放課後の教室では、帰宅の準備をする者、友人と会話をする者で溢れていた。
そんな中、会話を交わす二人の生徒がいた。
コウスケとミユカである。
「なあミユカー」
「ん?」
コウスケに呼ばれ、振り返るミユカ。
その動きで、サイドポニーに結った髪が大きく揺れる。
「英語のノート写してくれね?」
「やだー」
「即答かよ」
「いっつも羊のノート写してんもん。疲れるよ」
不満げな表情のミユカ。
それにも関わらず、コウスケは何とか押し通そうとする。
「そこを何とか。後、「羊」じゃなくて「モコ」か「コウスケ」って呼んでくれよ」
「いいじゃん。羊みたいな髪だし」
「いや、確かに俺の髪くせっ毛だけどさ」
自分の髪を触るコウスケ。
彼の髪はかなりのくせっ毛である為、一部の者からは「モコ」と呼ばれていた。
もっとも、ミユカはあえて「羊」と呼んでいるが。
「んじゃ、羊でよし」
「いや、よくねーよ。「モコ」か「コウスケ」のどっちかで」
「分かったよ~。ジンギスカン」
「いや分かってねーだろ!食われてるじゃねーか!!」
「べっつにいいじゃん~。キシシシシシ」
チャームポイントでもある、特徴的な笑い声を上げるミユカ。
そんな彼女を見てコウスケはこう言い放った。
「ったく…相変わらず蛇みたいな笑い声上げるな、お前は」
その瞬間―――
ギロッ!
「ウェ!?」
コウスケは彼女の目つきにたじろぐ。
彼女の目つきがまるで―――蛇の目そのものだったからだ。
「私…蛇嫌いなの知ってるでしょ?」
「え、あ、ああ…」
「ならそんな言葉…二度と言わないで」
「あ…わりぃ」
「分かったのならいいよ」
次の瞬間には、ミユカの目は人間の物に戻っていた。
あまり怒る事はない彼女だが、今の様に、蛇の様な目をし、怒りを露にする事がある。
たった今、その目に睨まれていた自分は、正に「蛇に睨まれた蛙」だと、コウスケは思った。
「まあ、ノート写してあげてもいいよ」
「え、マジで!さっきの言葉百パーセント撤回するわ!!後今度デートでも」
「デートはやだよジンギスカン」
「何話してるのー?」
再び普通の会話に戻った二人の間に、赤い髪に幼い顔立ちをした少女―――トキコが入って来た。
「おー、トッキー」
「トッキー」は、ミユカのトキコに対する呼び名である。
由来は名前から来ているのは言うまでもない。
「羊の事、これからジンギスカンって呼ぼうと思うけど、トッキーはどうかな?」
「勝手にそんな話に持ってくなよ!ジンギスカンってもう羊の原形ねーし!!」
「いいと思うよー?可愛いし」
「どこがだよ!!」
「よし、じゃあこれから羊はジンギスカンね」
「ちょ、ミユカァァアアア!!」