リバース・オブ・ジングウ
――いかせのごれ某所。
人里から遠く離れたこの場所には、ストラウル跡地とは別に、ホウオウグループの支部とも呼べる小規模の施設が隠されている。
そこに、ある男が姿を現していた。
「何者だ?」
無数の擬人兵兵器、モタドラッドを従えながら、ゼアが施設から姿を現す。
やって来た男は、全身に包帯を巻いていた。まるでその姿はミイラ男であり、肌が見えているのは右目と口元だけだ。男はゼアの姿を見ると、ニヤリと笑った。
「久し振りですね、ゼア。随分大きくなったものです」
「お前は……ジングウ、か!?」
反射的にゼアは幻龍剣を抜き構える。彼に反応し、周りにいたモタドラッドも自分の腕を一斉にジングウへと向ける。
「おおっと!? 久し振りの再会だと言うのに、随分と手荒な歓迎ですね」
ジングウは両手を挙げ、自らに抵抗の意志が無い事を示す。しかしその様子は、見ようによってはわざとらしくもある。
「……リオトからの報告で聞いた。貴様、ホウオウ様を超えたなどと抜かした挙句、ホウオウグループとは縁を切るような事を言ったらしいじゃないか。今更のこのこ出てきて、無事で済むと思うか?」
ゼアの口調は努めて冷静だが、その端々に彼の怒りが感じられる。ゼアから見れば、ジングウは自らの主を侮辱した裏切り者も同然だ。下手すれば、今すぐにでもこの場でジングウを切り捨てかねない雰囲気だ。
しかしそんなゼアと対峙しながら、ジングウの様子に変化は見られない。相変わらずその薄ら笑いを口元に貼り付け、余裕の態度を見せている。
「そう言わないで下さいよ、元々仲間だったんですから……それに、今回の一件で懲りました。私はまだ、ホウオウ様を超えてなどいない。彼は揺ぎ無い絶対者であり、私はまだその足元にも及ばない……」
そう言うと、ジングウは懐に手を入れた。武器を取り出すと思ったのか、それに反応してモタドラッド達が動く。しかし、ゼアがそれを制した。
「懸命な判断ですね……どうぞ」
そう言うと、ジングウは懐から取り出した何かをゼアに向かって放り投げた。受け取ると、それはどうやら何かのディスクらしかった。
「私が開発したプロ・ウイルス「ジェネシス」に関する全データと、先日行われた私とリオト君達との交戦記録です。新作を作る、いい材料になるんじゃないですか?」
「……なぜ、こんなものを?」
「あれだけの事をやらかしたのです、手ぶらで帰って無事で済むわけがない。これは言わば、手土産ですよ。もっと言えば、「黄金色の御菓子」ですかね」
相変わらず人を食ったような喋り方でそう告げると、「さぁ、どうします?」とジングウは両手を広げた。ゼアはディスクをしばらく見つめて考えているようだったが、やがてそれを自分のポケットにしまった。
「……いいだろう。もう一度だけ、貴様をホウオウグループの一員として認めてやる」
「おお、ありがたい。実にありがたい」
「だがしかし、また今度我々を裏切るような真似をすれば――」
その後に続く言葉の代わりに、ゼアがギロリとジングウを睨みつけた。それに対して彼は、言葉無く頷いて了承する。
「しばらく、貴様には監視の目をつけさせてもらうぞ」
「いいですとも。それもまた、懸命な判断ですからね……」
そう言うと、ジングウは施設の中へと足を踏み入れていった。
(嘘も方便とは、この事ですかね……)
施設内を歩きながら、ジングウは胸の内でほくそ笑んでいた。
彼は懲りてなどいなかった。ただ、必要な力を蓄える為に再び古巣に戻ったまでに過ぎない。未だ彼は、獅子身中の虫に変わりは無かった。
(さて、と……今度は何をしましょうかねぇ……)
新たな企みを考え、思わずくすくすと笑っていると、前方に誰かが立っているのが見えた。
「……む」
それが何者であるか気付き、ジングウは表情を引き締める。
「これはこれはトキコさん」
「…………」
そこにいたのはトキコだった。彼女がグループ保有の施設に顔を出す事は滅多に無い事なので、この事態はジングウにとって少なからず予想外の事だった。
「どうも、初めまして。私、本日から新しくグループに入ったジングウと申します」
「…………」
努めて愛想良く振舞うが、トキコは恐ろしいまでの無表情だ。こんな表情は「表」であれ、「裏」であれ、滅多に見せる事は無いだろう。
「…………あの……?」
「…………」
トキコはジングウなど始めからそこにいなかったかのように、その横をすり抜けて歩いて行ってしまう。彼女が見えなくなってから、ジングウは深いため息をついた。
「……心臓に悪い……ホウオウの狂信者である彼女なら、私の真意に気付きかねないからな……」
そうでなくても、リオトの報告からジングウの起こした事についてはグループ全体に行き渡っている筈だ。しばらくの間は、「針の筵」を味わう事になるだろう。
「……しばらくは、心象回復に費やすとしましょうかね」
自分に与えられた部屋に入り、そこにあったベッドに倒れ込む。もはや指一本動かせない程にまで消耗していたが、その顔には邪悪な笑みが浮かんでいた。自分の描く出来事によって何が起こるのか、それが楽しくて仕方が無いと言った笑みだった。
(お待たせしました、いかせのごれの皆さん……さぁ、リプレイの開始ですよ……)
邪悪なゲームマスターのシナリオは、まだ終わっていない。
| 作者 | 登場人物 |
| akiyakan | ジングウ、ゼア、トキコ |
投下順
店長、恋の助言(仮)← 81話~120話 →クロウとマナの邂逅(仮)