「……暇です」
私がそう呟くと、背後にいるサヨリさんがため息をついた。
「ジングウさん、それ一体何度目ですか?」
「100から先は数えてない」
「…………」
サヨリさんが、まるで頭が痛くなったかのように頭を抑える。一々私の言動に付き合っていたら身が持ちませんよ、実際問題。
「暇潰しの為に今までのグループの活躍を見直していましたがねぇ……流石に10ループ目ともなると、飽きが来るというものです」
「と言うか正直、あの量の映像を十回もループさせたその根気は大したものだと思います」
……まぁ本音を申せば、5ループ目位から作業用BGM化してましたけどね。
「あー、何か面白い事ありませんかねぇ……」
そう思ってさっきから施設内を歩いているものの、これと言って目ぼしいものなど何もない。勝手知ったる組織の施設だ、いい加減見飽きた。
――と、思った時だった。
「……ん?」
私の視線の目の前に、一つの扉がある。確か、この扉は……
「……生物兵器の廃棄場……でしたよね?」
遡る事六年前、この身体になる前の私がグループに務めていた頃、ここは出来損ないの生物兵器達の処分場になっていた筈だ。ついでに言うと、この先には私達生物兵器開発研究チームが使っていたラボもある。
「…………」
「……ジングウさん。まさか、入ろうってんじゃないでしょうね?」
「その通りですが、何か?」
「駄目です! あなたはこの施設内、あらゆるラボラトリーへの立ち入りは禁止となっています!」
「でも、この区画は動力落とされてますよ?」
私が扉を開ける為のコンソールを指し示すと、そこは沈黙したままになっている。私がいなくなった際、生物兵器の開発・研究は縮小され、最終的に凍結されたと聞いていた。その時、この区画は閉鎖されたのだろう。
「悪戯しようにも、ラボが使えないんじゃねぇ」
そう言って私がお手上げの姿勢を見せると、サヨリさんはため息をついた。
「……はぁ、分かりました。でも何か怪しい事したら、私のメモリーディスクに残りますよ?」
「分かってます、分かってます。要は、「ホウオウグループによって損失になるような行為」をしなければいいのでしょう?」
……ま、仮に出来たところで、現状じゃやっても意味無い事ですが。
「さてと……それじゃサヨリさん、お願いします」
「……はい?」
「はい? じゃありませんよ。動力が落ちていると言う事は、この鉄扉は人力で開けなければいけないのです。まさか貴方、怪我人の私に開けさせようってんですか?」
「…………」
「分かりましたよ、そう怖い目で睨まないでください……二人で開けましょう、二人で」
まったく、ちょっとしたジョークじゃありませんか……
「おぉ、懐かしい……」
出口の重たい扉を抉じ開けて中に入ると、そこには私にとって外よりも見知った光景があった。
無数に立ち並ぶ培養器が、まるで墓標のように見える。実際ここは墓地だ。ホウオウグループでかつて行われていた、生物兵器に関する研究。それを閉じ込め葬ったカタコンベ。私のとっては、外よりもここの景色の方が古巣に戻った気分にさせてくれた。
培養器の並ぶフロアの向こうにあるのは、生物兵器の格納ドッグだ。今は空になっているが、かつてはここで多くの生物兵器が、まるで牧場の家畜のごとく育てられていた。
その中で、私はある物を見つけて足を止めた。その姿に思わず目を見張る。
「デルバイツァロスト……!」
三つの頭部持つ、まるで地獄の門番ケルベロスを彷彿とさせる巨大な犬型の生物兵器。ところどころサイボーグ改造が施されたそれは、カーボナイトコーティングによって封印されていた。
「サヨリさん、これは……」
「アーカイヴにアクセス……生物兵器の開発は凍結され、ほとんどの生物兵器は破棄処分にされたのですが、一部の兵器はその有用性から封印処置を施す形で破棄されずに残ったようです」
「それにしたってこれは……」
デルバイツァロスト。体表面に搭載されたナノマシンによって磁場を発生させ、三つの頭部が持つそれぞれの官制システムよって「電磁」、「重磁」、「剛磁」の三性質をコントロール。三つの電磁波を同時に使用すれば空間に負荷をかけ、それによって重力崩壊を引き起こし、ブラックホールすら作り出してしまう文字通りの「化け物」だ。
