「close」の看板がぶら下がるドアを背にロゼは悩んでいた。
彼女は普段は
ホウオウグループの下級幹部だが、
休暇の際にはこの隠れ家ともいえるバーで一般人同様に経営をし、
一般の人間から彼女の能力、アイコンタクトを使い、
目が合った人間からあらゆる情報を盗み、手に入れる。
それは敵対するウスワイヤに関する物から
ホウオウグループのメンバー一人一人の忠誠心までと幅広い。
その為、それらを正確に、忠実にまとめて不定期にホウオウ様に伝える。
それが裏側での彼女の役目だ。
だが今日はいつもと異なり、
疑問をあの方にぶつけてしまったのである。
火波アオイに関する情報を伝える際に
「なぜ始末せずに今でも泳がせ続けているのです?」
という率直な言葉を問いかけたのだ。
それに対し、あのお方は
「あいつはこれと同じということだ」
そう言い放ち、いつものように立ち去ったのだ。
これ、というのはカウンターの隅に
今も置かれたままの「ブルーアイズブルー」
ホウオウ様がこちらでよくオーダーするカクテルだ。
しかし手に取る事はなく、ただ眺めるだけ。
そして一切口にする事なくそのまま立ち去るのがあの方の主流だ。
今まではその行動に疑問を感じる事がなかった・・が。
何か意味があるというのだろうか?
放置は単なる余興だというのか?
ホウオウ様はいったい何を・・・いや、これ以上はよそう。
あのお方からの謎かけとはいえ、
考えを完全に理解しようとするとは何という傲慢。
それに、そうだ。
火波アオイには私の能力は効かないのだった。
ロゼは無表情のまま自問自答を続けた。
私が忠誠心の薄い
クロウや裏切り者のノア、
ノルンよりも
先に彼女を注視したのはなぜ?
私は自らの能力に溺れ、無意識に能力の効かない彼女を恐れていたというのか?
そして早期排除をあの方に委ねていたというのかっ・・・!
あぁ!私とした事が何ておろかなことをっ!!!
結局、私の今回の行動一つで
ホウオウ様の一時の安らぎを台無しにしてしまったのだ。
今後気をつけなくては・・っ
悔しそうに眉間に一つしわを寄せたロゼは慣れた手つきでグラスを手に取り、
透き通ったその青い液体を流しに捨てた。
それと同時に「にわとこ」の独特な花の香りがカウンターに漂う。
そういえば、とふと気づく。
この花の由来は確か・・・・
・・・・・・あぁ。
そういう事だったのか。
相手は牙をむいているというのに
同情しているとは何てお心の広いお方なのだろう。
しかし・・・何ということだ。
あのお方はまだ、
「あの裏切り者」を思い続けているというのか・・っ。
ロゼは思いを振り切るように勢いよく蛇口を回した。
そして流れる大量の水が、あの憎き瞳と髪の色に良く似た青色を
排水溝という闇へと流れていく様を睨み付けるのだった。
最終更新:2011年03月05日 01:31