ストラウル跡地。3度に渡ってホウオウグループと能力者達との戦いが行われた、何かの因縁があるのかと勘繰りたくなる廃墟。ボルカノン2号機の移送。ブラストル出撃。ジングウの再来。それら全てに、彼は関わっていない。
「……知らぬ間に始まり、知らぬ間に終わったか」
月明かりに照らされるその髪は、濁った血の様な不気味な赤。メガネをかけ、カジュアルな服装でまとめているその男は、鳳凰の眷族……というには、少々微妙な位置にあった。幾度かあった作戦の、全てにおいて招集がかけられていない。
仕方がない、とは思う。自分の能力は「軌道」を操るもの。回避は出来ても攻撃が乏しく、バツやチネンのように兵器の扱いに長けているわけでもない。
「……総帥は、何を考えている。世界を合理化……それは、どういうものなんだ」
恐らくこれが、自分が呼ばれなかった理由のひとつなのだろう。グループ総帥の意志がよくわかっていない。幹部連の中でも、極鎰幹部のサイナ以外は完全に理解していない、という情報もある。真偽はともかくとして、ここまでわかっていないとさすがに自分が情けない。
「…………」
沈黙する彼の視界に、ひとりの少女が映る。夜に溶け込むような彼女は、ハードカバーの本を両手で抱え、無機質な瞳の奥に感情を揺らめかせて、言う。
「……寂しい、のね」
「寂しい? そういえば、そうかも知れない」
ホウオウグループは、男にとっては「職場」。組織の一員としてしか自分を捉えられず、ホウオウの駒として動いている他のメンバーとはどうにも息が合いにくい。だから、普通は単独で動く。それが寂しいのかと言われれば、そうかも知れない。
少女が、すっ、と男を指差す。
「あるの、時間は?」
「あるといえば、ある。任務も最近はない」
「なら、考えてみて、自分について。掴めるかもしれない、足りないものが」
「足りないもの」
ふむ、と考えてみる。果たして、自分に足りないものとは何だろうか。
(やはり、総帥の意志を理解し切れていないからだろうか)
思ったが微妙に違和感がある。間違ってはいないのだが、それではない気がする。では何だ?
腕を組んで考えているうちに、別のことに気付いた。―――――誰だ?
あまりに違和感がないので最初気付かなかったが、普通に話しかけてきているこの少女は誰だ?
「……名前を、聞いておこう」
「夜波 マナ。名前を教えて、あなたも」
「クロウ」
名前だけを、簡潔に伝える。相手は「そう」と一言だけ返し、さらに問いを重ねて来る。
「いるの、仲間は」
「か、どうかは知らないが、わりといる。そちらはいるのか」
「3人。1人は学生」
「そうか」
返すは一言。特段興味があったわけでもなし、ただ儀礼的に問い返したに過ぎない。向こうもそれはわかっているのか、それきり口を閉ざした。
男もそれきり口を閉ざし、俯く。月明かりがメガネを通り、レンズに模様が浮かび上がる。アルファベットの「H」と「O」を合わせた、独特のものが。
それから、どれくらい時間が流れたのか。ふと、少女が踵を返した。
「行くのか」
「行く」
一言だけの、記号としての言葉の応酬。それを最後に、少女は夜闇に溶けるように、その姿を消した。
残された男は、最後に一度だけ月を見上げる。そして、
「……行ってみるか。いかせのごれ高校に」
――――いつの間にか、月を雲が覆い隠していた。