平日の昼間に店に来たのは、本来「来てはいけないはず」の客だった。
高校生が二人。制服から見ていかせのごれ高校か。
そのうちの一人を見るなり、店長は眼を見開いた。
カウンターにつきだされた水を飲みながら、ノルンは店内を見回した。
「めずらしいね。あんたが友達連れてくるなんて。」
「彼はノアといいます。「上」の命令で常に二人一組を命じられたので、連れてきました。」
「ま、もっとも、学校いっても勉強する気ないしな。」
「おいおい、それはいけないなぁ。学生は勉強が仕事っていうでしょ?」
「…。」
曇り空が広がる窓を見つめ、店長は呟いていた。
「…あの事件から、何年だっけ…。」
「…丁度3年じゃありませんか?」
「ああ、そっか。この
レストランも開いてからそのくらい立つわね。」
「あの時は、命令とはいえすみませんでした。」
「貴方が謝る必要ないのよ。」
そっと、プリンを一つずつ置きながら店長は言う。
「とはいえ、甚大な被害を出してしまったものですから。…軽い洗脳を受けていたとはいえ。」
「被害は建物だけじゃない。他は何にもなかった。」
店長はノルンの頭をがっしとつかむと、めちゃくちゃに掻きまわした。
「あんたはえらいよ。あの時施設の子供を「誰一人として傷つけなかった」じゃない。」
「いえ、命令にそんなことありませんでしたので…。」
「他の奴らなら間違いなく何人か殺してるよ。その点あんたはまだ「あの人」の者じゃないってことでしょ?」
「…実は、今日はそのことで相談に上がったんです。」
「
ホウオウグループを、抜けようと思ってるんです。」
「「!」」
ノルンの言葉に、店長とノアは驚いた。
「…本気で言ってるの?」
「勿論です。でなければ、貴方のもとには訪れていません。」
プリンをつついていたスプーンを置き、ノルンは顔を上げた。
「ノアもホウオウに完全に忠誠を誓ってるわけでなく、面白半分な面があるのでここでこうやって話せているわけです。そして願わくば、ノアもホウオウから解放してあげたいのです。」
「ノルン、お前…。」
「どちらもいけないのなら、僕が残るつもりです。」
「…どこまでも他人思いなんだね、あんたは。」
店長は、ふっと微笑んだ。
「私は、自分のやりたいことを主張できずに後悔したことが何度もある。だから、あんたにそんな後悔させたくない。」
店長は立ち上がった。
「自分の思うようにやりなさい。そして、もしよりどころがないなら、いつでもおいで。部屋はあいてるから。」
「…。」
ノルンは何も答えず立ち上がり、深く長く、店長に一礼した。
そして、二人分のプリンの代金を払うと、ノアを率いて出ていった。
「…三年前の、後悔…。」
何処からともなく声が聞こえ、振り返った。
窓際の席に座る、一人の少女。その姿を見るなり、ほっと息を吐いた。
「…何時の間に来たの?」
「さっき。」
「ご注文は?」
「…いつもの。」
彼女…夜波マナの眼の前にアイスと紅茶を置く。
マナは反応せず、黙々と本をよんでいる。
いつものことだから、黙ってカウンターに戻ろうとした。
「…後悔、してるんでしょ?」
「!」
思わず振り返る。
視線の先のマナは、本から眼を離さないまま、虎視眈々と言葉を紡ぐ。
「戦線離脱。後悔してる。違う?」
…違わない。
レストランを開いた時に、真っ先に忘れようとしたこと。
でも、決して忘れられなかった。
戦ってた自分が。
人々を助けるために、戦ってた自分が…。
「遅くない、今からでも。」
マナは本を閉じ、店長を見た。
「まだ、衰えてないんでしょう…?」
「…。」
心の中でありがとうと呟き、言葉は胸の底に仕舞った。
いつか必要とされたときに、迷わないために。
「店長」から「戦士」に戻る日がくるときに…。
最終更新:2011年02月17日 20:55