生物兵器の凍結は、私と同等に生物兵器を扱える人材がいなかったからだと聞いている。確かにこいつは性能こそ一級品だが、暴走したらどうするつもりだったんだ……
見渡せば、特殊な波動を持つ彷徨によって範囲内にあるものを氷漬けにする能力を持った「フェンリル」、全長十三メートルもある巨大な蛸のような形をした水棲生物兵器「アウルム・テュランヌス」など、ここには見知った生物兵器がいくつか封印されていた。てっきり格納庫は空っぽだと思っていたのに、これはこれは……
「最高じゃありませんか……」
「一応言っておきますが、これ全部実戦で使う機会は二度と来ないと思いますよ」
「なぜですか、ここに扱える人間がいるではありませんか!?」
「ジングウさん、ご自分の立場を分かってますか……?」
呆れたようにサヨリさんが額を押さえますが、まぁご尤も。第一、私は記録上「生物兵器の暴走に巻き込まれて死んだ」人間です。そんな人間に、過去の実績があるからと言って生物兵器操作を任せるとは到底思えませんしね。
ですが、まぁ、ここにこれらがまだあったと言う事を確認出来ただけ、良しとしましょう。
……さて。「培養器」、「格納庫」と来て、次は私にとってこの区画では一番馴染みのある場所です。何せ、「前の私」はその場所で死んだのですから。
目の前に聳える巨大な扉。動力が落ちているので、例のごとく傍にある巨大なレバーを回して二人がかりで開きます。そして開いた先には、巨大な空間が広がっていました。
「おぉ……」
古代ローマのコロセウムにも似たこの場所は、生物兵器の性能実験場。ここで能力者、或いは別の生物兵器同士を戦わせる事で、そのスペックデータを調べる。その過程で命を落とす生物兵器もいれば、逆に食い殺される能力者もいた。この場所には、無数の死が染み付いているのだ。
「ご自分の亡くなられた場所を見て、感動しているのですか?」
「まぁ、そうですね。死んだ場所と言うより、この場所は私が「生まれ変わった場所」に等しいですから」
弱々しい古い身体を脱ぎ捨て、新たな身体へと脱皮する。さながら、この巨大な実験場は私の繭か蛹と言ったところでしょうか。この場所であまたの実験を行い、そうして蓄積された情報が今の私の血肉を形作っているのですから。
「……さて、残すところは後一つですか」
私は実験場の奥にある扉へと視線を向けた。
その先にあるのは、不要になった生物兵器の廃棄施設だ。文字通り、ミス・クリエイション(出来損ない)の墓場だ。おそらく見るものなど何も無いだろうが、ここまで来たのだからどうせだから見ておきたい。
しかし、扉へ向かおうとする私をサヨリさんが制した。
「サヨリさん? 一体何の真似です?」
「ここから先は危険です。貴方が自分の無茶振りで怪我をするのは構いませんが、今その状態で行けば命を落とす可能性もありえます」
「……それは穏やかではありませんねぇ」
しかしサヨリさん。私を止めたいのでしたら、もう少し言葉を選ぶべきでしたのね。今のは確実に、私の好奇心を刺激しましたよ。
「理由も無く危険と言う事は無いでしょう……何があるのか、教えてくださっても良いんじゃありませんか?」
「……ここは生物兵器の研究・開発の凍結に伴い封印された事になっていますが、この区画を封印する際あるバイオハザードが起きています」
「バイオハザード?」
「はい……開発・研究の凍結が正式に決定するその時まで、生物兵器開発の続行を上申し続けた研究者達がいたのです」
「……!」
「彼らは生物兵器分野の全面凍結が決定すると、廃棄処分する生物兵器達をあの中で融合させ、強力な一体の生物兵器に作り変えようとしたのです」
「ですが、その試みは失敗……細胞分裂の暴走を起こしたそれは、手当たり次第に周りのモノを取り込んでいった……そんなところですかね」
「……はい」
サヨリさんが言った「研究者達」。それに私は、思い当たる人達がいました。私が主任だった頃、その部下として働いていた数名の研究者達です。
……全く。私がいなければあの研究は成り立たないと言うのに、そんな博打までして残そうとは……馬鹿な連中だ、本当に……
