うきうき、るんるん
今日はスイネちゃんとのデート!…なんて言ったらスイネちゃんに怒られてしまうかもしれないけれど、二人っきりで遊びにいくだなんてデート以外の何者でもないよ。うん
待ち合わせのオープンカフェでスイネちゃんを待つ。先に注文したレモンティーをじゅるじゅるストローで吸い込んでいると、何やら目立つ少女が向かい側からやってきた
あの空色のショートヘアーは、紛れもなく私の今日のデートのお相手、その人だ
『スイネちゃーん!こっちだよ!』
『…!トキコ…!』
急いで私に駆け寄ると、遅れてごめんと謝られた。対して走ってもいないのに、顔は真っ赤に染まっていて、その…と口ごもって、スカートをぴらりと指で摘まんだ
『わたし、慣れてないのこういうの。変じゃない?』
『まっさかあ!天使かと思っちゃったんですけど!』
『それは、いい過ぎだよ。』
『まぁ、座ってよ。なにか飲もう!』
『えっと、じゃあわたしカフェラテで』
しばらくして暖かいカフェラテが運ばれてきて、スイネちゃんがそれに口をつけると、ようやく人心地をつけたようにふぅとため息をついた
『もう3月ね。いかせのごれは随分暖かくなってきた』
『今日は特にあったかいね。スカートでばっちしだよ!で、今日は買い物ってことなんだけど、何か欲しいものがあったりするの?』
『え、あの。うん…』
顔を真っ赤にそめて俯いたスイネは、普段の大人びたそれではなく、恋する少女のそれに似ていた
『ほら、
タカユキ君。誕生日近いじゃない。ひとりで買い物なんてしたことないし、だからその』
『わわわー、そっか。スイネちゃんタカさんが好きなんだもんねっ』
『す…き?』
先程とは一転して、悲しげに瞼を伏せた
よくわからない。と言うスイネちゃんの口許は微かに震えている
『わたしは、誰かをすきになる資格、ないと思うわ。…執着するってことじゃない、それ。離れがたくなってしまう。それにわたしは、もう…』
『なんで?執着することは悪いことじゃないよ。』
『トキコ…?』
『現に私は、いろんな人たちに執着して生きてるもん!そういうものじゃないの?』
『…時折、トキコが羨ましく感じるわ』
『そう?………でもさ、例えばスイネちゃんは、
ケイイチといるときにはすごく寂しくて切ない顔、してるよ』
『……!』
バッと顔をあげて瞳を揺らがせたスイネちゃんは、図星ですという顔をして狼狽えていた。どうやら的確にスイネちゃんの突かれたくない場所を突いてしまったらしい
『あ…ごめんね』
『い、いいのよ』
『でもさ、タカさんといるときは、すごく嬉しそうに、楽しそうに笑ってるよ。』
『…え』
『気づいてない?』
にっこり笑うと、スイネちゃんは戸惑いながらも、ゆるやかに笑ってくれた
これはなかなか頑固だな。スイネちゃんは
早く気がつけたらきっと楽なのに
『大丈夫だよ!スイネちゃん。怖がる必要なんて無いし!』
『ありがとう、トキコ』
『いーえ!ははっ。じゃー買い物にいきましょーか、タカさんのプレゼント買わなきゃだもんね』
『う、うん』
スイネちゃんの手を引いて商店街に向かうと、スイネちゃんは照れながらもぎゅっと握り返してくれた
スイネちゃんは、シルバーアクセサリー専門店で足を止めて、ネックレスやブレスレットを見ていた
装飾品のことはよくわからないけど、変に宝石がじゃらじゃらついたものや、革のチョーカーとかよりは、シルバーの鋭い輝きは確かにタカさんによく似合いそうだ
『そういえば、スイネちゃん』
『んー…なに?』
真剣に品定めしているスイネちゃんに話しかけると、生返事が帰ってきた。
構わずに続ける
『この間のタカさんとのデート、どこに行ったの?』
じゃらっ
スイネちゃんの手のひらからブレスレットを置くトレイにシルバーアクセサリーが滑り落ちた
スイネちゃんの顔は真っ赤で、わなわなと震えている
いや、どうしたよ
『で、で、デートなんて、そんなんじゃ…!』
『どっちから誘ったの?』
『…………タカユキ君』
『それ、どう考えてもデートじゃ』
『ち、違うわよ!』
店員さんが、スイネちゃんを若干白い目で見つめている
スイネちゃんらしくもないこの慌てよう
なにかあるなと踏んでしつこくどこに出掛けたのかを問いただす
『で?どこに行ったんだってばあ』
『…おうち』
『ん?』
『………タカユキ君の、おうち』
『ヒニン、した?』
『!?!?』
今度こそ口をぱくぱくして目を見開いたスイネちゃんは、ものすごい勢いで私の首を締めてきた
『うぐえー!!痛いよぅー!!』
『ちちち、違う!!そんな、ことしてないし、第一、あれは事故で別にそんなつもりじゃ!!』
『事故?』
『!!!』
スイネちゃんは、ふしゅー、と息を吐いて私の首から手を離して。綺麗にイニシャルの掘られたクロスのシルバーネックレスを会計して包装してもらっていた
そのまま店を出てアスファルトの歩道を歩く
無言で
『あのー、スイネちゃん?』
『何よ…笑いたければ笑いなさいよ…』
『あはははははは!!』
『笑うな!!』
笑えって言ったから笑ったのに、なんて理不尽な
むくれているスイネちゃんのほっぺたをつついて、『お洋服買いにいこう!』と呼び掛けると。またあの困ったような笑みを私に向けた。こんなにきれいで可愛いのに、なんでそんなに自分に自信がないんだろう
。
『…今日は楽しかったわ』
『そう見えないけどね。その疲れきった表情』
『まさか。助かったよ、トキコ』
スイネちゃんがにこりと笑って、買ったばかりのタカさんへのプレゼントを大事そうに胸に抱き締めて帰っていった
赤く染まっていく空はとてもきれいで。その赤にみいっていると、なぜだか脳裏には私を真剣に見つめる鳥さんが浮かんだ
ちくり、とうずく胸
なんでスイネちゃんと鳥さんを重ねてしまったのだろう。
鳥さんとスイネちゃんに、似通った場所なんて無いはずなのに
『…変なの』
まぁーいーや、と明るく笑って帰路につく
スイネちゃん、プレゼント渡せたらいいなぁ
仮初め幸福感
(この時から遥か未来に)
(スイネちゃんが)
(トキコが)
(お互いに最も憎み合うべき対象だと知る)
最終更新:2011年03月07日 21:35