では、セーフとなったのは何?

「……あっ!?」

女子全員の視線がホームベースに集中する。―――笙汰が滑り込んでいた。
しまった、気付かなかった。三塁にはあいつがいたんだった。しかも笙は野球が大得意で部活にも入っている。だというのに、何で今までシスイばかり警戒していたのか。

「よっしゃー、間に合った―!!」

待機しているチームメイトの所に戻って快哉を上げている。持ち前の影の薄さが、まさかこんなところで役立つとは本人も思わなかっただろう。

「な、なんてことだ……」

二重の意味で、僕は呆然としていた。



9回の裏、浩美の奮戦で何とか1対2に持ち込んだ。
しかし、9回表、この女子チームの攻撃で追加点を取れなければ自動的に敗北が決定する。逆に男子チームは、この回を守り切れば勝利は確定する。それだけに、目の輝きもモチベーションも、こちらとは比べ物にならない。中でも笙とハヤト、正輝はまさに燃えていた。
勝利を目前にした男子チームの士気は高く、こちらで二度あった追加点のチャンスは悉く潰された。シスイの俊足と笙のボール捌き、8回から登板したハヤトのピッチングが強すぎる。
何とか一塁にスイネが出たものの、焼け石に水だ。
そして、次のバッターはトキコ。

「まずい……負ける……」

ツーアウトランナー一塁。最悪の展開だ。だというのに、バットを持って打席に向かうトキコの顔は、場違いに明るかった。思わず声をかける。

「トキコ、大丈夫なのか?」
「大丈夫、大丈夫。いいから鳥さんは見てなさいって」

軽くそう言って、打席に入るトキコ。

「さー、来なさーい」

構えがどこか危なっかしい。本当に大丈夫か? そもそも、ハヤトの投球はスピードが尋常ではない。少なくとも、高校生の投げるレベルではない。
さっき打席に立った僕もほとんど反応できなかったから、本当に容赦がない。
そもそも、あんな構えでは打てるものも打てな


キィン、


と、快音が響いた。

「……え、っ?」

口からこぼれたのはそんな声だった。一瞬何が起きたか理解できず、トキコに視線が映る。バットを振り切った姿勢から戻る、彼女の姿。
視線を追うと、運動場の外へ消えて行く白い点が見えた。

「――――場、外、ホームラン……?」

思わず口にしてから気付いた。――――ホームランだって!?
男子チームが防戦とする中、悠々とスイネの背を押し(追い越すとアウトになってしまうのだ)、トキコがホームベースに戻って来る。
二人がこっちに戻ってきて、トキコがVサインをしてから、ようやく、

「……や、やった―――――ッ!!」

歓声が爆発した。現在―――3対2。


結局、トキコのホームランによる予期せぬ大逆転で男子チームは浮足立ち、最後の攻撃は無得点に終わった。



昼休憩。

さすがに予算が厳しかったので、今日は弁当だ。
今日は天気がいい。屋上で顔を合わせるのは、ののか、コロネ、ユウイ、凪、そしてトキコだ。

「……(ぱくっ)」

卵焼きをひとつ。今日はちょっと趣向を凝らして、幕の内を意識して見た。

「鳥さーん、ひとつちょーだい」
「これ? しょうがないな」

トキコがあーん、と口を開けていたので、卵焼きをひとつ放りこんでやった。

「あま~い」
「あれ? ……うわっ、普通のだった! とほほ、楽しみにしてたのに……」

出し巻き卵の方が残ってしまった。何と言うイージーミス。
気を取り直して箸を進めていると、

「しゅざくっちー、あげるー」
「ん?」

ののかが自分の卵焼きをくれた。でも、本当にいいのか?

「だって、楽しみだったんでしょ」
「……ありがとう、ののか。もらうよ」
「鳥さーん、私もあげる」

今度はコロネがウインナーをくれた。ありがとう、と口に運ぶ。が、

「?」

妙な感触だった。やけに歯ごたえが……って、おい。

「……(もぐもぐ)」
「あれ? スザク、どうしたの?」
「……コレ、タコだ。ウインナーの形に切ったタコの足だ」
『えぇっ?』

ユウイとののかの声が重なる。実際僕も驚いた。なんだ、こりゃ。

「いやー、ちょっとはサプライズが欲しくて」
「サプライズって……あのな」

ちょっと呆れる僕達をよそに、トキコはトキコで凪と盛り上がって(?)いた。

「…って先日言われたんだが、気持ち悪いったらなかったな。誰がやるかっての」
「言ってくれれば潰しに行ってあげたのにー。全然関係ないけど、凪っち色白いよね。雪みたい」

