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転校生(仮)

――――姉様。
姉様がいなくなってから、15年が経ちました。
気付けばわたくしも17。あの時は2歳の幼子でしたけれど、あの時以来の寂しさは今でも残っております。手掛かりはひとつ。「火波 綾音」という、姉様の名前だけ。
それだけではどうにもならず、父様も母様も、もうおりません。
会いたくて、会いたくて、でもどうしようもない日々。埋まらない寂しさを抱えたまま、わたくしは毎日を過ごしておりました。今どこにいるのか、どうしていらっしゃるのか。不安で不安で、仕方が在りませんでした。

そんな折に飛び込んで来た、姉様の無事の知らせ。

齎してくれたのは、夜を纏った、不思議な女の子。それを聞いた時、どれほど心が躍ったことか!
そして、望外の幸運が飛び込んできました。泊まりがけで旅行に行った時、同じ宿で姉様とお会いできたのです。姉様はわたくしの事を忘れておりましたけど、とても嬉しかったです。忘れられているのは仕方がありません、15年ぶりですもの。
――――本当を言うと、鳳凰の眷族達のせいでもある、ともわかっておりました。あの女の子から、すべて聞いておりましたから。

ああ、姉様。どうして、あなたにばかり不幸が襲いかかるのですか? 叶う事ならば、わたくしがその全てを背負って差し上げたい。

でも、懊悩はもう終わり。姉様。姉様。わたくしの綾音姉様。今、会いに参ります。




「―――いかん。連絡を忘れていたな、そう言えば」

某所。ホウオウに出くわした数日後、俺は失敗に気付いていた。ノルン・ノアの処理を一任された事を、他の面子にまだ伝えていなかったのだ。それを、この間起こった戦闘騒ぎで思い出したのだ。

「だが……」

正直、伝えなくても同じようなことの気がする。実際、自分だけではどうしようもないのは確かだし。

「とはいえ、連絡しない理由にもならんな」

思い、携帯を取り出してかける。番号を打つのが面倒だったので、一番新しい履歴にかける。何回かのコール音の後、通話が繋がった。

『何ですか、クロウ

相手はゼアだ。この間、俺に任務を振って来た本人である。

「ノルンとノアの件だが」
『相変わらず耳が速いですね。ええ、失敗しましたが何か?』

妙に苛立っている。だが、あいにく自分の用事はそこではない。

「いや、任務の件だ」
『ほう? 蹴ったのはあなたではありませんか』
「そうだが、あの後総帥にお会いしてな」

総帥の名を出した途端、向こうの空気が変わるのがわかった。やはり、グループにとって総帥は別格だ。

『……ホウオウ様は何と?』
「ノルンとノアの件、俺に一任された」
『………あなたにですか? グループ一の暇人であるあなたに?』
「信じられんかも知れんが事実だ。確認しても構わん」
『……いえ、信じましょう。それで? 一任された以上あなたがこの件の責任者です。指示は何か?』

グループの一員としての顔が表に出、きびきびと動きだしているのが理解できた。まったく、良くも悪くも、奴もホウオウグループか。

「目撃情報は基本的に信用するな。偽情報の可能性が高い。現状奴らはアースセイバーの保護下にいる、手出しは難しいと言わざるを得ない。それは、先の一件でわかっているだろう」
『ふむ』
「そこで、だ。連中の件、基本的に俺に任せてはくれんか? 直接手を出しても勝機は薄いが、任された以上仕事はする。人員が必要なら連絡する」
『……了解しました。ですが、こちらも静観ばかりではありません。機あらば、こちらも動きます』
「了解した。ではな」





通話を切り、さて、と息をつく。「イントルーダー」の防御が効かないノルンと、致命打を与えられないノア。しかも、アースセイバーの強者が近くにいる。
これは、俺個人ではいかんともしがたい。とはいえ、ゼアや狂夜、スキュアロウなどを動かしては、アースセイバーの思うつぼだ。というか、そもそも抹殺の目的はアースセイバーへの合流阻止。合流された今から手を出してもリスクの方が大き過ぎる。

