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人としての感情

店の中で直接その姿を見た彼女は、その驚きを隠せなかった。
当然だ。予測はしていたが、まさか直接赴いてくるとは思わなかったのだから。
アキヒロさん…。」
「久しぶりだな、亜音。」

KEAから全部聞いたんですね。」
「報告が義務だからな。いくら縁が強くとも、仕方のないことだろう。」
「…。」
誰もいない店内には、二人の声だけが響く。
湯気の立つコーヒーに二人とも手をつけず、互いの顔をじっと見つめていた。

「今回暴れたことは大目に見よう。自己防衛だった上に周りに被害は出してないからな。」
「…別にその件に関しては、責任をとる気満々でしたよ、私は。」
心理戦であるかのように、慎重に言葉を紡いでいく。
しかし、焦らす気はアキヒロにはなかったようだった。

「しかし、能力者を今まで内緒でかくまっていたらしいじゃないか。」
「…できれば、そちらを見逃してほしかったんですけどね…。」
平日の午前中。由衣たちは高校、奏は中学だ。
今この場に乗り込んで来られても、能力者は自分しかいない。
それが救いだと、彼女は心底ほっとしていた。

「能力者は発見次第報告、保護。ケイイチが決めたしきたりを、破るというのか?」
「破るとまではいきませんよ。現にそう、「保護」はしてるんですから。」
「報告もなしにか?お前みたいなやつが?」
「ええ。」

張りつめた空気は一向に崩れることがなく、外のものを寄せ付けないほどである。
「…とにかく、これ以上報告がなければ、強制的に乗り込んでもいいんだからな。」
アキヒロはそう言い、立ち上がろうとした。
しかし。

「…貴方、由衣たちをその辺の能力者と同じにしてませんか?」

その一言に、アキヒロの足が止まった。
怯むことなく、亜音は威圧するように言っていく。
「乃亜と乃流は私の弟です。由衣も奏も、血こそつながってませんが私は兄弟のように接しています。その縁を、貴方は断ち切ろうというのですか?」
「…。」
「私はこの出会いも、そしてあの「別れ」さえも、運命だと感じています。その運命に、私は従いたいのです。」
「…運命とはいえ規則h」
「貴方、そんなに融通ききませんでしたっけ?」

振り向かないアキヒロの背を、亜音は睨みつけた。
「報告ならして差し上げますよ。ただ、あの子たちを保護するのは私です。あの子たちの「平凡」を保証するのは、私です。異論があるのなら、例え貴方が相手でも、私は相手しますよ。」
心からの思いを、彼女はその背にぶつけた。
いや、逆に、信頼できるアキヒロだから、彼女はぶつけられたのかもしれない。

アキヒロはため息をついて振り返った。
その眼には、先程の真剣な色味はなかった。
「…明日、週末だろう?その間に報告と登録に来い。そこで正式に、保護の指令を下そう。」
「!」
亜音は立ち上がった。アキヒロはふっと笑う。
「明日中だ。必ず連れてこい。いいな?」
「…はい!」

一般人の平凡を守るウスワイヤ。
能力者の平凡を願った店長。
相容れない二つが同じ世界に入れるのは。

人としての感情のおかげかもしれない。

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最終更新:2011年02月28日 23:57