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それぞれのお話(仮)

「……おいおい、何だよこれは」

とある廃墟の一室で、俺はそう呟いた。いかせのごれ高校に向かう途中、そこに潜入しているひとりであるトキコとすれ違った。普段なら登校しているはずの時間帯だが、彼女がやって来たのは全く別の方向だった。あの先に何が?
思って行って見たが、そこに待っていたのは惨劇の痕だった。原型をとどめない死体。その中に「Earthsaver」の文字を見つけた時は冗談抜きで頭を抱えた。

「……総帥。あれ、ほっといたらダメでしょう……」

総帥の考えがわからないことではグループ一の俺だ。しかし、そんな俺でもわかることがある。グループはどうも、トキコを扱いかねているフシがある。総帥から出ているという「成すがままに任せよ」というのは、裏を返せば「あれは、扱い切れん」ということなのかも知れない。ま、幹部連中ならともかく、「絶対」を以って鳴る総帥に限ってそれはないとは思うが。

とにもかくにも、この状況を放置するのはグループにとって不利益だ。もしアースセイバーにこれを見つけられれば、調査に秀でた連中の事だ。そこからトキコの潜入が伝わり、グループの行動が困難となりかねん。堤も蟻の一穴から崩れる、何にしてもこのままではまずい。とりあえず、荷物の中から箱をみっつ取り出す。一つは真ん中に。もう一つは天井に。そして最後の一つは一階に置き、急いで外に出る。
しばらくの後、


轟音と共に廃墟ビルが崩壊した。


「……さすがだな」

箱の正体は開発部が作った爆弾だ。とはいっても最近のものではなく、以前の作戦で使われるはずだったものだ。結局そのままになっていた上に、現在の作戦には不要の代物。俺の目下の仕事はこれの処分だったので、ちょうどよかった。爆発と倒壊の音は、その軌道を上に振り向けて誤魔化す。かなり力を使ったが、証拠の隠滅はとりあえず完了。すべては、グループのために。歯車として、キリキリ働くとしよう。



「どうなっている? 連絡が……」

その日、俺は一向に繋がらない携帯に苛立っていた。相手は、ストラウル跡地近辺を調査していた担当者だ。今朝から連絡がつかず、定時連絡も滞っている。一体何があった? 
何らかの事故に巻き込まれた可能性も考えられる。能力を発動し、通話をかけつつ携帯の場所を探る。ヒットした場所は、跡地近辺の廃墟。心霊スポットとしてそこそこ有名なため、めったに人が近づかない場所だ。どうやらまだあそこにいるらしい。継続任務のため、そこを拠点にしていたと聞いている。

(急げば間に合うか……?)

思い、駆け出そうとしたその瞬間、

「ッ!」

頭の中にイメージが走った。―――トラックが突っ込んで来る!?

「まずいっ!?」

咄嗟、そこから全力で後ろに下がる。ちょうど次の瞬間、明らかにルールを無視した軌道を描きながら、さっきまでいた場所に10tトラックが突っ込んで来ていた。―――危なかった。もう少しで轢かれるところだった。
野次馬が集まり出したのを見て、とりあえず携帯をかける。相手は聖さんだ。調査員の方はこれから調べる。……ただ、嫌な予感はしたが。
そしてそれよりも、

「……俺はいつになったら真衣に話が出来るんだ」

調査任務が立てこんでいて時間が自由にならない。早く片付けて真衣に会わないと……。




「何だと? ……わかった、こっちは俺が調べる。てめぇはとりあえず待機しとけ」

啓介から交通事故の報告を受け、俺はとある廃墟へ向かった。しかし運の悪い奴だ、交通事故とはな。死ななかっただけ大したもんか。それでも、今日一杯は多分動けねぇだろう。任務そのほか、諸々事情もあるしな。

とにかく、俺は件の廃墟へ向かう。ホウオウグループ絡みの事件が多発したストラウル跡地は、アースセイバーの調査員が周辺から張り込んでいる。啓介が看取った奴と、今探してる音信不通の奴は、その一部だ。

「ったく、何をやってやが――――」


そこには、瓦礫の山があった。


「……………………は?」

一瞬言葉が出なかった。確か、例の調査員はここを根城にしてたはずなんだが……。
寄って見て瓦礫を掻き分けて見ると、

「うっ!?」

ほとんど原型をとどめていない、死体だったと思しき欠片がいくつか出て来た。その中には「Earthsaver」の文字も見られた。
――――倒壊に巻き込まれて死んだのかよ。まったく、揃いも揃って運のない連中だ。

たしか、この廃墟は土台部分が老朽化していた。倒壊の危険はあったが、災害でも来ない限り大丈夫、と啓介は言ってやがった。――――この様子じゃ見事に外れたらしいが。
奴の予知も万能じゃねぇ、か。つくづく不便なこった。
とりあえず携帯をかける。