「その時融合実験を行った研究員達は全員死亡。ただ、彼らが死ぬ間際に閉じた隔壁のおかげで、バイオハザードが外にまで及ぶのは防げました。以上の事件は、五年前の出来事としてアーカイヴに記録されています」
「……分かりませんね。五年前の事でしたら、とっくに中の生物兵器は活動を停止していますよ」
「まさか、生物兵器研究の第一人者である、あなたの口からそんな言葉が出るとは思いませんでした……当時廃棄処分が行われた生物兵器は全部で23体。それらすべてが、あなた自身が作り上げた、或いはあなたの技術ノウハウより生み出された極めて高性能な生物兵器達です。それを一つに融合させたんですよ?」
サヨリさんに講釈されずとも、そんな事分かっています。
自然の法則を捻じ曲げ、不自然にデザインされた生物兵器達。そんな不自然な生き物達を、更に不自然な方法によって一つの生き物にしようとする……二十三個の魂を一個にまとめようと言うのだ。どんな化学反応が起こるか分かったものではない。
あの中は、言わばフラスコだ。それも、口を塞ぎ、周りを黒く塗り潰したフラスコ。中で一体何が起こっているのか分からない、酷く危険な。確かにサヨリさんの言うとおり、消耗した今の身体で行こうとするのは懸命ではないでしょう。
――ですが、私には行かなければならない。「実験」は「結果」が出るまでが「実験」です。不肖の弟子達が見届けられなかった実験の結果を、私が代わりに見届ける義務がある。
「……行きましょう、サヨリさん」
私がそう言うと、サヨリさんは観念したようにため息をついた。気が進まないようですが、それでも付き合ってくれるようです。
「監視ですからね……あぁもう、何でこんな仕事引き受けたんだか……」
「そりゃあ、私が自我を与えるまで貴方は本物のお人形さんでしたからねぇ。あの男同様に組織の歯車同然でしたから、拒否権など無かったでしょうよ」
「……言わないでください。今のは現実逃避だったんですから……」
廃棄施設と実験場を遮る隔壁は物々しく、まるで地獄の門を彷彿とさせるものでした。実際、この先に広がっているのは十中八九地獄なのでしょう。私達は隔壁を開くレバーに手をかけると、その重たい扉をゆっくりと開け始めました。
ゴォン、ゴゴゴゴゴと言う鈍い音と共に、ゆっくりと隔壁が上がっていく。それと同時に、凄まじい異臭が中から吹き上げて来ました。あまりの臭さに、目が開けていられません。
「ジングウさん、大丈夫ですか!?」
「ええ、大丈夫です……こんな事もあろうかと、常に水中用ゴーグルを持っているのですよ」
「……なんでそんな物を……」
「これ便利ですよ。水に潜っても視界はクリアですし、タマネギを切っても涙出ないし」
「……はい、分かりました」
投げやりなサヨリさんの態度など気にもせず、私は廃棄施設の中を覗き込む。しかし照明が点いていないので、中は真っ暗で何も見えません。私はライトを取り出すと、それで辺りを照らしてみました。
「……うっ!?」
「これは……」
そこには、私の想像以上の光景が広がっていました。
廃棄施設自体は、ドームの形をしています。生物兵器の処理方法は、端的に説明すれば「電子レンジ」と同じ仕組みで、この内部にマイクロ波を放射する事で、それによって生物兵器を焼き殺す仕組みとなっています。
まぁ、そんな説明は今は不要でしょう。とにかく、廃棄施設はドーム型、直径五十メートル位あるのですが、その床一面に生物の死骸が転がっていました。ドームの中心にはこんもりとした肉塊があり、おそらくそれが融合した二十三体の生物兵器の成れの果てなのでしょう。それはドームの中心地点から発生し、放射状に広がって朽ちています。融合が完璧ではなかったようで、腐った肉に埋まる形で融合前の原型を留めた骨格なんかがあります。
「う、うえぇぇぇぇぇぇ!!」
嗚咽の声に振り向くと、サヨリさんが背を向けて身体を折り曲げています。
「何やってんですか、サヨリさん」
「見ての通り吐いてんですよ……」
「嘔吐しようにも、あなた擬人兵なんですから何を吐くって言うんですか」
「今、消化液吐きました……」
「……そうですか」
