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ノーマルデイ -日常2-

「ん~、んー!」

 俺、都シスイの朝は、目覚まし時計の音で始まる。
時計を見ると、六時半。うん、何時も通り。

「さて、と!」

 ベッドから飛び起き、洗面所へ向かってまず洗顔。冷水を顔面にぶっ掛けて、これで眠気を身体から追い出す。

 眠気が身体からいなくなったら、今度は朝食と昼飯の弁当を同時並行で作る。必然的に朝飯も昼飯も同じようなメニューになるけど、まぁ一人暮らしの学生の生活なんて、大体こんなものだろう。

 弁当を作り終え、朝飯が済むと時間はいい頃合だ。歯磨き、洗顔。制服に着替えて登校準備。

「おっと……」

 ちょっと時間がまずくなってきたので焦ったら、危うく忘れるところだった。

 部屋の奥にある仏壇。その前に行くと、俺はリン(お椀状の鳴らし物)を叩き、静かに手を合わせる。顔を上げると、そこには老夫婦の遺影が飾ってある。二人とも、満面の笑みだ。

「行ってきます……爺や、婆や……」

 これは毎日欠かせない。爺やと婆やが死んだその日から続けている事だ。

 部屋を出て戸締りを確認。階段を駆け下りて一階へ。
そこにある、アパート共用の駐輪場。自転車やスクーターに混じって、一台のバイクが停めてある。俺はヘルメットを被りながらそれに跨り、イグニッションキーを差し込む。ドルルルル、という小気味の良いエンジン音と、振動が身体に伝わってくる。

「さぁて……今日も勉強と行きますか!」

 誰に言うでもなくそう口にすると、俺はバイクを学校へと向かわせた。

 

 俺のクラスは二組。ケイイチさんは隣の一組だ。

 曲者揃いの一組とは異なり、二組は平凡そのもの。時々隣から聞こえる怒号に笑いさえ起きる程だ。日常を絵に描いたようなクラスだと思えば、分かりやすいんじゃないだろうか。

 ――ただ、そう思っていたのはどうやら俺だけで、実際はこのクラスにも非日常が転がっていたらしい。

 俺は視線を、リオトの方へと向ける。

 此間のジングウとの戦いで発覚した事だけど、あいつもどうやら超能力者であるらしい。能力は自分の血液を自在にコントロールする事……なるほど、道理で今まであいつから血生臭い感じがしたわけだ。自分を傷付けて能力を発揮するんだもの。

 でも、此間の一件で確かにリオトが能力者である事に驚きはしたけれども、同時にそのおかげで安心した。

 あいつは俺達を助けてくれた。アースセイバーに所属する俺達やはぐれ能力者と戦っているスザクはともかく、巻き込まれただけなんだから逃げれば良かった。それなのにあいつは、俺達を助けてくれた。だからこれは、俺の直感や願望に過ぎないのかもしれないけど、リオトは敵じゃないって思えた。 ……若干、動きがプロっぽかった気がしないでもないが。

 そう言えば、まだあの時のお礼をしっかり言えてなかったな。丁度今自習だし、思い出した時に言っておくか。

「リオト、この前はありがとな」
「ん? ……ああ、別に」

 談笑しているリオト達の傍へ行くと、彼はヒラヒラと何でも無かったように返した。クールなリオトらしい反応だ。

「何なに? シー君、なんかしてもらったの?」
「ん? まぁ、ね」
「ふーん。珍しいね、リオ君がシー君手伝うなんて」
「む。そりゃ、どう言う意味だよ」
「だってリオ君とシー君って、そんなに特別仲が良いわけじゃないじゃない? それなのに、リオ君がシー君手伝うなんて……」
「ああ、いや、それは俺が一方的にリオトの事苦手に思っていただけで……」

 よもや、「血生臭いから好きになれなかった」とは言えない。俺が返答に詰まって困っていると……

「ちょっと、そこ! 自習中なんだから静かに課題をやりなさい!」

 ナイス委員長! おかげで俺への質問がうやむやになった! これぞ好機とばかりに自分の机につくと、俺はもう一度リオトの方を見た。すると、向こうも俺の方を見て、何やら呆れたようにため息をついている。その様子がまるで、「まだまだだな」と言っているように俺には見えた。

 いやはや、まったくその通りだぜ。

 