「俺だ。……ああ、例の調査員だがよ、ビルの崩壊に巻き込まれてくたばってやがった。……死体なんざ残ってねえよ。瓦礫に潰されて原型がもはやねえ」

一通り報告を終えると、俺は服の欠片を回収してその場を去った。後の処理は他の連中に任せるか。

――――自分で捲いた種の責任、いい加減とらなきゃならねえからな。



「…………」

街を歩きながら、俺はあの廃墟での一部始終を思い返していた。無機質な瞳で調査員を惨殺するトキコの姿は、まるで――――そう、機械のように見えた。あれは、機嫌が悪い時のマナと似ていた。余程腹に据えかねたことがあったのだろう。
止めなかった理由は、スザクにある。あの場で飛び出してトキコを押さえればよかったのだが、そうすると俺がスザクに殺されかねん。
アースセイバーに伝えるのもダメだ。結果は同じだ。下手をするとスザクが殴りこんで来る。そして恐らくマナも。
だったらランカを使えと? そんな事を考える奴は俺が殺す。隅々まで殺す。念には念を入れて明確に殺し抜いてくれる。

――――って、いかん。俺まで壊れてきている。

と、とにかく。何より、昔から言うだろう。人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死ねばいい、と。俺はまだ命が惜しいし、トキコに目をつけられた時点で並の能力者では生き残る目はない。残念だが、見捨てさせてもらった。
なに、冷酷だと? ふん、そんな罵倒より、俺は怒れるスザクの方が100の100乗くらい怖い。
奴を本気で怒らせたら、塵も残らんからな。

「………とはいえ、さすがにこれ以上は俺がもたん。スザク、殺すなり手に入れるなり、早くしてくれ。……頼むから」




「スザク。あの子をどうしたいの、あなたは」

とある公園。
隣に座るマナにそう問われて、僕は即答できなかった。
少し前なら、「殺したいのかな」とあっさり言えたはずだ。なのに、今は答えが出て来ない。どうして? 
僕の迷いを見透かしたように、マナが言う。

「後悔は、しない?」
「!」

一言。そのたった一言が、僕を迷わせる。
トキコの「約束」は、他ならぬ僕から持ちかけたものだ。――――だけど、その後に何がある?
僕が殺されるのは、この際いいとしよう。そう簡単に死ぬ気はないが、トキコにだったらこの命、くれてやってもいい。
なら―――僕が勝ったら? トキコを殺したら? その後に、何が?

「――――!?」

不意に、背筋に寒気が走った。そうしたら――――僕に、何が残る?

「……気付いてなかったのね、やっぱり」

呆れたように、マナがため息をついた。気付いていない? 何に? 僕は、何を見落としている?

「殺し合いだの、衝動だの、色々言ってはいるけど、つまる所はこういうこと」


「独り占めにしたいんでしょ、あの子を」


「え………」
「あなたがホウオウグループを憎むのは過去が原因。だけど、ホウオウ個人を嫌い出したのは割と最近。それはなぜ?」

言われて答えられない。なぜって言われても……。
しかし、僕に構わずマナは言ってのける。

「簡単、答えは。あの子を独占してるから」
「うっ!?」
「要するに、あの子を取られたくないんでしょ」

……その通りだ。これでは自覚するしかない。

「殺し合いの約束になってしまったのは、たまたまその感情が殺戮衝動と結びついてしまったから。抱く感情が歪んだのもそのせい」
「…………ちょ、ちょっと待て。何で僕のことをそう詳しく知ってるんだ?」

あんまり会う事がないのに、どうしてマナはそこまで知っている? しかも心の動きまで。ゲンブには話したけど、他の人には何も言ってないのに。ちょっと怖くなって問うと、マナは口元にくすり、と笑みを浮かべ。

「何でもわかる、あなたのことなら」

言ってのけた。……もう、何か言いかえす気も起きない。しかし、マナは僕のことには頓着せず、そのまま続ける。

「……けど、本当にどうするの? 殺せる?」
「それは………」

………冷静に考えると難しい。衝動がなりを潜めた今になって思い返すと、それは実際問題、僕には出来そうもない。
しかしこうなると、僕の末路は決定してくる。これで僕はトキコを殺せなくなってしまったし、ほぼ確定だ。本当にそうせざるを得なくなったら、どうなるかはまだわからないけれど。
どうしたものか、と悩んでいると、またマナが言った。

「出来ないのなら、受け止めて」
「えっ?」
「殺し合うだけが繋がりじゃない。知っているはず、あなたは」

じっと目を見つめ、手を重ねて。

「まず、話を聞いてあげて。あの子に、嘘はつかないであげて」

そんなことを、真剣に言った。

「あなたは死んではいけない。ランカも、私も、悲しいから」
「マナ……」
「そして、忘れてはいけない。あなたを支えてくれる人が、あなたが『死なせたくない』人が、すぐ近くにいることを」




「…………ん……」

ウスワイヤ、ある一室。
眠り続けていた少女は、薄く目を開ける。

「ここは………?」


―――その日。夢は、覚めた。


余談。

「……スザク、そういえば学校は」
「………あっ!?」

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最終更新:2011年02月23日 22:37