「ムムムムムムム…………ッ」

さて、どうしたものか。我らが「合理化」のためならば、犠牲などいくら払ってもかまわんが……今はさすがに時期が早い。
看過するわけにもいかんが、ファスネイやジルのような事例もある。ノルンとノアの場合も、それと同じと考えた方がよいだろう。決して、奴らから助けた借りを返してもら

っていないから、それを返してもらうまで死なれては困るわけではない。

(……しばらくは様子見か。まったく、世の中ままならんな)

心中でため息をつき、踵を返す。



「あら……初めまして、鴉さん」



「ッ!?」

突然背後から声をかけられ、振り向く。その先にいたのは、

火波 スザク………!?」

いかせのごれ高校の制服を着た、白い髪の少女。だが、

「……違うな。誰だ?」
「スザク……? そう。姉様は、今はそう名乗ってらっしゃるのですね」
「姉様、だと? 何者だ」

そうですわね、と少女は言い。

「それに倣って……わたくしのことは、『火波 アオイ』と呼んでくださいな」
「倣ってと言う事はつまり『梧桐』……中国の思想において、瑞兆である四霊のひとつ『鳳凰』……その止まり木か。総帥の下にいるということか?」
「ふふっ、ご冗談を。誰があのような外道に」
「っ!!」

怒りのままに懐から拳銃を抜き、発砲する。が、

「あら、怖い」

弾丸が消えた。どこにもない。跳弾したわけでも、外したわけでも、防がれたわけでもない。少女が何かの能力を使った様子もなかった。
何が起きた?

「何をした……!? なぜ弾が消えた!」
「あらあら、見当違いの質問ですわね。あなた、銃など持っていらっしゃらないでしょう?」
「!?」

言われて手を見て――――凍りついた。持っていたはずの拳銃が―――ない。

「な…………!?」
「ふふふ……」

可笑しげに、少女が嗤う。俺は怒るよりも、ただ凍りついていた。言葉が出ない。なんだ。なにが起きた。

「眼力を鍛えて出直してらっしゃいな。それでは、ごきげんよう」

言って少女が会釈するとともに、その姿が風景に溶けるように消えた。
残された俺は、ただ呆然とするしかなかった。






「……転校生? こんな時期に?」
「らしい。どこからかは聞いてないけどな」

とある日。いつものように遅刻しそうになりながら登校した僕は、シスイからそんな話を聞いていた。何でも、今日転校生がこのクラスに来るらしい。どうしてもこのクラスがいい、と無理を通したらしいが、何か理由が在るのだろうか?

「1組は個性的だからな、色々と」
「いや……こっちもこっちで、相当にカオスな気がするんだけど」

口には出せないが、ホウオウグループにアースセイバー、未登録の能力者に一般人。これだけ混在している空間も珍しい気がする。

「違いないな。さておき、どんな人だろうな、スザク」
「さあな……っと、来たぞ」

聞きなれたチャイムと共に、担任が入って来る。ガタガタと席につく僕達の前で、教壇に立った担任が言う。

「えー、おはよう。既に聞いている人もいると思うが、転校生がいる」

にわかにざわつく教室。やはり、学生にとっては気になる話題だろう。

「入ってくれ」

その言葉とともに、入口が開いて、「転校生」が入って来る。が、その姿を見て僕は凍りついた。いや、僕だけではない、クラス全員が呆気に取られていた。

「な……」
「あ、あれは……」

そして、「転校生」が口を開く。



「皆様、初めまして。『火波 アオイ』と申します。よろしくお願い致しますわ」



僕と同じ姿の少女―――アオイは、顔を上げて僕を見つけると、

「お久し振りです、綾……いえ、スザク姉様」

そう言って、とても嬉しそうに微笑んだ。

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最終更新:2011年09月26日 21:14