何やらトキコが物騒な事を言ったのが聞こえたが、これもいつものことだ。

「つ、潰……? 雪といえば、最近スキーとかスノボしてないなぁ」
「そんなのできたの!? すごい! カッコいい!」
「や、そんなに賞賛されるほど上手くはないのだよ…」

俯く凪だが、声に覇気がない。これは……。

「凪っち、顔がピンク色だよ」
「!!」 

案の定だった。



5時間目は音楽だった。

「今日は音楽鑑賞か……」

正直助かった。僕は歌はそこそこだが、楽器が壊滅なのだ。だから、とにかく音楽の成績は悪い。
今日流れているのは、とある音楽家の軌跡だった。出生から続くエピソードの数々、そして曲。
―――正直、半分も共感出来ないのは僕が日常から乖離しているからか?

「感想を書けって言われても……」

困る。さっぱり浮かんでこない。ほとんど聞き流してたし。
逆にネイロはすらすらと書いている。さすが音楽好き、気の入れ方が半端じゃない。なんか、長すぎるような気もするが。
結局、僕はありきたりなことしか書けなかった。


6時間目、最後の授業は歴史。
といっても今日はテストなので、板書をとったりはしない。全員黙々と、問題を解いていく。

(問6……古代中国において、瑞兆とされていた想像上の動物を三つ述べよ。これは……)

考えるまでもなく答えは出ていた。が、ちょっと皮肉だ。

(王の象徴とされた「龍」。命と大地の守護神と言われた「麒麟」。名君の到来を告げる「鳳凰」。…………)

微妙な気分になりつつ、次の問題に目を通す。

(……問7。208年に発生した、現在の湖北省における戦いは何か)

どこかで聞いたような名前だった気がする。えーと、確か……?

(……………………ああ、思い出した。「赤壁の戦い」だ)


50分の間用紙と格闘し続けて、目が痛くなった。そういえば瞬き忘れてた。



放課後。

今日は何か用事があるとかで、トキコは先に帰ってしまった。ちょっと残念。
シスイからも事件の話は聞かないし、他に何か用があるわけでもない。
平々凡々とした一日だったが、こういう日々が続くのはありがたい。それが砂上の楼閣に過ぎないと言うのならば、それが波を被らないように頑張って見るとしよう。

というわけで、今日はまっすぐ家に帰る。



「あー、疲れた」

弁当箱を洗って干した後、自室に入るなり鞄を投げ捨て、ベッドに転がる。朝の猛ダッシュと昼の野球が効いた。
今になってあちこちが重い。

「お風呂はまだ湧いてないしな……どうするかな」

早めにさっぱりしたかった所だが、仕方がない。ゆっくり考えるとしよう。



――――やけに暗い。ここはどこ?
思って目を開けると、部屋の中が真っ暗だった。

「………」

はっきりしない頭で考える。えーっと、さっきまで僕は何をしてた…………?

―――あ!!

「うわ、しまったっ!? 今何時!?」

気づいて跳び起き、手探りで携帯を探して開く。

「PM11:24……!? ぎゃーっ、寝てしまった!!」

しまった、うっかり寝こんでしまった。慌てて電気をつけ、浴室へ向かう。
沸かしっぱなしだった風呂はというと、

「あちゃー……」

完全に湯がなくなっていた。蒸発してしまったらしい。仕方なくもう一回溜め直して、沸かすことにした。あーあ、せっかくゆっくりしようと思ったのに……。

結局、入浴はそれから2時間ほどしてからだった。今日は外で動きまわったので、全身念入りに洗っておく。

「ありゃ」

気付くとシャンプーがもうなかった。仕方がない、明日にでも買い足しておこう。髪の手入れにやたら使うからなー……。

見たい番組は全部終わってしまったし、食欲はさっぱりなくなったし、今日はもうすることがない。
明日のお弁当の準備だけして、寝るとしよう。

「メニューは今日と同じで良いか……」

手早く用意したあと、包んで紐でくくる。気付けば既に2時を回っている。

「……さすがにもう寝るか」

パジャマに着替えて、再びベッドへ。もう、なんかグダグダだ。




翌朝。

「うわーっ、また遅刻だーっ!!」


―――――こんな毎日。それが火波 スザクのいつも。




余談、その頃トキコは。

「む……」
「あ、おはよー亀さん」
「誰が亀だッ!! 俺はゲンブだ!!」
「もっしもし亀よ~、亀さんよ~」
「だから歌うなっ!?」
 


 

作者 登場人物
スゴロク 火波 スザク貝塚真二ネイロ瀧登紀一榛名 有依水野瑠璃ハヤトセナ景山 浩美緑音ののか夏香 由衣都シスイノルンコロネ笙汰トキコスイネ水波 ゲンブ


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最終更新:2013年06月21日 22:52