少々、自我を精巧に組み立てすぎましたかねぇ。まさかここまで「人間らしくなる」とは。
「では、ここで待っていて下さい。私一人で見に行ってきますので……」
「ああ、駄目です! 私には監視の仕事があるんですからー!」
私が施設の中へ踏み込むと、必死の形相でサヨリさんがついて来ます。今にも泣き出しそうな顔をしていますが、こちとら彼女をフォローしている余裕なんかありません。
「む」
どうやら床一面、死骸の流した体液で水溜りのようになっているみたいですね。しかも、深さは膝丈位はあります。試しに一歩足を入れてみると、ぬるりとした感触が足に絡み付いてきました。
「ジングウさん、一旦戻りましょう……こんな格好じゃ、まともに調査出来ませんって!」
「知っていますか、サヨリさん。研究者は、その時どんな格好をしていようと、調べ物があればその時研究者なのですよ」
「私は研究者じゃないですー!!」
スカートの丈を絞り、私は血の池のごとき水溜りへと入っていきます。サヨリさんはしばらくそこで躊躇しているようでしたが、意を決したように私の後を追いかけてきます。
「な、な、何かいたりしませんよね……」
「それが怖いならサヨリさん、試しにバイタルサーチしてみたらどうですか」
「え、えぇっと……うわ!? な、何これ!?」
おそらくバイタルサーチを使用したのでしょう。サヨリさんが素っ頓狂な声を上げ、それがドーム内に反響します。
「ああ、やっぱり?」
「や、やっぱりって……ジングウさん、周り反応だらけですよー!? この子達、まだ生きてますー!!」
「いえ、死んでますよ。あなたのセンサーに反応しているのは、死骸の中で生き残っている細胞片です。彼らはとにかく、生きる事に貪欲ですからねぇ。省エネモードで、五年間耐え忍んできたんですよ」
体液の量から考えて、自壊が起きたのは暴走してからすぐのようですね。ほとんどの細胞は需要と供給を無視した細胞分裂に耐え切れず死滅。その中で生き残った優秀な細胞だけが、今も生き続けていると言ったところでしょうか。
(予想通りでしたが、ラッキーですね。生き残った細胞を使えば、優秀な生物兵器を生み出せる事でしょう)
……もっとも、二十三体も犠牲にしているんですから、これ位の成果はあって当然なんですが。
「あ、あれ?」
その時、サヨリさんが突然声を上げた。何事かと思って振り返ると、彼女はドームの中心を見つめたまま固まっている。その様子は、何やら戸惑っているように見えた。
「どうかしました?」
「あ、あの……真ん中の死骸なんですがね……周りの死骸はバイタル反応小さいのに、あそこだけ極端に大きいんですよ」
「何?」
それはどう言う事だ? 私も思わず、ドームの中心にある肉塊へと振り向いた。
(あそこはおそらく、融合した二十三体の基点……細胞の暴走がもっとも大きく、真っ先に死滅が起きたとすればあそこなのでしょうが……逆に言えば、反応の大きさ故に突然変異がもっとも起きやすかった場所!)
「……行きましょう、サヨリさん」
「ええっ!? さ、流石に危険ですよ!」
「既に危険ですよ、バイオハザードが起きた五年前からね。誰かが安全確認をしなければ、何時まで経ってもここは危険なままです」
「だからと言って、何も私達で確認しなくても~」
泣き言を吐くサヨリさんを置いて、私は体液の海の中を渡っていく。
(馬鹿ですねぇ……他の連中に任せたら、ここ一体が焼却処分されるに決まっているじゃないですか……)
ここにある潤沢な資源をゴミ扱いなど、そんな事はさせてなるものか。
「ああうぅぅ~。ま、待ってください、ジングウさん~」
涙声になりながら、サヨリさんが私の後をついて来る。何だかんだ言ってもこの子、真面目で助かりますねぇ。
ドームの中央は、死骸によって小島のようになっていました。肉が固まり、靴底にはアスファルトを踏むような感触が伝わってきます。
「サヨリさん、反応は?」
「そ、そこですぅ~」
情けない声を上げながら、サヨリさんは島の中央を指した。そこは窪んで穴のようになっており、周りの暗さゆえに覗き込むの少々躊躇われます。
(えぇい、一度は死んでいる身です。一体、何を恐れるというのですか!)