 昼休み。

 俺は雨や雪の日以外は、基本的に屋上に出て食べるタイプだ。どこまでも続く青天井を頭上に頂きながらの昼食ってのは気分が良い。

「――あむっ」

 ……ただ、そろそろ場所を選んだ方がいいのかもしれない。

「……トキコさん」
「なーに、一角君?」
「今お食べてなられたミートボール、私のだと思うのですが、どうでしょうかね」
「うーん、今更返せって言われても、返せないよー?」
「いや、誰も返せとは一言も言ってない」
「それとも、今私の胃袋に入った未消化状態のミートボールを、口移しで返せと? うわ、一角君エログロ!」
「汚ねぇよ!? 誰も望まないよ、そんな展開!?」

 ……これである。昼食ハンター、トキコさんが出るのだ。

 いつぞや俺のたこさんウインナーを強奪して以来、俺の事を良いカモだと思ったらしい。不定期で出現しては、俺の弁当を一、二品掻っ攫っていく。 ……まぁ、最近はそれを見越して、少々多めに持ってきているのだけど……きっとトキコが前に俺の事「駄目な奴」って言ったのは、こういうところからなんだろうなぁ……

「……って、人が目を離した隙にエビフライまで……」

 小さなエビフライ、ポップコーンシュリンプが一尾いなくなっている。俺は隣でさもうまそうに租借している少女に恨めしげな視線を送るが、あっちは俺の事などガン無視だった。

「ん~、おいしー。一角君、男の子なのにお料理上手だね」
「そうか? まぁ、婆やが料理作るの手伝ってたから、自然とそういうの覚えたんだ。後は趣味かな」
「趣味?」
「そ。料理のレシピ本って、本屋に売ってるだろ? あれを買って来て、一ページ目から一つ一つ習得していくんだ。で、全レシピを達成した時の快感と来たら……」
「なにそれ、こわい。男の子なのに、そう言う楽しみしかないの?」
「……すいませんでした……っておま!? 人が話している隙に、何に肉巻きまで食ってやがる!?」
「しーはーしーはー。実に美味であった」
「うぉのれ……」
「…………」
「で、スザク。君は何でそんなに物欲しそうな目で俺の弁当箱を見つめているんだ?」
「……シスイ」
「ん」
「トキコばっか……ずるい」
「俺だって、好きであげてるわけじゃねーよ!!」

 そう言う俺だったが、この物欲しそうな眼差しに負け、結局スザクに唐揚げを一つ恵んでしまった。

 ……やっぱ俺って、駄目な奴かも。

 

「ふぅ……」

 放課後。普通だったら部活なり、友達と遊ぶなりするのが、健全な学生と言うもの。

 けれども、俺はそうじゃない。俺には仕事がある。

 此間のような事は滅多に起きないが、そうでなくてもいかせのごれでは超常現象が日常茶飯事だ。情報操作で表に出てこないだけで、局地的・小規模の事件はあっちこっちで起きている。

 小規模とは言っても超常現象。それが超常現象である以上、アースセイバーが出ないわけにはいかない。俺はバイクに跨った。

「おおーい、シスイー!」
「ん?」

 呼びかけに反応して顔を上げると、そこにいたのはいつか見た顔ぶれだった。

「みんな……」
「シスイ君、この前カラオケいけなかったでしょ? 今日またカラオケしにいくんだけど、良かったらどうー?」
「あ、えっと……俺は……」

 魅力的な申し出だけど、俺には仕事がある。この前ほど大掛かりではないと言え、それを無視してみんなと遊ぶわけには……

 その時、ポケットの中の携帯電話が振動した。俺はそれを取って確認する。

(ハヤト……?)

 メールはハヤトからだった。顔を上げると、一団の中にはあいつもいる。わざわざ、この距離でメールを送ってきたらしい。

(えっと……『ジングウの時戦った俺らはしばらく休み。バクのおっさんに感謝しとけよ』……か)

 ……ありがたい、本当に。

「どうするのー?」
「行く! 俺も行くよー!」

 コロネの声に返事をして、俺はバイクから飛び降りた。何だかこれを逃すと幸せまで逃げちゃう気がして、思わず駆け足になる。

 

 俺はアースセイバー所属調査員、都シスイ。

 だけど、オツユウ学園いかせのごれ高校二年二組、都シスイでもある。

 たまには、こんな日があっても良い。出来れば、毎日続いてくれたら良いと、俺は心から思った。
 


 

作者 登場人物
akiyakan 都シスイ高嶺 利央兎トキコ火波 スザクハヤトコロネ


投下順
バカなの?本気なの?← 81話~120話 →残り火で、二人

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最終更新:2013年06月21日 23:22