「えーっと・・・・・・ハンバーグのライスセット一つに、メロンソーダ一つ」
「あいよ! ハンバーグのライスセット一つに、メロンソーダが一つだね! しかし珍しいねぇ、都がこの店に来るなんてさ?」
そう言って、俺の目の前にいる青髪の少女、夏香由衣は言った。
「しかも女連れとか・・・・・・何々、デート?」
「デートではないよ・・・・・・ただ単に一人で晩飯食うのも、何だか寂しいな、と思って」
「ふ~ん? ま、そういう事にしておくよ」
「そういう事にしておいて」
ナツカさんは、何やら意味ありげな表情を浮かべている。どうして女の子って、そういう話にもっていきたがるのかなぁ、とつくづく思う。まぁ、気にしても仕方がない。
「で? 相席の人は?」
「あ、私も一角君と同じやつで~」
「お、同じやつにするんだ~?」
「そ、同じやつ~♪」
「・・・・・・トキコ、頼むからあからさまに勘違いを招くような真似だけは止めてくれ・・・・・・」
流石に耐えかねてため息と共にそう言うと、俺の前に座っている少女は「え~? 勘違いされるって、何が~?」とさも楽しげに聞いてきた。
うぉのれ、小悪魔。スザクが手を焼くのも分かるってものだ。
「ではでは、ごゆっくり~」
ナツカさんはナツカさんで、意味含み全開な動作でその場を後にする・・・・・・「女は魔性の生き物」って言葉があるけど、うん。女性ってみんな、心に悪魔を飼ってんだな。
・・・・・・さて、何故俺とトキコがこのレストランにいるかと言えば、ちょっと前まで遡る。
この日、トキコが珍しく学校を休んだ。
何て事はない、クラスメイトの休み。けれども俺は、なぜだか彼女がその日休んだ事がひどく気にかかっていた。
その日の放課後、俺はバイクで街の中を走っていた。そして赤信号でバイクを止め、何気なく周りを見て驚いた。人混みの中に、今日休んだクラスメイトの姿があったんだ。
「よ、ズル休み」
バイクを路肩に止めて、俺はトキコに声をかけた。向こうは俺の事が全く視界に入っていなかったらしく、声をかけると驚きながらこちらを振り返った。
「一角君・・・・・・」
「どうやら、風邪ひいたとかじゃないみたいだな。ま、それが分かっただけ良かった」
「・・・・・・どうして、ここに?」
「偶然、偶然。バイクで走ってたら、人混みの中に見知った顔があるからさ、あれ? と思って」
「・・・・・・・・・・・・」
あ、あれ? なんか、いつもと比べて妙に静かだな。なんか調子狂う・・・・・・
「なんか、あったのか? 俺でよければ、相談に乗るけど」
「・・・・・・別に。何でもないよ」
これはもしや――不機嫌、なのか?
ただでさえ見た目が華奢で、行動も子どもっぽいところのあるトキコだが、その時の彼女は何だか幼い子供が拗ねてぐずっているような、そんな印象を俺に抱かせた。それに雰囲気も、何だか俺に対して警戒心が露わになっているというか、「近付くな」と言外に言ってきているように感じられる。普段の人懐っこいトキコの様子からは、考えられない姿だ。
どうしたものか・・・・・・そう悩んでいると、俺はある事を閃いた。まぁ閃いたというより、とある人物から借りただけなんだけど・・・・・・
「なぁトキコ、ご飯食べに行かないか?」
「え?」
「丁度いい時間だし、何なら俺のオゴリでもいい」
「どうだ?」、そう俺は話を持ちかける。トキコはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「よし、分かった。俺の後ろに乗りなよ、メットは貸すから」
俺が被っていたヘルメットを渡すと、トキコは静かにそれを受け取って頭に被った。俺のサイズに合わせてあるので彼女には少し大きかったみたいだが、取り敢えず問題はなかった。
かくして俺は、2ケツ、ノーヘルという重大な法律違反を犯しつつ、「店長」が勤めるウスワイヤ公認のレストランへと向かうのだった。
「・・・・・・ねぇ、何で一角君、一緒にご飯食べようなんて言い出したの?」
「んー?」
料理を食べ始めて数分。それまでずっと俺と会話しようとしなかったトキコが、不意に話しかけてきた。
顔を上げると、トキコは手を止めてじっとこちらを見つめている。口元についたソースが何だか愛らしいが、その一方で彼女が纏う雰囲気は俺に正体不明の重圧を押し掛けてくる。
その雰囲気の正体に、俺は覚えがあった。かつてトキコに「駄目な奴」扱いされた時、彼女が放っていたのと同じ雰囲気だ。あの時彼女は、「嘘を吐かれるのが自分は大嫌い」だと言っていた。つまりこの重圧は、「虚偽は許さない」という事なんだろう。
――まぁ、隠すつもりなんて全く無いけど。
「腹が膨れりゃ、腹なんか立ちっこない」
「え?」
「気が立ってる時は、腹一杯に飯を食うのが一番、って事・・・・・・なんかあったんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「別に俺は、それを聞く気なんかこれっぽっちもない。他人に話したくない事情を抱えた能力者なんかいくらでもいるし、その人本人が聞いて欲しいと言うまでは聞かない。それが俺達のスタンスだし、それが正しいものだと思ってるから」
「・・・・・・・・・・・・」
「けど、クラスメイトの機嫌が悪くて、仏頂面しているのを見るのは俺は嫌だ。どうせなら笑ってくれている方がいい。笑顔を見ている方が、こっちだって機嫌が良くなるからな」
だから俺は、トキコを食事に誘った。いつもニコニコしているこいつの笑顔が曇っているって事はきっと、ただ事ではない何かがあった筈なんだから。
・・・・・・まぁそれにしたって、こいつの機嫌直す手段が「飯を食わせる」ってのが、古典的過ぎて俺の頭の悪さを表しているかのようだけど。これしか思い浮かばなかったのだから、仕方がない。
「・・・・・・ふふふっ」
「ん?」
聞き違いかと思って顔を上げると、そこには笑みを浮かべたトキコがいた。
「やっぱり一角君って、駄目な人だねー」
「・・・・・・おいおい、人が心配してやったってのに、それはないんじゃないか?」
「私は全然へーきだったよ? それなのに一角君ったら、一角君の方が泣きそうな顔しているんだもん」
・・・・・・そんなに酷い顔をしていたのだろうか、俺は。確かにいつもと違うトキコの様子に怯みこそしたが、だからと言ってそこまでこいつの事を心配したわけじゃ――
「・・・・・・まぁ、いいか」
トキコが笑っている姿を見ていたら、そんな事どうでもよくなった。結果として、目的は果たせたわけだし。
「ゆいちゃん、オーダー! 今度はカレーライスね!」
「お、おいおい。そんなに頼んで大丈夫なのか?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ! だって一角君のオゴリなんでしょ?」
「あ゛」
しまった。そう言えば、レストランへ連れ出す口実にそんな事を言ったような、言ってなかったような・・・・・・
俺は視線を「店長」の方にむける。彼女は俺の言いたい事を即座に理解したようだったが、「諦めな」と首を振った。顔が思いっきり笑っている。あの様子じゃ、値引き交渉なんて聞いちゃくれないだろう。
「・・・・・・確かに、俺は駄目な奴だな」
先ほどまでの不機嫌さなど微塵とも感じさせない食べっぷりを見せるトキコを前に、俺は自分に言い聞かせるように呟いた。
最終更新:2011年02月24日 15:37