「……ねぇ、ゼアさん」
「何ですか、ウツロ?」
「僕の目に間違いが無ければ、昨日まで一人だった筈のメイド服が、今は二人に増えているように見えるんだけど……」
「大丈夫ですよ、あなたの見間違いではありません……遺憾ですが、はっきり見えています。私にも」
パソコンに向かっているジングウ。その背後に監視の女性型の擬人兵が立っているわけだが、どう言うわけか、昨日までメイド服を着ていたのはジングウ一人の筈であったのに、何時の間にか背後に立つ擬人兵にまでメイド服が着せられていた。ホウオウグループの施設内でありながら、そこだけ異様な空気を醸し出している。
「……一体あの人は、何がしたいのでしょうか?」
「さぁ……」
ゼアもウツロも、ただ首を傾げるしかなかった。
「……おい、ジングウ。これは何の真似だ」
……私が気持ち良くこれまでのホウオウグループの活動を眺めていたら、私がこの組織で最も毛嫌いしている男が姿を現した。
「何の真似とは何の事です、クロウ?」
「見たとおりの事を言ったまでだ」
「ちょっとしたお茶目じゃありませんか。私としては、お仲間が増えた気がして心地良いですよ」
「そうではない――CYR-X002!」
「は、はいぃぃぃ!」
クロウの声に反応し、私の背後にいる擬人兵が返事をする。しかしその声は感情の無い、機械的な物なのではなく、確かな自我のこもった声だった。
「止めてくださいよ、クロウ。CYR-X002なんて温かみの欠片も無い呼び方は。今の彼女は、サヨリさんと呼んであげて下さい」
「そんな事どうでもいい……元々自我の無かった擬人兵に自我を与えたのは、お前の仕業か?」
「イエス、オフコース」
私がそう答えると、クロウは若干表情を不快そうに歪めた……こちとら、お前の面を拝んでいるだけで不機嫌なんですがね。
「何で勝手な真似をする」
「そう固い事を言うんじゃありませんよ。私は本職が研究者だと言うのに、今はラボに入る事さえ許されていないのですよ? 無聊の慰みに、ミス・クリエイションを改良して何が悪いって言うんです」
「ミス・クリエイション」と言う言葉が嫌だったのか、背後で擬人兵――サヨリさんがムッとしたのが何となく分かりました。やだなぁ、貴方が女性だったから「女性」と「失敗」をかけたただのジョークだったのに。
「……この前の出来事はホウオウグループへの謀反に値する行為だったが、これまでの貢献とお前の能力を買って再び組織に身を置かせてやっているに過ぎない。組織の一員となったからには、勝手な行動は謹んでもらいたいな」
そう言ってクロウは歩き去ろうとしていく。私は奴がいなくなってから、深くため息をついた。
「あの、ジングウさん……」
「さん付けなんて止して下さいよ、全く……と言っても、貴方にそれを言うのは少々酷ですかね」
椅子を回転させて後ろを向くと、サヨリさんが私の方を見ていた。
「ありがとうございます……その……クロウさんに対して、私の名称の訂正をしてくれて……」
「はぁ、そんな事ですか……言っときますが、あれは別に貴方の事を思ってやったわけではありませんよ。あれは、人形もどきのあの男が、貴方を人形扱いする様が滑稽だったから、訂正したまでです」
「は、はぁ……」
サヨリさんはどうやら、私の言った事にピンと来なかったらしい。首を傾げて悩んでいる。
私はそんな彼女を放置し、再びパソコンへと向かった。
……クロウ。あの男は私の事を嫌っているようだが、私自身もあいつの事が大嫌いだ。
組織に忠実。それがあの男の代名詞みたいなものだ。実際、その仕事振りはしっかりしている。その点に関しては「ミスター・パーフェクト」と呼んでやってもいい。
だが、それだけだ。私はあいつに「中身」を感じない。ただ組織の歯車として機能し、組織の命令に従う。そこに奴の「自我」が感じられない。言わせてもらえば、「周り」に流されて生きているだけにしか見えない。そんな生き方では、「自我」はあって無い様なものだ。奴の本名が「スケア・クロウ」だったとしても、私は驚いたりはしない。だから私は「人形もどき」とあの男を言ったのだ。
「組織云々」を語る以前に、奴には「中身」が無い。だから私は嫌いなんだ。
(……まぁ、他人の事など知ったこっちゃありませんがね)
今はとにかく、これまでホウオウグループが何をやって来たのか、それを調べるのが先です。もしかしたら、何か発見があるかもしれませんから。
「あのー……」
「はい?」
背後から聞こえた申し訳なさそうな声に、私は返事だけ返す。顔はあくまで画面に向けたまま。
「ジングウさんがメイド服を着ているのは分かるのですが……なぜ、私まで着なければいけないのでしょうか……」
「そんなつれない事を言わないで下さい。道連れが出来て、私は今非常に楽しいのですから」
「私まで巻き込まないで下さいー!」
「はっはっはっはっは」
いやー、サヨリさんに自我を与えたのは正解でしたねぇ。これで当分、退屈しなさそうですよ。