意を決すると、私は窪みに近付いて中を覗き込みます。それに続いて、恐る恐るサヨリさんが近付いてくるのも分かりました。
「これは……」
「じ、ジングウさん……?」
そこには、私の予想だにしないものがありました。
「……で、説明してもらおうか、ジングウ」
ここは私の部屋。ベッドに腰掛けている私の目の前で、ゼアが腕を組んで仁王立ちをしている。こめかみがピクピク動いているのが見えた。
「説明も何も、見たままですが?」
「そんな大雑把かつ曖昧な説明は止めろ!」
そう言ってゼアは、あるものに指を指した。
「あの子供は一体なんだ!?」
「うー?」
そこには、私の隣で遊んでいる、年齢にして十歳位の子供がいた。
私達が廃棄施設の中央で発見したのは、この子供だった。ただし今のような状態ではなく、体がほとんど「溶けている」状態だった。これを私はすぐさま「生成(なまなり)」であると判断した。「生成」とは私が使っていた単語で正式な用語ではないのだが、培養段階の生物兵器が細胞同士の結合をしっかり出来ていない状態の事だ。
基本的に、「生成」の状態では生物兵器は長く生きられない。であるから、このままではこの子供が死んでしまうのは目に見えていた。
しかし私は、それを良しとはしなかった。
まず私はサヨリさんを説得……と言うかまぁ、無理を通しただけなんですが、それでこの区画に動力を通しました。これによってこの区画は廃棄施設を含めて全機能が復活。当然、ラボラトリーもです。私はラボへこの子供を運ぶと、培養器に入れて細胞結合を安定させる作業を行いました。
いやー、大変な作業でしたよ、全く。肉体やDNAの構成を調べつつ、それに合わせた細胞結合の安定作業ですからね……まぁ実際のところは、六年も錆付かせていた本職の作業だったんで勘が鈍っていたんですが。
何はともあれ、私は細胞結合の安定に成功。それと同時に、封印された区画に動力が入った事に気付いたゼアがやって来て、その流れで現在に至ります。
「だから、言ったじゃありませんか。封印区画の最奥で発見したものだと」
「お前がラボを勝手に動かして作ったんじゃないのか?」
「確かに私はラボを動かしました……しかしそれはあくまで、この子を救う為です。第一、あの短期間であれだけ精巧な物を作るというのは、神様でも無い限り不可能ですよ……それに私の言葉が信じられないと言うのでしたら、サヨリさんのメモリーディスクを調べれば良い事です」
「……それで、お前はあの子供をどうするつもりだ?」
「どうするも何も、目の前で死に掛けていたんですよ? それを助けたのですから、むしろ私の人道的行為を賞賛してほしい位ですねぇ」
「人道など、どの口が言うか……勝手にしろ」
そう吐き捨てると、ゼアはこの部屋から去っていった……やれやれ、邪魔者を追い出すのはいつも骨が折れます。
「……いいんですか、全部話さなくて?」
「いいんですよ、別に根掘り葉掘り聞かれた、って訳じゃないですし……それに、せっかく暇潰しの道具が手に入ったのに、ゼアなんかに取り上げられてたまるものですか」
「暇潰しの道具ですか……」
サヨリさんは、複雑な表情で子供を見つめている。子供は彼女の表情など気にもせず、ずっと遊び続けていた。
「……結局のところ、何なんです、この子?」
「単刀直入に申し上げれば、二十三体の生物兵器の集合体……ってところですかね」
「集合体!? この子がですか!?」
「もっと正確なところを申し上げれば、融合時の暴走で死滅せずに生き延びた細胞達が、新しい身体を構築しようとした結果ですかね。ま、それでも自力での再構成には限度があって、「生成」の身体を作るのが限界だったようですが」
「は、はぁ……」
サヨリさんは今一私の言っている言葉の意味が分かっていないようでしたが、まぁ彼女に理解出来なかろうと、私自身が理解していればそれでいいのです。
「それでジングウさん、その子助けて何がしたかったんです?」
「もちろん暇潰しですよ。この子調べるだけでも十分時間は潰せますからねぇ」
「そ、そんな事の為にあれだけの騒ぎを……」
……まぁ、それだけじゃなくて、かつての同胞達が作り上げたこの作品を、あのカタコンベで眠らせておくのは惜しいと思ったからなんですが。
「……その子、名前どうするんです?」
「もう決めてあります。この子の名前はレリックです」
「レリック? 女の子なんですから、もう少し可愛い名前の方が……」
「レリックとは遺産を意味します……かつての私の同胞達が残した遺産。この子にはぴったりではありませんか」
ああ、楽しみです。この子が成長したら、一体どんな化け物になる事やら……